地下洞大多環 Ⅴ
堰を切ったかのように、情報が放出される。
既に言われていることもある。知らぬことも多分にある。
検証もできない。
契約か、この世界単位の法則か。
本当か嘘か推測か事実か。
口にした本人すら分かっていないのかもしれない。会話の流れからして、既に出ていないといけない情報も多分に混ざっている。
マキナートルは、焦燥だけではなく、ぐちゃぐちゃ、だったのかもしれない。作為もくそもなく、当の本人が情報に弄されているかの如く。
「王族は、王が決まれば、兄弟姉妹は、消滅する。死じゃあないんだ。名を付けることで市井に下る訳でもない。人知れず、消滅するんだよ」
「まず前提なんだけど、僕は産まれたとき、少なくとも一度、死んでいる。死産だった、のかもしれない。それか、一度死に触れて勝手に戻ってきたのか。母なる存在の手によって蘇らせられたのか。少なくとも、王は僕を助けてはいないだろうことは分かる。無理なんだよ。そういうことはできない。王であっても。王女であっても。手を出せるのは、王配、もしくは、王族ではない者」
「兎も角、この、死ぬということが鍵なんだよ。僕は恐らく、生まれながらに、半ば王族としての縛りから逃れていたんだと思う。王族にだけ名前が無いことに対する疑問。少なくとも、僕以外の現存の王族に、それを疑問に思った者は存在しない」
「疑問にさえ思わない。そういうものだから。他の王族にすら肌を晒さない。そういうものだから。第何王子。第何王女。僕らの呼び名はそれであり、積み上げた功績も、その名にのみ紐づけられる。標識はされている。でも、それ以外に僕らを区別するものはない」
「外から見て、区別つかす見えて。それでいて。人々は何故か、間違うことなく、認識する。僕が、彼が、彼女が、第何なのかを。こちらから言わずとも。勝手に。誰も彼もが魔力を読める訳じゃあない。気配なんてなおさらだ。つまるところ、そこだ。王族とは、何なのか。マキナ、だよ。生きたマキナ」
「で。そこの女なんだけど。多分混ざってる。そういう形になって。意識も記憶も混沌に満ちて、カタチをとらない」
「第一王女他、色々が混ざったんだと思う。面倒なのは、王族、という縛りだ。どこからどこまでだ? 前代は問題なく消えるとして。前代が残した次代は? 記録も記憶も残らないのに? やけになったか、放蕩に走ったか。それか、前王自身が」
「どう思う?」
そこで、口が止まる。
二人は答えるべきか迷った。
だってこの問いが、マキナートル自体の要望(希望)から出たものか、流れとして機構として必要なものとして出た選択肢なのかの判断がつかないから。前者であれば、好きに答えて問題ない。後者だった場合がややこしい。
二人が心配していること。
それは、これがある種の儀式の導線を踏んでいる可能性。マキナートル自体の自意識、記憶、認識に現状、どれほどの信頼性が置けるかは分からない。流石にここまできて、本人の意思無き純然たる傀儡という可能性は無いが、そういった不純物が混ざっている、混ぜ込まれている、埋め込まれている可能性は否定できない訳で。
見せられている焦りが、その可能性は無視していいものではないと証明しているかのようでもあって。
「そういう生態? 役割と言うか。概念? 型? 役割? ボクはこう思ったよ。この世界において、王族というのは、魔女、のようなある種の強制力に支配される肩書なんじゃあないか、って。でも、そうだとしたら、キミ自体が大きなノイズなんだよね、マキナートルさん」
生唾を飲み込みながら、たたらはつつくことを選んだ。
無言で、顎をくいっと。マキナートルは返答するのではなく、黒亜にも意見を求めた。
「王族という機構。お前はそこから半ば外れた。だが、半分は属しているともいえる訳だ。その根拠は何だ? お前は今、何をさせられている? それとも、解放された後、か?」
黒亜は最初に立ち戻る。マキナートルとのこの場での遭遇という最初へ。要するに何が言いたいのだという意思表示である。そして、言えないのなら、遠回りの理由ぐらい仄めかせと。少なくとも、現状の意思表示ではこちらが何かを汲み取るには足らないと。せめて。方向性くらいは示せと。
「二人ともさぁ……。疑問へ疑問で返すなよ……、ま、それでも問題ないんだけど。その結果が、コレ、だよ」
マキナートルは椅子の女を指差す。
たたらはただ戸惑う。それは仕方のないことだ。元よりこの男と初対面である彼女には、こいつらからこそ、どうだ、という種類の読みは使えないのだから。
逆にそれができる黒亜は考え込む。
(どうして、お前の話からまた逸れた? すべきはお前の話だろう? お前自体がこの場での不確定要素で、不穏要素なのだから。……違う、のか……? もう、終わった話ということか? お前自体のことは。それを信じるならば、この女に何かすべき、ということになるが)
「今回は、ひとつに固まって取り込まれた。これにも名前をあげたら、何か変わるかもしれないけど。おっと、やめておくれよ。人格がまともな人間のカタチをしてるかも分からないんだ。いきなり死闘が始まる可能性だってある。これは奇しくも、大精霊の人工的な作り方であるとある邪法と似ている」
仮の答えらしいものがお出しされた。そして、それを満たすための準備、条件が埋もれているということも。失敗したら不味いことになりそうだと。
そして、恐らく、時間に制限も存在する。はっきりした長さは分からないが、恐らくそう長くはない。
「ねぇ、キミはどうしたいんだい? キミの名前を決めるよう、キミの兄弟に言われたんだけどさ。ボクらはキミのことを何も知らない。教えても貰えないしさ。だからキミ自身に聞くしかない。聞こえてる? ね~」
つんつん。その女の頬をたたらはつつくが、反応はかえってこない。
たたらは土塊の椅子へよじ登って、女に語り掛けるという大胆な行動に走り始めたのだが、黒亜とマキナートルは止めなかった。
二人は距離をとって、構えている。
たたら自体の行動へは賛成しているということだ。
二人はたたらを眺めながら、声を抑えて言い合う。
「お前、相当な無茶だぞ、これ。何も知らん奴の名前を付けるなんて、どうやりゃいいんだよ? そもそも、この場合、お前が名付けるのが丸いんじゃあないのか?」
「それができたら苦労しないよ。君らに会うまでもなく解決できてるだろ、それだと」
「じゃ、ここは何だ?」
「僕が聞きたいくらいさ」
「じゃ、お前と彼女。どっちが先にここにいた?」
「君らに合流する前のことを言ってる?」
ことんっ!
二人はそれに飛び退きはしなかったが、片手間だった飛んできた先をしっかりと見た。
「ダメだね。脈はある。心臓も動いてる。目は開いたままで、瞬きしてないね。指をこうやって目の前で左右に動かしても、指先を近づけていっても、全然。鼻も口も、動いてない。どうなの、これ? 生きてるのかなぁ? この椅子みたいに、そういう形に象られただけのヒトガタなんじゃあないの? 機能はある。意思は無い。どっ?」
大声で無いけど、しっかりと、数十メートルの距離を苦とせず届かせるたたらの声は、魔法ではなく、技術である。




