獣の皮の匣 後
その一人が。意思疎通可能かどうかすら分からない。開けば、即座に、戦闘となる可能性だってある。
そもそも。死体を運ぶ意味があるとしたら。それが心情ではなく、手段としてならば。
「強引に、コロッセウムにでも跳ぶか?」
「一端、アレを入れなければいけないし、コロッセウムでもし試合でもやってて観客の入りが良かったら、大量に巻き込むことになるかもしれないわよ……?」
「外に出て、私が一人でやるのが、丸いか……」
「多分、ライトだと相性悪いでしょう……?」
「では、二人で行くか? 魔女だったとしたら、本当に最悪があり得るぞ……? 君が無事なら、撤退だけはほぼ確実にできるんだ。それに、私たちが戻らず、それに気づいて捜索に出てくれる人物が、理事長たちしかいない現状ではなぁ……。ブラウン少年がいたら、この手のは相性もいいだろうし、かなり取れる手も増えたんだが。任せることも、伝言を残すことも、そもそも、これと私たち以外が戦うかどうかすら、選べる。……。私は別に万能でも何でも無いのだ。この通りな。未来の息子は、それをよく知っているようだった。理事長たち上位者も同様にな」
「……。ライトが何言ってるか分からない時があるのが何でか、分かった気がするわ……。間が、飛んでるのよ……」
「未来の息子云々は、向こう視点から考えて読めばいい話だ。私たちに別々の情報を提示した。しかし。その中に、私と君とで情報交換されては不味い情報があったとして。それを言わない。それを、仄めかす。無視して開示する。こちら側の対応は凡そ、その三つだろう? それを向こうはコントロールできない。そうなるとな。未来の息子側は、両方にそんな情報伝えない、というのが最適解になる。それでもどうしてもやらせたいことは、警告や懇願付きで伝えればいい、となるかもしれないが、それも実は微妙だ。無意識下で口にしてしまったりとか。そうだな。例えば寝言とか」
「きりが、なくない……?」
「そうでもない。打てる手はあるとも。私たち以外に教え、メッセンジャーになってもらう。私たちに明かすが、そこに契約を付与し、漏らせられないように枷をかける。色々ある」
「やっぱり、きりがないじゃないの……。何が言いたいの……?」
「一見そう見えるだろうが、こう一言で言い換えることもできる。全て、織り込み済みである、と」
「???」
「向こうが、だ。何やらの手を打ってはいるのだろう。しかし、それが何かは関係ない。それによって齎される結果が、予め向こうによって制御されている、手綱を握られている、そういう意味だ。だから、こうとも言える。保持する情報に乏しい私たち側が、向こうの意図を汲み取ったり、深読みしたりする必要なんて無いのだ。向こうは、こちらを動かすためのお膳立てを既に済ませているのだから。私たちはただ好きにやればいい。向こうは、私たちのことを、おそらく、よく知っているのだから。知らなければ、私たちへの接触なんてリスク塗れの真似はやらんよ。これは、自分よりも頭の良い、若しくは、圧倒的に保持する情報量で上回られている相手へ対する対処法さ。それが、こちらに敵対的でない、という前提が必要になるが、な。これで説明になっただろうか?」
「ライトが飛ばした理由がよく分かったわ。これって、個人の納得の問題でもある訳だもの。人によってはかえって混乱するだけでしょうし、それ以前に、今の説明自体理解できなかったら、本当ただの無駄どころが、害悪だものね。限々よ、限々。ライトの頭の中いっつも見てなかったら、最低限ですら、分からなかったと思う……」
「この手の座学は非常に難しいからなぁ……。時間も食うし、あまりに膨大過ぎる。請われたらどうしようか……」
「ライトが身に着けた風にやるしかないんじゃない? 後、多分、座学じゃあ、感情がついていかないから受け付けられないと思う。全部受け入れるって決めてるわたしだからこそ大丈夫なのであって。ライトを崇拝、とまではいわないけど、敬意を、優越を、教え子に持たせられないとどうしようもないかと思う。ライトのそれって、魔女のわたしから見ても、異質な考えよ? それって、当たり前の教養? 騎士として見ても。騎士団長として見ても。聖騎士として見ても。当たり前? それとも、個性?」
「妙に……切り込んでくるな……」
「だって、あなた惑ってるじゃない。これから、仲間を引き入れるなら、そんな余裕は無いのよ? いつ次の危機に遭遇するかなんて分からないんだから。もう、躊躇も、いや、我が儘なんて言ってられないのよ? いつでも手段を選べるなんて、ある訳ないもの」
「……。おっとそろそろ終わりにしよう。割って、中身を取り出すが、構わないか?」
「そっ。不味いと思ったら、有無を言わさず回収するわよ? んん……、回収するのは、ライト、それとも、中身?」
「私でいい」
当然の如く。
剣を喚ぶのでもなく、腰の剣を抜くでもなく。硝子にて、生成する。
それは、剣状の先端を持つ、槍。自身の身長程の柄を持つ、槍である。
慎重に、その先端にて、その、中身を持つ巨大な玉に触れる。
魔力を、込める。
想起するは、環状の刃。光織りなして、光輪となる。表面を一周するように。そして。炸裂! の瞬間、即、後ろ斜め方向へと、つまり、現れる断面から離れるよう、跳んだ。
(そう。破れはする。そうでなければ、本人が中から出ることも叶うまい。そして。こいつは、魔物使いか魔法使い。下手すればその両方、といったところだろう。後は。襲い掛かってくるかどうか。こちらかの察知を阻害する類の狸寝入りであるとも、引きで見ているようなものである青藍が知らせてくれるだろう)
パァン!
弾け飛ぶ音と共に、断面を拡張するように、縦に飛び散る液体の流線。それは、黄色掛かった赤色をしていた。そして。新鮮な血の臭いがした。
(……。中心の人間以外、死んでいる。そして、)
剣を喚び、扇ぐように振った。
ゥオウ、ズサッ、ズサッズサッ!
発生させた風圧をぶち上げて吹き飛ばした。その獣たち? も、原型が無い。表面が溶けてるというか……。羽根や角の類も溶けた後なのだとするならば、それこそ、バラしでもしない限り、正体は分からない……。
だが。本命は獣たちではない。
(やはり……な……。その人間自体も……死に掛けている……。というかこれ……、どういう傷だ……?)
同じく、表面が解けて、性別すら定かではない、それでも他と違って、生きている、魔力と、微かな気配を未だ生じさせている、両膝を抱えて、頭を両膝の間に預けたその存在である。
「っ!」
闇が、転がった獣たちの遺体を包み込む。
『一応、これくらいはしておきましょ。復活、死霊使いの可能性だって、あるでしょう?』
(それなら、君の属性では不味くはないか……?)
『死霊として復活されても大丈夫よ。僅かだけど、貴方の魔力を混ぜてあるわ。貴方の十八番の、光の針の魔法の要領で。針は硝子じゃなくて、闇だけどね。だから、ものすごく分かりにくくなってる』
(流石だな。では、こいつにエリクサーをぶっかける。心の準備が済んだなら、合図をくれ。念の為、片手に剣を持った上で、ぶつけ割って与える)
『じゃあ、カウントダウンするわよ。ゼロ、で投げてね。ゼロで』
(ああ)
『三、二、一、ゼロ!』
ブゥオン、パシャン!




