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過ちは過ちである。

結果論。俺とこの人は一夜の過ちを起こさなかったらしい。

うん。すげえほっとした。

何というのかわからないが、一夜の過ちを起こしていたらものすごい師匠に罪悪感を感じるところだった。

どうしてなのかはわからない。

分からないから、考えない。

二日酔いで頭痛いしな、畜生なんでこんなにアルコールを分解する能力が低いんだ俺は!

両親譲りの肉体を恨んでもしょうがない。

しかし、何故それが分かったのかって?

聞いたんだよ。相手が明らかに、なんかちゃんと通じる話してないの感じたからな!

何べんも話をきちんと聞く努力をして、相手の結構とぼけているのか抜けているのかわからない言動をかみ砕き、その結果分かった事である。

俺は酔っぱらったままこの人にじゃれかかったらしい。

ヨーゼン・カイはヨーゼン・カイで、じゃれかかった相手と全力でじゃれたらしい。

そして俺は、寝台の上の水差しをひっくり返し、びしょ濡れになったそうだ。

濡れた俺は酔っ払いの妄言と行動で、服を脱ぎ、そして酔っ払いの大胆さと阿呆さ加減で相手の上着を引っぺがしたそうな。

噛みついた痕とかひっかいた痕とかは、じゃれている間に付いたものだという。

更にそれを後押ししたのが、ぶーちゃんの一言。


<交尾だと思ったのに、子種の匂いはしないんだね>


である。

俺は痛む頭が余計に痛くなった。

もはや遠い目になるほかない状態である。

ヨーゼン・カイ、あんたいったい幾つだよ、酔っ払いの俺と同じレベルでじゃれるなんてやるのかよ?!

ツッコミ係は俺らしく、その俺が突っ込まなかったらツッコミは不在という悲しさ。

そして俺の身長が一夜にしてやや伸びた理由に関しては、とんだ暴露話がされた。


「魔素不足で干上がっている体に、魔素を統べる瘴気王の物を注げば、体にそれが染み渡り、止まっていた体の時が動き始めても何らおかしな事ではないぞ?」


「瘴気王の物って」


俺は一体何を吸い込んだ!?

仰天して問いかければ、相手はことりと首を傾けてから、ああ、と合点した。


「何だ知らないのか。生き物の大半は呼吸の中に魔素を溶かしている。私も生き物なのかはなんとも言い難い物だが、この呼気には魔素が含まれている。それも生半な魔素ではない」


瘴気と称されるほどの、濃密な物を私は吐きだしている、と何の問題があるのかという調子で言っていやがる、瘴気王。

彼が続けた。


「その私と常にともに行動して、一番近くでこの呼気を吸っているのが和子なのだから、体に変化が起きるのは当然だ」


彼はそのまま俺を見て、言う。


「大体、一夜で育ったわけでもないぞ? 私と行動するようになって徐々に徐々に、和子の体は柔らかな女の肉のつきかたをし始めた」


おそらく、和子が自分の体をまじまじと見たのが今日で、それゆえに今日自分の変化に気が付いただけだろう。

さらりと言ってんじゃねえよ!!

聞いていて机に突っ伏したくなった。

俺は自分に自己嫌悪である。ちなみにここは船の食堂だ。

周りの誰もこの美貌の男の事に気付かないあたりに、彼の存在感の消し方のうまさが表れている。

瘴気王空気の消し方半端じゃねえな!? 泥棒も真っ青だし幽霊だって裸足で逃げるぜ!?

と思いながらも、俺は向かいで食事をとっている。


「やれ、味の濃い料理だ」


言いつつ、出されたものを残すという選択肢をはなっから持っていない瘴気王が、煮込みを食べている。

煮込みと言っても、俺が作るようなブイヨンとかの世界じゃない物だ。

色々入れて水で煮て、やたら塩を強くしたスープである。

うん、不味い。

しかしながら、食べなければ何もできないのが生き物なので、俺も黙って食べる。


「火にかけ続け過ぎていて、水分が飛んでしまったスープですね」


「冬の和子に料理のイロハが分かるようになったとは、時の流れは偉大だな」


うん。

……もしかして、この人とずっと一緒にいたら、また俺すぐに成長するのか?

この関節痛は、成長期に訪れると噂の成長痛?

