増えていく仲間
「なんか頼むってちびー」
複数の声を聞きつつ、俺はとりあえず簡易厨房に運ばれているものを眺めて、ぱっと思いついたものを切り刻んでいく事にした。
玉ねぎぽいもの。トマトっぽい物。ピーマンっぽい物。異世界の植物は地球と似ていて、微妙に味が違うから、一度味見が必要なのだ。
幾つか切って口の中に放り込む。
玉ねぎは普通の奴で、新玉くらい甘い。あと苦い。トマトは熟していない物は歯ごたえががりがりシャリシャリとしている。味は……青臭い感じだ。
ピーマンに至っては緑で、まんまピーマンの見た目の癖に、辛い!
一瞬ではなく、どこぞの緑の唐辛子を思い出す味だ。しかし唐辛子ってピーマンの一種なんだったよな……と思えば辛いのも納得だ。
俺はとにかく玉ねぎとトマトの真っ赤で重たい奴と、ピーマンを細かく切っていく。
「今日は何かなー」
「実は俺、ここでの演習と特訓一番楽しみ」
「一番メリエダうまいんだもんな」
「ぶっちゃけ厨房よりうまい」
「いつもちびちゃんが作ってくれりゃいいのに」
「でもちびちゃん、ゼブンさんの弟子だろ、メリエダの後はいっつも一緒にその辺で寝っ転がってるかゼブンさんの酒場巡りに付き合ってる」
「いい弟子だよなー。財布も管理してるとか、ゼブンさん言ってた」
「なあ俺、いつちびちゃんとゼブンさんが結婚するかの賭けやってんだけど」
作っているさなかで色々聞こえてくる。
飯がうまいと言われるのは嬉しい。
だがしかし。
「師匠となんか結婚しません!」
そこだけは全力で否定させてもらう。
改心したというか、心を入れ替えた師匠は、ましな男になったが。
残念、俺の好みじゃない。
何かな、仲良くなってもいいけど、心がときめいたりしないんだ。
どきどきする感じもないし、なんというか本当に、師匠としてしか見られないのだ。
世話を焼くと言われるが、あの人うかつに財布を持たせておくと、豪快に踊り子とかにチップ渡して酒の代金支払わないから、見張らにゃならんのだ。
「だよなー」
「ゼブンさんとちびちゃんじゃなー」
「第一男同士だろ」
「そうだなー」
ぎゃはははと笑う集団。彼らは男所帯みたいなものだから、別段男同士のいちゃらぶは気にしないらしい。
それこそ、自分の勝手だろという認識だ。
俺はそんな彼らとやり取りをしながら山盛りの刻んだ野菜を、もっと大きな寸胴みたいなボウルに入れた。
後は柑橘の汁に、いい匂いのする植物油……なんていったっけこれ、とにかくいい匂いの木の実からとれた、一般的な油……とそれから、味見をしつつお酢を加えて、最後に塩を入れて味を調えた。
後は……
俺は簡易厨房の中で、とにかく存在感を放っているものを見やった。
「あれでいくか」
俺は呟き、その……でかい魚の山に取り掛かった。
腹を割いて内臓を抜いていく。
あ、こいつらもしかして、鮫の一種? 肝臓でかいな……
俺はうっかり匂いを嗅ぐ。やっぱりアンモニアみたいな香りだ。
まあ、洗って茹でればどうにかなるだろ。
内臓をとっていれば。
「ちびちゃん、肝臓そこの樽にためておいて」
一人の兵士が言ってきた。確か商家の息子だったような。
「なんでです」
「その魔獣の肝臓、薬になるんだよ」
「なんで取らないでここに来てるんですか」
「……いやあ、この訓練所のお小遣い稼ぎなんだよ……腑分け」
「こんなのが」
俺は呆れそうになる、こんなのが、レベルでしかない腑分けだ。
俺が俺の腰まである魔獣の中身とるの、一分かからないんだけど。
「いやあ、四つ足の奴らと勝手が違って、そいつらきれいに肝臓取れないんだよ」
「へー」
言いつつ俺は腹を割いて、内臓をぱっぱと抜いていく。
既に十匹とったぞ。樽にどんどん肝臓をぶち込んでいるから、樽もいっぱいだ。
「……ほんと、ちびちゃん何者? おれらが束になっても、そんないい状態で肝臓抜けないのに」
「実家は魚をさばきます。私得意技の一つが三枚おろしです」
肉が買えない時、俺は近所の沼でブラックバスを釣った。そして……食ったんだ。
外来魚だし。近所のブラジル人、一緒に外来のナマズ捕まえてたし。
……釣った魚の料理の分け合いっこやったっけなあ。
ブラジルの料理もうまかった!
