EP 5
タローマンの最新工具と最強DIY女子。神々も熱狂する一晩の奇跡
濁流が渦巻くポポロ川を前に、村人たちは言葉を失っていた。
村と外を繋ぐ唯一の命綱だった木造の橋は、昨晩の嵐で無惨にへし折れ、流木の残骸が岸辺に打ち上げられているだけだった。
「これじゃあ、どう足掻いても馬車は通せねぇ……」
村長が頭を抱える中、私はポンと彼の肩を叩いた。
「大丈夫です。少し下がっていてくださいね」
私は大きく息を吸い込み、誰にも見えない脳内の【善行通販】ウィンドウを展開した。
先ほどの『特別支援』のおかげで、ポイントは五千万Ptを超えている。新たに解放された『特別建築カテゴリ』には、地球のホームセンター顔負けのプロ用資材や、ルナミス帝国が誇る職人向けショップ『タローマン』の最新機材がずらりと並んでいた。
「ええと、橋の土台になる『H鋼(高強度鉄骨)』と、『超速乾・魔導セメント』。それにタローマン製の『魔導チェーンソー』と『最新型インパクトドライバー』をポチッと!」
――シュァァァァッ!
まばゆい光と共に、岸辺の空き地に大量の建築資材と、重厚な金属音を放つ工具の山が出現した。
村人たちとユリウスが「な、何もない空間から鉄の柱が!?」と目を剥いている。
「さぁ、スアイ! 出番だよ!」
「ええ、任せてくださいな!」
スアイは優雅に歩み出ると、タローマン製の防護ゴーグルをスチャッと装着し、長い髪を後ろで無造作に束ねた。いつもの美貌が、今は凄腕の現場監督のように見える。
「まずは、あの忌々しい濁流を黙らせますわ。――『絶対零度』!」
スアイが手をかざした瞬間、川の表面がパキパキと音を立てて凍りつき、瞬く間に分厚い氷の土台が形成された。元『氷魔将軍』の面目躍如たる、規格外の魔法行使だ。
足場が確保されたのを確認すると、スアイは両手にタローマン製の魔導チェーンソーとインパクトドライバーを構えた。
「いきますわよ。フフッ、血沸き肉躍りますわ!」
そこからのスアイの動きは、もはや芸術的というほかなかった。
普通なら大人数人で運ぶ重さのH鋼や巨大な丸太を、彼女は片手で軽々と持ち上げ(魔将軍の超絶パワー!)、氷の土台にガンガンと突き刺していく。
そして、魔導チェーンソーで瞬く間に木材を正確な寸法に切り出し、インパクトドライバーでガガガガッ!と凄まじい速度でビスを打ち込んでいくのだ。
「スアイ! 次の金具と、魔導セメント持ってきたよ!」
「ありがとう、織姫! すかさずそこに流し込んでくださいな!」
私も作業着を羽織り、スアイのサポートに回る。
二人で息を合わせて、橋の骨組みを組み上げ、床板を張っていく。汗を流し、土にまみれながらの作業だが、不思議と疲れは感じなかった。
「織姫、私も手伝おう。これでも帝国軍の訓練は受けている」
見かねたユリウスが、上着を脱いで腕まくりをしながら近づいてきた。
「ダメですよ閣下! あなたは病み上がりなんですから! 村長さんたちと一緒に、向こうで陽薬草茶でも飲んで座っていてください!」
「し、しかし、愛する……いや、大切な君を働かせて、私が休んでいるわけには……っ」
「いいから! そこで見ててください!」
私はユリウスを強引にテントの椅子に座らせ、熱いお茶を押し付けた。ユリウスは「……なんという過保護だ。だが、悪くない」と頬を染めながら、大人しくお茶をすすり始めた。
一方、脳内のゴッドチューブでは、私たちのDIY作業が大バズりしていた。
『ピコン!』
『神界リスナー【永遠の17歳女神L】:
「スアイの物理パワーやばwww なんで丸太片手でブン回してんのwww」』
『神界リスナー【見習い女神R】:
「電動工具の音がASMRみたいで心地いいです〜! 織姫ちゃんの手際もプロ級ですね!」』
『神界リスナー【規律の天使V】:
