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第一話 悪野森瑠鬼と薔薇園璃乃の出会い

――ある春の晴れた日、広島の中区にあるえびす通り商店街を、まるで魔法使いのように漆黒のパーカーのフードを目深に被り闊歩(かっぽ)している一人の男がいた。その男の名は悪野森瑠鬼(あくのもりるき)。地元の大学へ通う二十歳の大学生だ。


ふいに立ち止まったルキは右手でフードを掴むとフードを勢いよく頭から外した。


(しっかし、うめーな、この揚げもみじ⋯⋯)


細マッチョな体格で全体的にワイルドな雰囲気のイケメンのルキは揚げたもみじ饅頭を口いっぱいに頬張りながら背中に背負ったベースを左手で担ぎ直すとそのままダークアッシュに染めた無造作なショートウルフヘアをかきあげた。


(さてと⋯⋯リハ頑張るか⋯⋯)


ルキは揚げもみじを貪(むさぼ)るように食べ尽くし左を向くと目の前にあるライブハウス『エンジェルランズ』の扉をくぐった。


◇


――ライブ終わり。


客席が明るくなり楽屋から客席に降りたルキに近づく一人の女性。


「悪野森君、あなた歌下手ね。あれじゃ客の心には届かないわ」

「は? 誰だよ、いきなり言ってくれんじゃん」


その言葉にムッとしながらルキはまじまじとその女性を見た。スラリとしたスレンダー体型。柔らかな雰囲気の中に色香も漂う美人。韓国っぽいメイクの可愛い笑顔。髪色は明るく艶のあるロングヘア⋯⋯。


「怒るってことは自分でもそう思ってるってことよね」


ルキの視線を感じながら手に持ったグラスに魅惑的なぷるんとした唇をつけ酒を飲み干したその女性は、空のグラスを持った手を下げた。その途端両耳の煌びやかなピアスが揺れシアーシャツの袖もふわりと揺れる。


その姿に一瞬惹き付けられたルキだったが、すぐに視線を逸らすとため息にも似た言葉を吐き捨て入口の方へ向かう。


「⋯⋯ありがたいお言葉どうも」


すぐに慌てたようにルキを追いかける女性。


「ちょ、ちょっと待ってよ! 冗談よ、冗談!」


ルキの前に回り込んだ女性は、しかめっ面のルキに小悪魔のような表情を向けた。


「あなた最近解散したバンド『マッチョ・バトルタンク』のベーシスト悪野森瑠鬼君でしょ? 私あなたのベースのファンなの。今日はボーカルのヘルプで歌ってただけなんでしょ?」

「俺のファン?⋯⋯ていうか何でヘルプって知ってんだよ!」

「私は何でも知ってるのよ⋯⋯うふふ」

「へ、へぇ〜。じゃ、じゃあな⋯⋯」

「だから、ちょっと待ってって! ごめんなさい自己紹介まだだったわね。私はリノ⋯⋯薔薇園璃乃(ばらぞのりの)、シンガーソングライターよ、よろしくね」

「薔薇園璃乃?⋯⋯えっ、たしかスマホに回ってきたうちの学生のデモ音源の作者も薔薇園璃乃だったぞ!⋯⋯もしかして⋯⋯」

「ええ、それたぶん私の曲だと思うわ」

「マジか!! す、すげえよ、薔薇園っち! 俺感動したんだ! すげえ歌詞書く学生がいるんだなって! あれは最高だったっていうか心奪われた!!」

「うふふ、悪野森君ありがとう、そう私同じ大学の二年生よ」

「二年生? じゃあ俺と同じか⋯⋯ああ、あと俺の名前は下の名前でいいよ」

「そう? じゃあ、ルキ」

「いきなり呼び捨てかよ!」

「いいでしょ! 私のこともリノって呼んでいいから」

「⋯⋯まぁ、いいけど」

「じゃあ、ルキ早速飲みに行きましょ。ボーカルのヘルプだから、ライブハウスの人との反省会もバンドの打ち上げも無理に参加しなくていいんでしょ?」

「そうだけど⋯⋯分かった、じゃあ行くか」


ルキはそう言うとリノと連れ立ち繁華街の流川に消えて行ったのだった⋯⋯。









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