↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
289/356

血濡れの王の間

 あるとき――勅命が下った。


【配給受領時を除き、家屋・()()の範囲を超えての外出を禁ず。】


 対象は、平民以下に留まらず、騎士や貴族、領主にまでに至り、例外は、別途指名された食糧運搬の荷車関連者のみ。


 金も払っていないのに配られる、水を含めた食糧。誰に知らせるでもなく、ぴたりと合わせるように、時折付属する衣類等の生活必需品や薬。


 不気味であった。


 もう、七日を越えた。こんなことは前代未聞。


 王が姿を現す頻度が下がり、明らかに顔色が悪かった数日からのあの勅命。そして、続くこの事態。


 王は公式に、自身の後継として、第一王子への譲位を口にしていた。あとはそれがいつになるか。その準備と、葬式がかち合うようなことにならないように。


 王家は動いていた筈だった。


 そんな中、王からの国中、いや、世界中への勅命。


 外出禁止。


 この世界の、この国の王子は全四人。


 後継争いか? そう民に思わせるには十分であったが、位の高い者たちからの見方は違った。


 何かが、おかしい。


 争うにしても、騎士や貴族や領主まで、移動を禁じられている。そして。それらに関する監視が無い。前もっての契約魔法の締結も無い。


 下手すれば、王と王子たちだけで、次の王を決め直すと言っているかのようでもある。


 そして。今、都にある騎士や貴族や領主の一覧を知ることができる者はいない。


 何せ。


 既に送っていた、送り出した草たちが悉く、連絡が途切れたから。


 だから。


 誰も動いていない。


 正確には。直に動いた存在は、誰に観測されることもなく消えている。


 その無茶苦茶振りに、誰も、動けない。待つしか無い。不気味にもやってくる食糧を積んだ荷台とそれを運ぶ者たちは、こちらとの会話を拒絶する上、こちらが掴み掛かることすらできない。透けるのだ。


 そういう魔法か。彼ら自体が魔法か。


 こんな無茶苦茶、魔法以外にありえない。


 なら、いつ、誰が契約した?


 国、否、世界中を巻き込んで……?


 とある領主は、一人、執務室にて項垂れていた。


 答え合わせはできない。推理を話し合える相手もいない。


 きっと、他の領主も大差なく、類似の状況に陥っているに違いないのだ。つまり。どうしようもない。答えは、時の経過によってのみ、齎されるのだろう、と。






【この世界がこの形で成立した時に為された契約。】


【始まりの園を築いた存在が、時代、世界を跨って、ばら撒いた数多の契約のほんの一つ。】


【完全復活に至る際の、不足するだろう力の一部の貯蔵。】


【履行は、復活時。完全不完全問わず、その最初のタイミングで。】


【履行により、力はその存在へと返される。その力が成立させていた、この世界における前世界の痕跡の隠蔽が消えることとなる。】


【膨大な世界、されど、人類にこのままでは使用不可能な領域が解放される。】


【資源以外にも、前世界の技術などの遺産が。】


【統一されていた、約束されていた平和が崩れる時がやってくる。】


 王座を簒奪した()()()()は、顔や体格の輪郭をぼやけさせる灰黒色のローブのフードを深く被ったまま、仄暗い血濡れの王座で項垂れている。


 死霊術によって操った、まだ死にたての王を使って、ひとときを稼ぐ為の勅命をでっち上げたのはもう7日前。


 その前に、紙片に目を通し、立っている一人の男。自身がバーターで引き込んでいた、ウィル・オ家領主その人に、


「どうすればいい……?」


 と、今更ながら、今宵ですら、もう数度の繰り返しとなっている問いを投げかける。その声は、青年の爽やかな、しかし、影の落ちた声であった。


「新王よ。王とはそういうものだ。王たるものが理不尽に折れてどうする? そんな者は、その座に就く資格は無いぞ?」


 ウィル・オ・家領主ウィル・オ・ウィスプは、同じように、もう何度も返したその言葉を返す。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、僕はこのようなことをするに至ったのだけど、責任、感じないの?」