「民のために汗を流す姿……これこそ真の貴き労働! スパチャ追加します!!」』
画面の端で、投げ銭のポイントが滝のように増え続けていく。
神様たちも、私たちの泥臭くて真剣な作業を心から楽しんで応援してくれているのだ。
* * *
そして――翌朝。
朝日が昇る頃、ポポロ川には、立派な新しい橋が架かっていた。
鉄骨で補強され、魔導セメントで強固に固められたその橋は、以前の木橋よりも遥かに頑丈で、二台の馬車がすれ違えるほどの幅を持っていた。
「で、できたぁ……っ!」
私は工具を置き、大きく伸びをした。
「ふぅ、良い汗をかきましたわ。やはりDIYは世俗のストレスを忘れさせてくれますの」
スアイも満足げに、完成した橋を叩いて強度を確かめている。
「お、織姫先生……スアイ様……」
様子を見守っていた村長や村人たちが、震える足取りで橋に近づいてきた。
そして、その頑丈な造りを見るなり、彼らはその場に泣き崩れた。
「ありがとう……! 本当に、ありがとうございます! これで村は救われました……っ!」
「先生は、ポポロ村の恩人だ……!」
村人たちが次々と私の手を取り、涙を流して感謝の言葉を口にする。
その温かい手と、真っ直ぐな感謝の言葉に、私は胸が熱くなった。
(……ああ。私、こんなふうに直接「ありがとう」って言われたの、いつ以来だろう)
帝都の市役所にいた頃は、どんなに完璧な仕事をしても、感謝されるのは上司であるカーライルだけだった。私はただの「便利な道具」として消費されていた。
でも今は違う。
自分の意思で、自分の力で、誰かを笑顔にできた。その事実が、たまらなく嬉しかった。
「織姫」
背後から、優しく名前を呼ばれた。振り返ると、ユリウスが温かい微笑みを浮かべて立っていた。
「君の行動力と、人を惹きつける力には驚かされる。……君は本当に、奇跡のような女性だ」
「そんな、奇跡だなんて大袈裟ですよ。スアイの力と、色んな道具があったからできただけで……」
「謙遜することはない。君が、君自身の意思で皆を救ったのだ。……誇りに思うよ」
ユリウスはそっと私の頭に手を乗せ、優しく撫でた。
彼の大きく温かい手に包まれ、私は少しだけ泣きそうになりながら、ふにゃりと笑い返した。
* * *
同じ頃。帝都・中央市役所、カーライルの執務室。
「……なんだと? ポポロ村の橋が、たった一晩で修復された?」
部下からの報告書を読み、カーライルは不機嫌そうに眉をひそめた。
「はい。何でも、左遷された天原織姫が『独自のコネ』を使い、未知の鉄骨とセメントを用いて、極めて頑丈な橋を造り上げたとのことです。工兵部隊も顔負けの強度だと、視察員が驚愕しておりました」
報告を聞いたカーライルは、一瞬唖然とした後、ニヤリと醜悪な笑みを浮かべた。
「はっ、あの無能女め。左遷先で必死に点数稼ぎをして、俺に許しを乞うつもりか。健気なことだ」
カーライルは、自分のデスクに山積みになったままの「処理できない書類」を一瞥した。
織姫がいなくなってから数日。実務能力ゼロの彼は、すでに自分の首が絞まり始めていることに薄々気づいていた。だが、そのプライドが、失敗を認めることを許さない。
「いいだろう。あいつが開発したという、その『未知の建築手法』。俺の指導によるプロジェクトとして、市長と御前会議に報告してやる。……あの女には、俺の手柄になるという最高の喜びを与えて、もう一度こき使ってやろうじゃないか」
自らの無能さを顧みず、再び他人の努力をかすめ取ろうとする手柄泥棒。
その愚かな決断が、彼自身を修復不可能な破滅へと導くことになることを、この時のカーライルは知る由もなかった。
読んでいただきありがとうございます。
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