なんだか思考回路に雑音が混ざったような気分だが、俺は気にしない事にした。

んだが。

俺と彼は昨晩、卓の上で踊ったらしい。

冬の踊りじゃねえよ? あんな命知らずな奴じゃない物だし、第一瘴気王が冬の踊りを踊れるわけもない。

それを数多の人が見ていて、俺らを船の余興のための乗組員だと勘違いしなさっているようなのだ。

やたらに、


「昨日のあれは見事だった!」


とか


「夕べのあれをもう一度踊ってくれないだろうか?」


とか


「あんなふうに二人で踊る踊りに感動したのは初めてなんです! またやってくれますよね?」


とか

結構な人数に言われている俺である。

なんでヨーゼン・カイには言わないかね。

ああ、俺の方が明らかに話しかけやすい空気だからか。

若干、ちび助からは脱却した俺だが、まだ話しかけやすい小柄さなのか。

ううん、なんとも言い難い微妙さだが。

俺らは現在、船長の所に招かれているのだ……






「君たちの夕べの踊りを見せてもらって、私はとても感動したんだ」


船長もしくは支配人だろう男性が、熱心に言いだしている。


「船の上は娯楽が限られているから、定期的に踊っていただけないだろうか? 君たちが船の客分だという事は十分に理解しているのだが、あれを見せられた後の踊り子の踊りが、とてもつまらない物に見えてしまって」


べらべらとべた褒めしている船長である。

褒められて悪い気はしないんだが、俺は目立つ事をしたくないんだが。

どうすんのよ。この状態。


「毎日とは言わない、三日に一遍くらいでいいんだ、お願いだ、その分君たちの支払った船の代金は返すし、なんなら日当だって支払おう」


船長は身を乗り出した状態だ。何が何でも俺らに躍らせたいらしい。

いや、こんな熱心に、瘴気王じゃなくて一般人の俺にお願いする辺りがすごいぜ。

俺はちらりと彼を見やった後、ぶーちゃんを見てから考えた。

船の代金が浮くのはありがたい。

でも、俺らは悪目立ちしちゃいけない集団である。

ただでさえ、この世の物とは思えない美貌の男に、このあたりじゃ珍しい色の濃い肌のちびすけ、さらに何の種類かわからない獣の三人組なのだ。

ここで名前を売ったら……後が怖い。

左右に視線をやった後に俺は、苦笑いで答えた。


「すみません、間違えてお酒を飲んで、それ以来何も覚えていないので、話が分からないんです」


どんな踊りを踊ったのか、全然わからないしな、これで決定!

俺の言葉に船長が目を見開き、言う。


「あんなに見事なステップを踏んでいて、酔っていた!? 信じられない……まして君はお酒も飲めなさそうな小さな体なのに」


「だから間違えてしまったんですよ」


俺はそれで逃げようとしたのだが。

船長はちら、とヨーゼン・カイを見て、呟く音で言った。


「そう言えば彼は、船に正規で乗ったのだったかな……こんな青年が船に乗ったのならばすぐに報告が上がってくると思うんだが……」


脅しだな? 

脅しだな!?

痛いところ付きやがって。と思う俺はしかし困惑した顔で相手を見つめるだけだ。


「チケットは二枚ありますよ」


言いつつチケットを見せる。

俺は昨日、チケットを拝見する係の人に、友達が追い付くまで待ってほしいとお願いをして半券を切ってもらっていないのだ。

だからチケットは、正式な物がきれいなまんま手元にある。

船長はそれを見て、ああ、と言った。


「君が、乗組員に友達が遅れてくるはずだから待ってほしい、と言ったという子かい」


「はい」


「……そうか、残念だ。でも気が向いたら踊ってくれると嬉しいよ」


船長は物分かりがいいらしい。

というか、後ろの扉から入ってきた船員が耳元で何かを言ったから、そちらに気を取られたようだった。


「和子、行こう」


話は終わったと判断したらしい瘴気王が、ぶーちゃんを軽くつついて俺の手を引く。

そして俺らは問題なく、船長室から出て行った。


「……それにしてもあなた、一体何を躍らせたんですか」


昨夜の事は丸っと抜けているから問いかければ、彼は俺を見つめる。

深い色の瞳で。

こっちの理解できない物が詰まった、人外の、人知を超えた存在の瞳だ。


「昔々に、大事な子供と踊った踊りだな。今はもう誰も踊れない、私に合わせられないから」


静かな声で言った瘴気王の後に、俺は甲板に出て海風に吹かれて、半日を過ごした


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