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EP 7

ポポロ村の奇跡の収穫祭 ~限界社畜、初めて正当な評価と感謝の胴上げを経験して涙する~

 秋晴れの、高く澄み渡った青空。

 今日のポポロ村は、村の歴史始まって以来の、空前の熱狂と活気に包まれていた。

「おっしゃあ! 今年の『太陽芋』は桁違いのデカさだぜ!」

「こっちの『月見大根』も見てくれ! まん丸でツヤツヤ、まるで本物の満月みたいじゃねえか!」

 広場に次々と運び込まれるのは、黄金色に輝く太陽芋と、はち切れんばかりに実った月見大根の山である。

 村人たちの顔は、誰もが満面の笑みで輝いていた。

 それもそのはず。今年のポポロ村の収穫量は、例年の三倍以上。しかも、品質は帝都の高級市場に出してもトップクラスの『超特級品』ばかりなのだから。

 この奇跡の大豊作をもたらした最大の要因――それは他でもない、ポポロ村出張所に赴任してきた天原織姫の存在だった。

「ふふっ。地球の『成分調整型・高性能有機肥料』と、タローマン製の『魔導軽量クワ』の組み合わせ……見事にアナスタシア世界の土壌とマッチしましたね」

 広場の隅で、織姫は収穫の様子を眺めながら、満足げにウンウンと頷いていた。

 彼女が村のゴミ拾いや、暴走兎キャルルの破壊跡の修繕といった無償の労働を行うことで貯まった『善行ポイント』。それを全額つぎ込んで『善行通販』で取り寄せた農業資材は、ポポロ村の豊かな自然魔力と完璧な化学反応を起こしたのだ。

「おおきに、おおきに! ルナ・イーツの特急便やでーっ!」

 そこへ、専用の大きなリュックを背負ったルナイーツ配達員・クロノ(実は始祖竜の仮の姿)が、マッハの速度で駆け込んできた。

 彼のリュックの中には、織姫が事前に通販で手配していた『地球の極上お惣菜』や『タローソンのからあげ』がぎっしり詰まっている。

「クロノさん、お疲れ様です! 配達ありがとうございます」

「いやいや、織姫ちゃんの頼みとあらば、時間巻き戻してでもアツアツのまま届けるで! さあ、宴の始まりや!」

 クロノの合図とともに、村の広場に設営された大テーブルに、次々と豪華な料理が並べられていく。

 特大の太陽芋を使ったホクホクのじゃがバター、月見大根の風呂吹き大根。そして、スアイがタローマン製の巨大バーベキューコンロで豪快に焼き上げる『肉椎茸とシープピッグの串焼き』である。

「さあ、どんどん焼きますわよ! 収穫祭の熱気、サウナのロウリュウに負けないくらいアツアツにしてさしあげますわ!」

 タローマンの耐熱エプロンを身につけた元氷魔将軍が、氷魔法で絶妙に火加減を調整しながら肉を焼くという、世界でここでしか見られない贅沢な調理風景が広がっている。

「すんすん……っ! ああっ、お肉とお醤油草の焦げる、すっごくいい匂いですぅ!」

 キャルルは、村長としての見回り(という名のつまみ食いパトロール)を終え、目をキラキラさせながら串焼きに飛びついた。

 彼女のウサギ耳は、村人たちの心臓から発せられる「嬉しい」「美味しい」「楽しい」というポジティブな心音を拾い、パタパタと幸せそうに揺れている。

「フン……まあ、今年のネギの出来は、ワシが認めたるわ。この『地球の白だし』っちゅう液体、なかなかええ仕事しよる」

 突然変異体のネギポーンであるネギオも、ポポロシガーを吹かしながら、自分から切り落としたネギを入れた特製スープを啜り、満足げに目を細めていた。

 誰もが笑い、誰もが満たされている。

 織姫は、出張所の縁側に腰掛け、その光景を眩しそうに見つめていた。

(……帝都にいた頃は、こんなふうに誰かと笑い合いながら、ご飯を食べる機会なんてありませんでした)

