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夜中の過ちの後の朝

頭痛が痛いなんて飛んでもな重複だが、俺の気分はまさにそれだったのだ。

頭痛が痛い。

そんな感じの言葉が、俺の今にはちょうどよく似合う状態である。

俺はぼやけた頭で起き上がり、隣でぐうすかと眠っている彼と、近くで見事なだらけ方をしているぶーちゃんをみやる。

なんでこの人いるの。

船に乗らなかったじゃないか。

俺がずっと見ている間、船に昇って来る事だってなかった瘴気王だが、カルミナ・スペクルのディ・ケーニさんも転移魔法が使えるから、それでも使ったのか?

俺はがんがんと痛む頭なので、彼がどうしてここに来ているのかという疑問は、取りあえず置いておく事にした。

考えても無駄な事は考えない方が、平和な時も多いのだ。

考えなきゃいけない時もあるんだがな。

俺のこれは、考えなくてもいいと俺の直感が告げていた。

ちなみに俺も転がって眠っているわけなんだが、俺もこの人も一つきりの寝台でくっつきあって眠っていた。

俺の寝相はそこまで良い物じゃないから、俺はかなり蹴飛ばしていたと思うんだが、彼が壁際を取っていたから問題なかったらしい。

ちなみに俺は全裸一歩手前の状態だし、相手も上掛けの上から判断するにそうだし、ううん。

これは何か盛大にやらかしたんじゃなかろうか、と俺は邪推したくなる。

相手がロリコンだとは髪の毛一本たりとも思っていないのだが、俺の方で記憶がさっぱりぽんととんでいるので、ちょっとした事態も考えてしまうのである。

俺は一体何をした。

色々思い出そうにも、夕べの食事の途中から覚えていない。

なんとなく空いた卓によじ登ったあたりは覚えているんだが、その後はもうだめだ、どんだけ思い出そうとしても思い出せない。

なにしたんだ俺は。

ええと、ううと、と考えた後に、俺はあの飲み物が酒であっただろう事に思い至った。

おそらく俺は、水と間違えて無色透明の、そして匂いもしない酒を飲み過ぎて、酔いが回って失態をしたのだ。

なんてこったい。

寝台の上で膝を抱えて頭を抱えて、盛大に呻きたい俺であるのだが、記憶が途中過ぎて恐ろしい。

こういう時って大概、とんでもない失態とか馬鹿とかその他もろもろとかが起きているのだ。

俺の経験上はそうだ。

特に酔いつぶれた師匠がらみだとその確率は、八割まで跳ね上がるのだから他人から見れば合掌ものだ。

周りにそう言われた事もあったな。

ああ、師匠に会いたい。

とまあ、色々考えるのは途中にして、俺はぴくぴくと耳を動かしている、覚醒間近のぶーちゃんに呼び掛けた。


「おおい、ぶーちゃん、起きてる?」


お耳がピコピコとしていたぶーちゃんが目を開く。


<? 親分からだへいきなの?>


「それっていったいどういう意味?」


俺は何となく逃げ出したいような、逃げ出したくないような、なんとも言えない気分のまま聞いた。

もしかしてぶーちゃんは目撃者かもしれないのだ。

俺が何かやらかしていた場合の言い訳を考えるために、情報は手に入れておくべきだと思った俺だったんだが。

続いてのぶーちゃんの発言で、色々吹っ飛びそうになった。


<だってそこの彼と、交尾みたいな事してたよね>


「ごっふうう!!」


俺は何も飲んでないし食べていないのだが、噎せるような気分でせき込んだ。

交尾って、おい!?

俺は自分の体の事をここで確認した。

全裸一歩手前である。

酔っ払いの中には、脱ぐ癖のあるやつもいるから、そこは限りなくアウトに近いがセーフである。

しかし。


<あいしょういいんだねえ、親分とその人。あんだけ交尾におぼれるのも、みたことないよ?>


邪気など欠片もないような調子で、ぶーちゃんが穢れなき瞳で言いだしているものがものだ。

俺は自分の確認の途中だったというのに、この子に対して色々物を申したくなりそうになった。

何でそんな身も蓋もない言い方を、ああ、野生動物だから身も蓋もなくて当たり前か。

獣に人間チックな恥じらいがあったら絶滅してるわ。


「うう、ああ……」


俺はごそりと身じろぎをして、言われてみれば体がべたべたするし、関節痛がやばい部分があるのにも思い至った。

これって俺の体の面からすればアウトだろう。

おい瘴気王、ロリコンじゃねえのにこんなちび餓鬼に手を出して……え?