 これは、繰り返しの一言ではない。


「言わされたのだから知らんよ。それに。もう、王のその手では、届かない」


 だから、ウィル・オ・ウィスプの返答も変化した。


()()()()。君は、()()()()()()()()()()()。彼が、本当は魔法使いとしての資格を保持していたことを。()()()()()、光の魔力の価値を把握している君は、同じくそれの価値を知る僕に、何ればれて、要求されては不味いと考え、手を打った。表面上は、始まりの園へ至るだけの魔法使いを。一族として落ちこぼれの筈だった彼が逆転を決め、何れ訪れる凱旋時とられないように。表面上の理由のみで、僕が君に声を掛けたことが、脅しだとでも? とんだ狸だよ。領主というのは、皆こうなのかい?」


「ここは王都であり、我が領土では無い。いい加減、帰らせてくれ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()。もう、虚無領域は、虚無では無いのだろう?」


「排気孔。僕たちのゴミ捨て場である地下のあの広大な場所は、本来地下では無いらしいんだ。それらは本来、今のこの世界の外。虚無によって隔たれた、前世界の戦場跡さ」


「初代とその側近たちが優先したのは治安。好き勝手動くことを禁じることを優先したということか」


「ご明細」


「片手落ちだな。残り半分、手勢は何処だ? 何故、集めていない……?」


()()()()()()()()()()()()


「あぁ。とんだ間抜けがいたものだ」


「仕方ないだろう! 打った保険も空振った。【始まりの園】へ送った招待状。故に、あの男が降りてくるのが至極当然の流れ。だというのに……」


「知らんよ。誰だ?」


「かの魔法使いよ。あの男の親友の」


 歯軋る音が響き渡る。


「終わりかもな。この世界は。この国は。唯一残った王族がこれではなぁ」


 ウィル・オ・ウィスプのその態度は、もはや、まるで他人事のようであった。


「無い、と思っていた。辞めるなら、君の息子が行ってしまった直後。そこを乗り切った上、団長からすら降りていなかったんだ。大丈夫だと思っていた。ほかの領主の抑えこそが先だと優先順位を変えて、よりによって。事を終えた後に、『団長はもういない。引継ぎは済ませていて、もういつ変わっても問題ない、事後報告でいいとの了承も得ていただろう? 何? 探し出して連れてこい、だと? ふざけるな! あの人はもうボロボロだよ。身体ではなく、心が、な。あの人は自業自得だと言った。だが。あの人に陰ながら敷いていたのは誰だ?』だよ? あの泣き虫ケインが団長を継いでいて、あの男の行方は不明。おまけに。あの男は、回数制限と距離制限付きとはいえ、世界を渡る術を個人で持ち合わせている。君の息子を引き戻す術も、君との契約故に無理。どうしろと?」


 第二王子改め王は、まくしたてるように、早口に、ぽろぽろぽろぽろ……。


「近衛や手勢がいるだろう? 我らには届かずとも、使えるのではないのか?」


「無理だね。こんなもの知ってたら、第一王子にこの座は預けていたよ……。罠にも程がある。王となった者にのみ、明かされるようになっているなんて」


「そうやって人に言えるだけましでは? この手の契約縛りは、大概、関係者を増やすことを許さないものなのだぞ?」


「王の血族故に、【始まりの園】に行かせて貰えなかった僕に知れる訳が無いじゃあないか!」


「じゃあ、辞めるか?」


「まさか。そうするにしても、後始末だけは済ませていくさ」


「そういう最低限の責任感は持ち合わせているから、契約を受けたのだよ。(みなごろし)には手を貸しはしなかったが、止めもしなかったろう? それは置いておくとして、王よ。それが赦されるとはどうにも思えんのだよ。この世界、この唯一である統一国家グラナにて、王族は名を持たない。それそものに、何かしらの契約が仕込まれていると思わないのは、甘いのではないか?」


「く……。今、走査する……」


 と、王は、額に手を当て、深く潜る。未だ馴染むには時間の足りない、継がれし記録に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでくださり、ありがとうございます!
少しでも、面白い、続きが読みたい、
と思って頂けましたら、
この上にある『ブックマークに追加』
を押していただくか、
この上にある
【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に
していただけると幸いです。

評価やいいね、特に感想は、
描写の焦点当てる部分や話全体
としての舵取りの大きな参考に
させて頂きますの。
一言感想やダメ出しなども
大歓迎です。




他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。