熾烈なる戦嬢 Ⅴ
それはーー想定していなかった事態であった。
ドゴォォォォーー!
(崩落音?)
彼女も、手勢たちも、周囲を見渡す。近いか遠いかだけでは不十分である。この迷宮の進路は真っ直ぐな一本道では決して無いのだから。
生き埋めの対策なんてしていない。手勢のできること全てを把握している訳でもない。行き当たりばったりでもある程度何とかできるだろうが、練習や訓練や準備の無い、出たとこ勝負になる。
生来の無鉄砲さと勢い任せ、そして、経験の無さが響いたのである。彼女には冒険の経験も、手勢を率いての本格的な探索や行軍の経験も、今回の件が初めてなのだから。
手勢の男の1人が、水晶玉を生成し、浮かべる。そう。遠見である。ある程度の距離と障害物を無視し、対策を施されていなければ、見ることができる。
その男は、彼女の前に立ち、片膝をつき、片手に手にしたそれを差し出し捧げるかのように、見せる。頭まで垂れて。
彼女は、冷たい汗を流しつつ、鮮明に映し出されてゆく光景に、目を疑った。
(戦って、いる? 灰色の巨人たち同士が、二つの勢力に分かれて……?)
勢力という程ではない。二対三である。地面に灰色の砂が薄くであるが広く積もっていることから、幾らかは灰へと還ったのだろう。灰の量からして、最初の時点でのこいつらの数も、たかが知れている。そもそもだ。ここは広いとはいえ、自分たちの人数程も、アレらは一部屋に存在できない。体積からして、収まりきらないからだ。
本当にーーそうか……?
だって、全員が一度に部屋に入る必要なんて無い。それに、自分たちがやったように、隊を分けた可能性だってある。最も厄介なのは、こいつらの陣営が二つ以上に分かれているとして、こちらからは見分けがつかないということだ。
いや、そもそも……。全部敵じゃあないか。区別なんてつける必要あるか? そもそも、向こうから交渉なり、味方としてこちらに付くそぶりしてきたり、そもそも、意思疎通ができるそぶりをしてきたことはあったか? 無いじゃないか!
全部悉く打ち砕いていけばいい。こいつらが意思疎通できようが、一枚岩で無かろうが、この世界に突然現れた侵略種に他ならないのだから!
「よぉし。わかったわ。進むわよ! あいつらのところまで。その頃には数も更に減ってるでしょうし、私たちはこうやって、敵の存在を知っている。敵は、ただの内ゲバをやってるだけのつもり。すこぶる優位よ、私たちは! 継戦は考えなくていい。出会い頭に潰せるように。道中は、一応静かに。その辺り、あんたたちは弁えてくれるって信じてるけどね!」
そう、仁王立ちして、無い胸を張って、彼女は自身の思考を曝け出しながら、手勢を鼓舞する。
「ですがそれでは……。これ以上、この領地の戦線を広げるようなことになっては……」
男の一人がそう、言い放って言い淀む。相当強い反発の感情を抱いたということだ。そして、それを口にするとが不興を買うと恐れているのだ。
舐めてくれるな! と言ってやりたい。だが、自身から漏れ出る能力がそれを許さない。こちらの態度と、雰囲気が相反するからだ。
だから、嫌いなのだこの能力は。人間という名の生物である以上、生物として備わる本能に完全に逆らうなんてとはできはしない。
ましてや、自分ではなく、彼らにそれを求めるのは傲慢が過ぎる。だから、
「このままとんぼ帰りして、手遅れになったらどうするのよ。明らかにここには何かあるのよ? 私たち以外にこの迷宮に存在するというのがその証拠じゃあないの。今の私たちの行動がリスクであるのは分かってるわ。覚悟だってしてる。ねぇ、正直さ、私たちっていうか、この領地って、ジリ貧に陥っているのだと思う。ギリギリ、保っている。押し返しできるようにはなってるけど、主要な人物一人でも欠けたら、そこから崩れて、雪崩込まれるわよ? 守るだけになったらもう、実質負けよ? だって、相手の総数すら私たちは分からないんだから」
更に明かした。一人、二人、と、崩れ落ちる。彼らは自分と同じく学生であり、家による、上に立つ者としての教育の施され具合や完成度はだいぶまばらだ。
流石に、領主級はこの中に一人もいない。スペアか、スペアのスペア。それか、継ぐものはなくて、魔法使いとしてどこかに仕官するしかないという末端くらい。個としての魔法使いとしての質はいいけれども、それ位である。あと、人格がまとも、で、そんな人として世間というものからも貴族というものからもズレてない位か。
自分のこの忌まわしい力が彼らに働いていなかったら、実家であったり、目についた困ってる人を助けたり、魔法使いも抱えてるタイプの騎士団に合流したりしてただろう。こんなところまで、こんな数、ついてきてくれはしなかっただろう。
それが分かっているからこそ、無駄死にだけはさせられない。誰も彼も無事でとはいかないだろうけれども、それでも、彼らに報いなければならない。せめて、手柄の一つや二つ、持ち帰らせてやらねば、事態が終結した後の、彼らの行く末はどうなる?
自分は領主候補でも何でもないのだ。彼ら全てを召し抱えるなんてことはできない。深く魅了してしまっている者達だけですらも。ましてや、浅い魅了や自由意志を残さぬ形で魅了してしまっている者たちなんて、もう……。
「どうしても、というのなら、上の連中と連携して帰り道を。それか、行き止まりの分岐じゃない、これまで進んできた道に立って、哨戒でもしてて。こんな場所まで来てしまっては、帰還させることすら自在じゃあないのだし」
現状でき得る限りの選択肢を手勢達に与え、彼女は再び先導を始めた。誰も、離脱していなかった。彼女の見る目は確かであった。彼らは、自分の能力の影響下であろうとも、心を抱いていられる、彼女にとっての精鋭である。