俺は自分の体をもう一度見下ろした。

……俺の幻覚じゃねえよな?

何だか俺のお胸様が大きくなっていらっしゃる?

なんだか心なしか座高も高いような……?

なんだ?

俺はすぐさま立ち上がるべく、寝台から下りて床に足をつけた。

……気のせいじゃない。

背丈が伸びてやがる。

それも気のせいにしておくには、伸びすぎた感じで。

俺の事を知らない人間が見れば、そんなに背丈も伸びていないように思えるかもしれない、そんなぎりっぎりの成長。

俺に何が起こったんだ?

と思いながら立ち上がっての感覚を手に入れるべく、数歩ほど歩いてみれば。

やっぱり手足がいきなり長くなったから、なんだかバランス感覚がずれる。

俺の体という事は間違いないのに、何かがずれるのだ。

俺は昨日の食事を思い出すのだが、うん。


「変な物は食べていない……と言う事は」


ちらりと見れば、あどけない顔をして瘴気王がその目をこちらに向けてきている。


「……」


「おはよう、和子」


眼があって何も言えなくなった俺とは正反対に、彼は何も問題がなければ恥じらいもない、という調子で喋った。


「昨日の事を覚えていますか」


「昨日のどれの事だ?」


彼は寝台で手枕をして、俺をじっと見つめて問いかけ返してくる。

問いかけに問いかけで答えてんじゃねえよ、と思いつつも俺は言った。


「夕べ、私と合流した後の事ですよ」


「ん、ああ、それか」


瘴気王は鳥肌が立つほどの色気の混じった顔で、ほほ笑んだ。


「いい夜だった」


「……何してくれちゃったんですかあなたは?」


俺は問いかけてみた。問いかけざるを得なかったので問いかけた。

色々な物のためにだ。そして俺の精神安定の問題で、これははっきりさせておかねばならないと思ったのだ。


「そこのししも見ていたから、ししに聞いたのではないのか?」


「聞いてその中身があまりにも信じられないので聞いているんですよ」


というかぶーちゃんが見ている前で、何してくれちゃってんだよあなた!

普通に心が咎めないのかよ!

羞恥心はないんかい!

俺は途中で呼吸することなく一息に、その言葉を言った。

すると瘴気王は起き上がる。

するとかけられていた敷布がずれて、彼の体があらわになる。

うげえ、すごい痕だらけだな……

俺は彼の綺麗に腕のなくなった部分を見た後に、相手の体に散らばった歯型だの背中のひっかき傷だのを目の当たりにした。

アウトだ、何度も思ったがこれはアウトだ。

弁解の余地も何もないアウトの世界だ。

側妃の位は放り棄てたような気分だから、不貞にはならないのだし。俺結婚してないし、年齢だけは十九だからそういう事をしても、一応合法なんだが。

何も覚えていないのに、その情痕が匂い立つようで、視線をそらしたいのにそらせない悪循環である。

顔と言い体と言いに、血が集まっていくのが分かるほど、熱くなっている。


「単純な肉体言語のぶつかり合いだと思うが?」


そんな俺とは裏腹に、こう言う事に関しては海千山千の瘴気王はしれっとした調子で言うと、髪をかき上げる。


「おいで、和子。風呂など使えないだろうから、少しくらい身ぎれいにしよう」


かき上げたその手の整い方と筋肉のつきかたに、うっかり見惚れる俺であるが、そのまま軽々と引き寄せられて唇を頸筋に落とされたあたりで、悲鳴をあげそうになった。

だが。

ひら、とかろうじて可視化の世界にあるらしい青色の炎が俺の体を覆ったと思えば、俺が体に感じていたべたつきや不快感は、見事に消失していた。


「何をしたんです」


「余計な物を不可視の世界まで分解した」


瘴気王はこの世の王、あらゆるものを支配する、という変な噂を俺はここで思い出す羽目になってしまっていた。

……色々聞かなければならない事があるなこれは。

俺の体の成長の事とか、俺とこの人がやらかしただろう一夜の過ちとか、この人がどういう手段で船に乗ったのだとか。

聞いておかなければ、対処法がない事が山の様だ。

ああ、頭が痛い事である。


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