第二話 ライブロックバー『デビルプレイス』での約束
「ちょっとルキくん、起きてください!」
「う~ん⋯⋯」
三人掛けソファーに仰向けで寝ていたルキはリノの声とその声の方から漂う甘い香りに目が覚めた。
「ん?⋯⋯ここは?」
目を開けたルキ。上からリノが覗き込んでいる。
「ルキくん、寝ぼけてるんですか? ここへはルキくんが連れてきてくれたんでしょ」
寝ぼけ眼で辺りを見回すルキ。そこは狭い部屋の中だった。
「ああ、そうか、ここは『デビルプレイス』のスタッフルームか」
ルキはそう言うとソファーから起き上がり壁にかかっている時計を見た。
――二十三時四十五分。
時計から視線を外しリノと視線を合わす。途端に視線を外すリノ。
「ルキくん、飲みすぎですよ!」
「リノが介抱してくれたのか? 悪かったな」
「リ⋯⋯リノ⋯⋯」
「ん? どうした?⋯⋯ところで、なんで敬語なんだ? 俺、何かしたか?」
「い、いえ、あの⋯⋯私、ここへ来るまでに何か変なこと言いました?」
「⋯⋯そうだな⋯⋯ああ、『あなた歌下手ね』とは言われたけどな」
「えっ! ごめんなさいルキくん! 私そんなつもりで言ったんじゃなくて⋯⋯」
「――いいよ、酔ってたんだろ?」
「い、いえ、酔ってたというか⋯⋯あ、あの私、明日朝一で講義が入ってるから帰ります」
「ああ、そうなんだ、じゃあ送ってこうか?」
「いえ、ここから近いので」
「そう⋯⋯」
「はい、じゃあまた⋯⋯」
二、三歩行きかけて振り返るリノ。
「あのルキくん、私とバンド作ること引き受けてくれてありがとうございます!」
「えっ!? バンド? なんのことだよ」
「お、覚えてないんですか!?⋯⋯あんなに意気投合したのに⋯⋯」
「そういえば、そんなこと約束したような、してないような⋯⋯」
「私が曲書くから一緒にバンドしましょうって言ったら、『よし、やろう!』って言いましたよ!!!!」
「わ、わかったって! やる、やるよ、バンド! 俺、リノの曲好きだからさ⋯⋯是非やらせてください!!」
「⋯⋯リノ⋯⋯好き⋯⋯」
「ちょっとリノ、聞いてる?」
「は、はい聞いてます。ありがとうございます!」
「ああ、よろしくな」
「じゃあ、私帰ります。明日の夕方、スタジオに入る約束忘れないでくださいね。私ギター持って行きますから」
「えっ、明日? 明日の夕方はまだバイト中だから無理なんだけど⋯⋯」
「えっ、でもルキくん、明日大丈夫だって⋯⋯」
「ごめん、バイト終わってからだから二十一時に並木通りのスタジオ34に集合じゃだめかな?」
「いえ、それでいいです」
「遅くなって悪い。じゃあ予約したら連絡するから」
「分かりました。じゃあまた⋯⋯」
「ああ、またなリノ」
リノはスタッフルームのドアを開け外へ出た。廊下が左右に横たわり正面に厨房が見える。
リノは廊下を右へ曲がると、すぐに小さなステージ付きロックバー『デビルプレイス』の店内に出た。レジ越しに店の入口がある。
リノはレジの前まで歩き右を向いた――。
右側には縦に長いカウンター。左側にはテーブル席。そして奥には一段高くなっている小さなステージがあった。
その時、カウンターの中でボトルの棚を作業していた男性がリノの方を向いた。リノが軽く会釈をすると、その体格が良く強面のバーテンダーは、まるで引きつったような笑顔をリノに向けた。
「ありがとうございました」
リノが振り返り入口から出ようとすると背後からルキの声がした。
「リノ、やっぱ送ってくよ」
「でも⋯⋯」
「いいからいいから、俺もこの近くだしさ」
ルキはバーテンダーの方を向き声をかけた。
「じゃあ夜叉神さん、また」
「おう! ルキ、彼女さん連れてまた来いや!」
「か、彼女じゃねーってリノは⋯⋯ていうか俺、今彼女いねーから!!」
そう言うとルキはリノに早く外に出るように促しバーテンダー『夜叉神平八』から逃げるように店を出て行ったのであった⋯⋯。




