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EP 6

過保護な宰相様からの贈り物と、甘くてほろ苦い新作特産品

 ポポロ村に橋が架かり、無事に作物の出荷が再開されてから数日が経った。

 村には活気が戻り、私とスアイが散歩に出るたびに、村人たちが「織姫先生!」「スアイ様!」と笑顔で野菜をお裾分けしてくれるようになった。

 そして、あっという間に週末。

 すっかり秋の気配が深まり、朝夕の冷え込みが厳しくなってきた頃、あのお決まりの黒塗りの魔導車が出張所の前に停まった。

「やあ、織姫。今週も押しかけてしまってすまない」

「ユリウス様! お疲れ様です。……って、その後ろにある大きな箱はなんですか?」

 私服姿のユリウスは、片手には帝都の高級菓子店の紙袋を、もう片方の手には豪奢なリボンがかけられた大きな箱を抱えていた。

「これは、君への贈り物だ」

「えっ、私に?」

「ああ。最近急に冷え込んできただろう。君が風邪を引かないか、帝都で書類仕事をしている間も心配でならなくてね。開けてみてくれ」

 促されるままに箱を開けると、中には手触りの滑らかな、美しい純白のコートが入っていた。

「わぁ……すごく軽くて、ふかふか……!」

「『火炎魔石』の細かい粒子を特殊な魔導糸で織り込んだ、最新の防寒具だ。着ているだけで常に陽だまりのような暖かさを保ってくれる」

「そ、そんな高級品、いただけません! 絶対にお高いですよね!?」

「気にするな。私の胃腸と精神を救ってくれた君への、ほんのささやかなお礼だ。君が健康でいてくれなければ、私が生きていけないからね」

 真顔で重すぎる愛(?)を語るユリウスに、私はたじろぐ。

 本当にこの人は、私に対してだけ過保護のストッパーがぶっ壊れている。

『ピコン!』

『神界リスナー【見習い女神R】からのメッセージ:

「きゃー! スパダリのプレゼント攻撃! しかも実用性バツグン!」』

『神界リスナー【永遠の17歳女神L】からのメッセージ:

「おいおい、あのコート、帝都の貴族階級でも手に入らない特注品だぞww 宰相の権力フル活用してんじゃんww」』

 脳内のゴッドチューブのコメントを見て、私はさらに冷や汗をかいた。

 だが、ユリウスの「君に風邪を引かせたくない」という真っ直ぐな心配りは、素直に嬉しかった。

「……ありがとうございます、ユリウス様。大切に着ますね」

「ああ。君によく似合っている」

 ユリウスはふわりと目を細め、満足そうに頷いた。

     * * *

「さて、今日は私からもお二人にプレゼントがあるんです!」

 午後。出張所のキッチンに立った私は、ユリウスと、縁側で木彫りの熊(タローマンの彫刻刀使用)を作っていたスアイをテーブルに呼んだ。

 テーブルの上に並べたのは、私が【善行通販】で取り寄せた地球の食材と、ポポロ村の特産品を組み合わせて作った、自信作のスイーツだ。

「これは……美しい層になったお菓子ですわね」

「ええ。ポポロ村の特産品を使った『ハニーかぼちゃとポポロ・コーヒーのティラミス』です!」

 ポポロ村で採れる「ポポロ・コーヒー」は、非常に香りが高く、深みのある苦味が特徴だ。そして「ハニーかぼちゃ」は、農家のおばちゃんたちに求愛して絶望した結果、身が極限まで甘くなるという謎の生態を持つかぼちゃである。

 私は、濃く淹れたポポロ・コーヒーをたっぷりと染み込ませたビスケット生地に、【善行通販】で取り寄せた地球の「マスカルポーネチーズ」と、ペースト状にした「ハニーかぼちゃ」を混ぜ合わせた特製クリームを重ね、何層にもなるティラミスを作り上げたのだ。

