熾烈なる戦嬢 Ⅱ
出現地点に変化はない。
男たちは周囲を見渡す。彼女は、せわしなく動き回り、更に遠くを見渡す。その極まった視力で捉える。
(また少し、近くなっている。突然現れた、城壁のような砦。あんな無茶苦茶、アセビ義姉様に決まってる)
頼りない方の兄についた、出来過ぎた女性のことを、彼女は思い浮かべた。
「みんな、整列!」
さっさっすっ。
男たちは彼女の前に並んだ。
「このままじゃあ、私たちの手柄、奪われちゃうわよ! 本軍が、ここまで来ちゃう! そうなったら、私たち役立たずよ!」
そう、発破をかける。
それによって、彼らは焦りと申し訳なさを浮かべる。が。誰も、彼女の望む反応をしない。
意見を出さないのである。
彼女の魅了は二種類ある。
魔法としての即効性のある、魅了。そして、意図してかけずとも、彼女の傍にいるだけで徐々に苛み、浸透する、遅効性かつ、薄弱なる自由意思を残す、魅了。
彼女のそれが、場の男たちには、後者の形で影響を強く及ぼし終えた後であった。前者で魅了できず、レジストされた者たちばかり連れてきたというのに、まあ、当然こうなる。
彼女は自身の魔法を研究するという発想も、解析するという頭も、ならば誰かに依頼しようという外注も、思い至らなかったから。
彼女の親族の誰も、首を突っ込まなかった。母親含めて。
誰もが分かっていたからだ。自覚させてしまい、動き出されてしまえば最後。間違いなくこの子は家を割る、と。
真なる自身の手勢を、勢力を築き、何処かへそれらごと行ってしまうと――
「あっちね、今日は」
そう、びしっ、と足を開いて立って、彼女は自信たっぷりに指差す。ウィル・オ・領の方向とは当然の如く異なっている。だが、前日とも違う方向を指し示している。ウィル・オ・領の方向は分かっているのだから、そうであるということはすぐ分かる。
彼女に付き従う彼らはそれに関して、形だけの疑問すら口にしない。必要が無いからだ。彼女の感覚は鋭い。こういった勘は外さないのである。
彼女たちは、灰の砂漠を進んでいく。
器用に魔法を行使し、足裏に板状に魔力を展開し、その上に乗った砂は残さないように下方向へ素通しさせる。故に、走行は難しくとも、歩行は容易かった。
『こうすればいいんじゃない?』
そう、彼女が思いつきで展開した、穴が無いとは言わないが、低消費、高効率な魔法である。属性の色すら問わない。気軽な魔法である。
本来、魔法なんてもの、実用可能な形で、そうやってポンポンと思いついて形にできるものでないというのは、魔法使いたちの間でも常識であるのだが……。
そうして、彼女の勘の赴くままに進み続けて、今日も現れる。
「みんな、旋回! デカブツなんだから、脚よ脚! ゴーレムっていうことは、上は丈夫に決まってんだから!」
それは、家一軒ほどの大きさのある、灰色煉瓦でできた、デカい図体に、ひょろ長い多腕と多脚を持つゴーレムであった。
ここは灰色砂の砂漠であり、故に、このサイズで人型というのはどだい無理なのだろう。
そして、こんなものが、こんな場所に現れるのは、向こう、件の前線に現れていないというのは、今日も一応の当たりを引いたということだ。
散り散りになったとはいえ、実のところ、距離をとって囲むように立ち回る彼らは、振るわれる多腕を避けたり、魔法の障壁で受け流したり、逆に魔法を刃やビームのように飛ばして斬り飛ばしたり、彼女の言った通りではないが、微妙に寄り添った対応を行っていた。行えていた。
確かに。実力者である。判断もできている。彼女の言が無茶だと、彼らの中に残る理性が判断し、できる範囲でやっているのである。これでも――ブーストは効いている。それでこのざまなのだ。この世界最高の魔法学園の上澄みの現役生徒であっても、この程度なのだ。
あの十把一絡げで選んだとしても全てが化け物の域な【始まりの園】の者たちとは比較にもならない。
減った腕。落ちた腕。それらは、灰とかえる。その場で動き出すことはないということを、彼女は把握する。
だが、ゴーレムから腕は失った分、しばらくしたら生えてくる。寧ろ、増えているようにも見える。元から数百あったから、確証は持てないが、何だか増えてる気がしてる。
脚の数には変化が無いように見える。一本も欠損させられていないから、かもしれない。
(長くなると拙いかもしれないわね)
にぎゅっぅぅぅ、ブチィィ!
自身の左右のツインテールを引きちぎった。込めた魔力。迸る陽光のような魔力。二つの毛束の両端から、迸るように。
ブゥオゥウウンンンンンン!
毛束を持った両手をクロスさせ、外側へ放つように横投げた。
弧を描くように飛んでいったそれの片方は、ゴーレムの腕数十本による受けによって、地面に沈んだが、それらの腕は千切れたりひしゃげたりして、どれもこれも使えなくなった上、千切れた分も断面も、陽光の如く魔力で覆われて、灰に還ることも、生えることもできない。
もう片方は、彼女の狙い通り、通った。
片方の側の脚を悉く、別ったのだから。そして、腕の方に与えたのと同じ阻害効果を発揮し、与えている。
「しゃあ! フクロにするわよ! はぁぁっ!」
と、脚の方をやった方が手元に戻ってきたので、それを再度、魔力を込めて投擲する。狙いは、今度は、脚ではなく、残る腕。反撃の手を減らすのである。そうすれば。ボディーに、彼らの攻撃が、数の暴力が炸裂する。
こいつらは、脆く、崩れることを前提として動いている。だから。固くはないのである。再生するのだから。けれど、ある損益分岐点を越えて、大半が崩れた状態となると、再生しない。その全身が灰にかえるのである。
ほら。
こんな風に。
腕は数本しか残らず、脚は、更に手元に戻ってきた、地面に落とされた方を再投擲した彼女の一撃で、残り半分も根こそぎもっていかれ、もう、実質ダルマであった。そんな状態で、胴体が半壊したのだから――
ブゥオゥ、
衝撃波を発し、
ザァァァァーー
残る全て、灰にかえっていった。彼女によって陽光の魔力を塗りつけられた切り落としも同様に。




