地下洞大多環 Ⅳ
後光、否、スポットライトが当たっているように見える。これはそういう錯覚染みた何かだ。そう思えるそれの姿に、思わず黒亜は突っ込んだ。
「お前誰だよぉぉ!」
「マキナートルですけど、何かぁ?」
左ひじを曲げ、胸の前に左拳を宛がい、右腕は拳を握りつつも垂らす。右足は伸ばし、左足は半ば曲げ、右足側をこちらへ向けた斜め立ちで、顔はどやっと、黒亜を、にぃぃ、とみている。
何故かポーズとっている。
その全身を見せびらかすように。
病的ではない。だが、健康的な色白さ。そんな中肉中背。
白いローブの上に、赤絨毯色の毛羽立った二層マント。闇のような靄をまばらに纏う、靄の隙間から見える黒の質感が明らかに高級品と見るだけで分かる柔らかくもしなやかな革質の、金具も紐も縫い目も無い、ショートブーツ。煌めく銀糸の手袋。そんな出立ちの、明らかに偉そうな恰好。
前下がり、右目が時折隠れる、アシンメトリー・ストレートボブ。茶色掛かった金色の、艶やかな髪。何故か唇は、口紅を塗ったかのように紅く。鼻はそれなりに高く小さく、睫毛は長く、一重であり、黒い瞳をしていて、緩くもきつくも無いが、瞳の上半分が瞼で隠れている。
中性的であった。喉仏が目視できなければ、声が出されなければ、性別不詳であっただろう。髭の存在どころか、痕跡すら見当たらない。
声は低く冷たく、それでいて、圧はなく、気高さのようなものは漂っているという、妙な具合であった。そんな声で、出てくる言葉は、悉くその雰囲気に似合わない。
青年か成人か。年齢ははっきりしないが、肉体年齢はだいぶ若い寄りであろう。
「散らばってた髭の色とすら合って無ぇじゃねぇか!」
「全く君は細かいね。そんなもの、与えられた名によって、カタチが定まったからに決まっているだろう?」
ふふん、とご機嫌に胸を張る、第二王子改めマキナートル。
黒亜は眉間に青筋を浮かべつつも、ぷしゅん、と消沈した。こんなのまともに相手しても仕方がない、と。
よしよし、と、たたらに背中を摩られながら。
椅子の女は相変わらず反応を示さない。
「マキナートルさんがどうなろうともボクとしても黒亜としてもどうでもいいんだけど、そろそろ、種明かししてくれないかな? これまで通り、黒亜に倣って、敬称は使わないけど別にいいよね?」
「好きにしてくれたらいいよたたらさん。黒亜は休憩かい? そんなげっそりして」
黒亜は、たたらの膝の上に頭を預け、げっそりと横になっていた。
「もう、聞くだけにしとく……」
「苛立ち過ぎなんだよね」
「誰のせいだよ! っ! ……」
頭痛。鈍痛。それは、怒りだけが原因ではない。ここにはもう一人いるのだから。それは今のところ一切の意思表示をしていない人形の如くであるが。
わざわざ、魔力によって土くれをこねて椅子を作って。
作って終わりではない。何かあった際の初動は自分に掛かっている。黒亜が疲れるのは当然のことだった。
あのウィル・オ・ライトのように、数多を並行して集中して行えるような訓練を経た騎士や軍人や領主などの類では無いのだから。
できる。やれはする。だが、長くは保てない。ただ、そういう方面には経験が碌になく磨かれていないだけである。
磨かれるようなことがあったとしたら――きっとそれは不幸なことだ。
黒亜が望まない、修羅場の連続、便利に使われながら、差配を行う。そんな役割に当て嵌められなければ、そっち方面の才能なんて伸びやしないのだから。
「おとなしくしときなよ黒亜」
あやすような、たたら。
「はぁ……」
溜め息で返しつつ、僅かに首にかけていた力を抜いて、埋ずもれる黒亜。
そんな自然体な仲睦ましさに、
「贅沢な男だね君は。こっちには相手どころか、出会いすらないっていうのに」
今更ながら物申すマキナートル。
「やめておくれよ。マキナートルさん。黒亜が休めない。ボクを通して。だいたい黒亜の考えてることは分かるし」
「進められるならそれでいいよ」
「じゃ、マキナートルさん。ボクらそろそろ出してくれない?」
「いきなりだね。そもそも、僕のしわざだって思ってるの?」
「こっちがボールを投げつけないといつまで経っても話進まないよね? そもそも、ボクたちが君を初手で排除しに掛かってない時点で、ねぇ。それでも。判断を下す権利をこの場で持つのは、やはり君だろう」
「わかったよ。じゃあ、がんばって咀嚼してね。今から僕がする一方的な話を。条件を満たせば、僕もそちらの質問に答えることもできるかもしれない。判断するのは僕じゃあないから、ズルはできない」
「……。黒亜、休憩終わりね。貴方も頑張って頂戴」
膝の上から、彼女の顔が目から上くらいしか見えないけれども分かる。その言い方。いつものような緩さの消えたその声の調子。
起き上がり、座り直し、黒亜は呼応し、
「分かった。……。なぁ、マキナートル。言える範囲ギリギリで言え。何かお前、焦り始めて無いか? それすら言えないなら、一方的でいい。舌の回る限り、早口を保て。俺らは上澄みの魔法使いだ。やる気を出出した際の処理速度は、並じゃあない」
マキナートルの背を押した。