 思い出すのは、冷たく無機質な中央市役所の執務室。

 自分が徹夜で仕上げた企画書は、すべて元婚約者の名前で上に提出され、彼が手柄と賞賛を独り占めしていた。

 織姫に与えられたのは、「お前は地味だから、裏方で俺を支えるのがお似合いだ」という心無い言葉と、終わりのない書類の山だけ。

 いくら身を粉にして働いても、誰からも「ありがとう」と言われることはなかった。それが当たり前なのだと、自分の心を殺して、ただの歯車として生きてきた。

「――お姉様!」

 不意に、キャルルの元気な声が耳に届いた。

 顔を上げると、いつの間にか村人たちが、織姫の周りにぐるりと集まっていた。

 農家のまとめ役である長老が、深く皺の刻まれた顔をくしゃくしゃにして、織姫の前に進み出る。

「天原の嬢ちゃん。……いや、織姫様。本当に、本当にありがとうごぜぇます」

「えっ……? ちょ、長老さん、急にどうしたんですか?」

「嬢ちゃんが来てから、この村は変わった。ただの吹き溜まりだったこの村が、こんなに立派な作物を育てて、みんなが腹一杯食えるようになった。嬢ちゃんが持ってきてくれた不思議な道具と、何より嬢ちゃんの『村を良くしよう』って気持ちのおかげだ」

 長老の言葉に、村人たちが次々と頷く。

「そうだ! 織姫ちゃんは俺たちの女神様だ!」

「いつも深夜まで、出張所の明かりをつけて村のために書類を書いてくれてるの、知ってるんだぞ!」

「あんたがいなきゃ、今年の冬は越せなかったかもしれねえ。本当に、ありがとうな!」

 次々と投げかけられる、温かく、真っ直ぐな感謝の言葉。

 それは、帝都の虚飾に満ちた賛辞とは違う。土にまみれ、汗を流して生きる人々の、心からの『正当な評価』だった。

「みなさん……」

 織姫の胸の奥が、ツンと熱くなった。

 認めてもらえた。自分の頑張りが、ちゃんと誰かの役に立って、こうして笑顔の連鎖を生んでいる。

 その事実が、凍りついていた元社畜の心を、優しく溶かしていく。

「お姉様! 私たちからの、感謝の気持ちです!」

 キャルルが元気よく右手を突き上げた。

「さあみんな! お姉様を胴上げしますよ! せーのっ!」

「おおおおーっ!!」

「えっ!? ちょ、ちょっと待って! 胴上げって、私、そんな、重いし――わあっ!?」

 村の屈強な男たちと、馬力のおかしいキャルルが、織姫の体をふわりと持ち上げようとした。

 ――その瞬間である。

「ストォォォォップ!!」

 ズドォォンッ! と、地面を揺るがす着地音と共に、スアイが織姫と村人たちの間に割って入った。

「あなたたち、馬鹿ですの!? キャルルの筋力(通常時でも20馬力)で小柄な織姫を胴上げなどしたら、そのまま大気圏を突破して星になってしまいますわよ! 織姫はタローマンの丸太じゃありませんのよ!」

「ああっ!? す、すみません! 嬉しくてつい、力加減を……!」

 スアイが、両手を広げて物理的に村人たちの『過剰な感謝』から織姫をブロックする。

 その必死で過保護な親友の姿に、ポカンとしていた織姫は――やがて、プクッと吹き出した。

「ふふっ……あははははっ!」

 一度笑い出すと、もう止まらなかった。

 おかしくて、嬉しくて、胸がいっぱいで。

 笑いながら、ポロポロと大粒の涙が零れ落ちていく。

「織姫……? まさか、どこか痛めましたの!?」

「お姉様! 心臓の音が、すごく速くて、でも……すごく温かい音で……っ!」

 慌てる親友と妹分に、織姫は涙を拭いながら、満面の笑みで首を横に振った。

「ううん、違うの。……ただ、すごく嬉しくて。私、この村に来て、皆さんと出会えて、本当に良かったなって」

 夕日に照らされるポポロ村。

 美味しいご飯の匂いと、大好きな人たちの笑い声。

 限界社畜だった天原織姫は、この日、生まれて初めて「自分の仕事が正当に評価され、感謝される」という至上のカタルシスを味わい、幸せな涙を流したのだった。

 ……だが、この温かい幸福の絶頂の裏で。

 帝都から放たれた『悪意の馬車』が、ポポロ村の境界線へと、すでにその醜い車輪を乗り入れようとしていたことを、彼らはまだ知らなかった。

読んでいただきありがとうございます。

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