「甘みと苦味の組み合わせ……。さっそくいただきますわ」

 スアイがスプーンを入れ、優雅に口に運ぶ。

「……んんっ!」

 途端、スアイの美しい顔がとろけた。

「……なんという罪深い味ですの。かぼちゃの濃厚な甘みとチーズのコクを、コーヒーのほろ苦さがピシッと引き締めていますわ。いくらでも食べられてしまいます!」

「ユリウス様も、どうぞ」

「ああ。いただくよ」

 ユリウスもスプーンを口に運んだ。

 そして、時が止まったように固まる。

「……ユリウス様?」

「…………織姫。これは、革命だ」

 ユリウスはスプーンを持ったまま、震える声で言った。

「帝都の貴族たちは甘いだけの菓子を好むが、これは違う。大人の舌を満足させる深い苦味と、脳を癒やす極上の甘味が、口の中で完璧な調和ハーモニーを奏でている。激務に追われる役人や、社交界の夫人たちに出せば、間違いなく熱狂的なブームになるぞ」

 さすがは帝国トップの宰相。美味しいと喜ぶだけでなく、瞬時にビジネスとしての価値を見抜いている。

「本当ですか!? 村の新しい特産品として、帝都に売り出せないかと思っていたんです」

「素晴らしい着眼点だ。橋も直った今、これほどの目玉商品があればポポロ村はさらに潤うだろう」

 ユリウスは真剣な表情になり、少しだけ声を潜めた。

「……だが、気をつけろ。このような価値ある商品を生み出せば、必ず『他人の手柄を横取りしようとする輩』が現れる」

「あっ……」

 脳裏に、カーライルの顔がよぎった。

「安心しろ」

 ユリウスは私の不安を察したように、力強く微笑んだ。

「この特産品の権利は、私が宰相の権限を持って、君とポポロ村の村長の名義で直接、内務省の『特別保護認可』に登録しておこう。そうすれば、中途半端な役人――例えば、君の元婚約者のような男が、地方の出張所に圧力をかけて利権を奪おうとしても、法的に絶対に手が出せなくなる」

 なんという手回しの良さ。そして、圧倒的な安心感。

 カーライルの元で、ただ利用されるだけだった私には、この「正当に権利を守ってもらえる」という事実がどれほどありがたいか痛いほどわかった。

「ユリウス様……ありがとうございます。私、本当に……」

「お礼を言うのは私の方だ。こんな素晴らしい菓子を食べさせてくれたのだから。……さて、おかわりをもらってもいいだろうか?」

「はいっ、たくさんありますから!」

     * * *

 楽しい週末はあっという間に過ぎ、日曜の夕暮れ時。

 帝都へ帰るユリウスを見送るため、私は出張所の外へ出ていた。

 プレゼントされた純白のコートを羽織っているおかげで、冷たい秋風も全く気にならない。

「では、また来週。ティラミスの権利登録は任せておけ」

「はい。道中、お気をつけて。……今週も、お仕事無理しすぎないでくださいね」

「善処しよう。だが、君の顔を見られない五日間は、私にとって果てしなく長い砂漠のようなものだ」

 またそんなキザなことを。

 私が苦笑していると、ユリウスは車に乗る直前、ふと立ち止まって私の方へ向き直った。

 そして、大きな手がそっと伸びてきて、私の頬にかかった髪を優しく耳にかけた。

「……ユリウス、様?」

「君の笑顔が、出会った頃よりもずっと増えた。……それが、たまらなく嬉しいんだ」

 夕日に照らされた彼の瞳は、ひどく優しくて、甘かった。

 触れられた指先から、熱が伝わってくる。

「……明日からまた地獄のような激務だが、君のこの笑顔を思い出せば、なんとか生き抜けそうだ。待っていてくれ、織姫」

 そう言って微笑み、ユリウスは車に乗り込んでいった。

 静かに走り去る魔導車を見送りながら、私は自分の胸の奥が、トクトクと早鐘を打っているのに気がついた。

(待っていてくれ、って……)

『ピコン!』

『神界リスナー【永遠の17歳女神L】からのメッセージ:

「アァァァァ! 今の顔見た!? 完全に惚れてる女の顔じゃん!! 織姫、おめでとう!!!」』

『神界リスナー【規律の天使V】からのメッセージ:

「尊い……(浄化)……100,000 Pt 投げ銭します……尊い……」』

「も、もう! 神様たち、うるさいですっ!」

 私は赤くなった顔を両手で覆い、誰もいない夕暮れの空に向かって抗議した。

 限界社畜だった私の心に、これまで感じたことのない、小さくて温かい「恋」の感情が芽生え始めていることを、私はもう誤魔化すことができなかった。

 一方その頃、私がそんな甘い時間を過ごしているとは露知らず。

 帝都のカーライルは、またしても取り返しのつかない大失態を演じようとしていた。

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