沼臭いブラックバスは、濃い味付けでなければおいしくなかったが、やっぱり白身のほろほろっとした触感だった。
「魚……、え、ちびちゃん、あんな不健康なもの実家で食べてたのかよ」
「魚舐めないでくださいよ。旨いですよ、魚」
言いつつ俺は、その鮫もどきを平たくして、何匹も竈にぶち込もうとした。
「待ってちびちゃん、俺らにそれ食わせんの!?」
「きちんと下ごしらえをしましたし、臭くないですよ?」
「いやいやいや……そいつ、肉食べる魔獣じゃないからな?」
「それは食べてからにしましょ。今日のメリエダはそれを、さっき作ったソースで食べる物です! 食べたくなかったら他所で食べてください」
兵士の皆さまが、顔を見合わせた。思うところがあったらしい。
しかしながら、俺からすれば鮫だって旨いんだ。水族館で食べたシャークナゲットは上品な味だった。
それにきちんとアンモニアを抜けば、鮫は臭くない。
アンモニアは水に溶けるから、きちんと水で洗う下処理をすれば問題ないのだ。
そう言いながら、焼き魚の具合を見ていく。
お、いい具合だから、俺は竈から取り出して、ひっくり返してもう一回焼いた。
焼きあがったものを食べやすく切り分け、さっき作ったソースをたっぷり乗せる。
あ、さっきのソースって、サルサ・メヒカーナっていう料理のパロだから。
万能ソースの一種だとかいう。
煮込みの具材になるとか、ならないとかな。
そうしてできた山盛りのメリエダを見て、皆なかなか手を伸ばさない。
俺は一番いい場所に陣取って、さっそく取り分けて口に入れていく。
トマトや玉ねぎのさわやかな甘さやコクに、ピーマンもどきのきりっとした辛さ。まろやかにそれらを合わせる油と柑橘の鼻に抜ける爽快感。
塩気は具合がちょうどよく、そして何より、この魔獣のホロホロとした触感と、たんぱくなお味の肉に絡んで、うん。
「本当においしいのに」
それである。
こんな旨いのに、皆食べないの。俺持って帰ろうかな……ドゥガル様に持って行っちゃダメかな……と思っていたら。
「また変な物思いついたのか、ちび助」
俺の隣に師匠が陣取り、大きく魚を切り分けて、ソースもたっぷり乗せて、豪快に食べ始めた。
「うっま! おいちび、これ何処の料理だ? 秋か? 夏か? めちゃくちゃ旨いな!」
言いながら、師匠ががんがん食べていく。
それを見た人々が、そろそろと卓に座って、切り分けていく。
そうしたらもう、俺の勝だ。
旨いという声がこだまし、沸き立つように食器がぶつかり合う音が響く。
「ちびちゃん、ご飯」
「あっちの鍋にあるんで勝手に持って行ってください」
「ちびすけわかってる!」
この旨い主食に、米を合わせるために、人々が皿をもってご飯の鍋にも向かって行く。
俺がにやついていれば、師匠が笑った。
「お前、人にもの食わせるの大好きなんだな」
「おいしいって言ってくれるものを作るのはとても楽しいので」
「お前生まれてくる場所や、持っている身体能力、間違ってるよな」
「自分でも思いますからね」
俺はそう言って、また魚を切り分けた。
うん、うますぎ。




