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EP 13

全世界生放送の論破。手柄泥棒のメッキが剥がれる時

 広場の中央に投影された巨大な魔導通信石のスクリーン。

 そこには、帝都・中央市役所の大会議室に集まる市長や重鎮たちの、驚愕と怒りに満ちた顔が鮮明に映し出されていた。

「さあ、カーライル。貴様が天原織姫を『指導』し、彼女の成果が全て自分の実力であると主張するのなら、今この場で証明してみせろ」

 ユリウス様の冷たくも絶対的な宣告が響く。

 私は、出張所から持ち出した分厚いファイル――彼が過去に提出した企画書のコピーと、私が独自にまとめたポポロ村の特産品データ――を抱え、カーライルの目の前へと進み出た。

「か、勝手な真似を……! 俺はお前の上司だぞ!」

「元、上司です。それに、あなたが本当に私を『指導』してくださっていたのなら、私の質問に答えられないはずがありませんよね」

 私は落ち着いた声で言い、ファイルの一番上にある書類を彼に突きつけた。

「まずは、あなたが『自分の管轄の成果だ』と主張している、ポポロ村の新特産品『ハニーかぼちゃとポポロ・コーヒーのティラミス』についてお伺いします。……このスイーツの核となる、ポポロ・コーヒーの最適な焙煎時間と、抽出温度を答えてください」

「は、はぁ!?」

 カーライルは目を泳がせ、声を荒げた。

「そんな末端の作業員が知るようなくだらない数字、俺が記憶しているわけがないだろう! 上に立つ人間にとって重要なのは、商品が生み出すシナジー効果と、市場へのマーケティングのベクトルだ! 俺は全体をディレクションしたのだ!」

 聞きかじったビジネス用語を並べ立てて、必死に誤魔化そうとする。

 私は小さくため息をつき、静かに首を横に振った。

「くだらない数字、ではありません。ポポロ・コーヒーは非常に香りが高く、特有の強い苦味があります。ティラミスの甘みと調和させるためには、通常よりも低い『七十八度』の低温で、じっくりと時間をかけて抽出する必要があります。少しでも温度が高ければ、雑味が出て商品になりません。……商品の開発を指導した人間が、この最も重要な工程を知らないなんて、あり得ません」

「う、ぐ……っ」

「それに、『ハニーかぼちゃ』は栽培条件が極めて特殊です。あなたが指導したというのなら、ポポロ村のどの土壌で、どのような魔力調整を行って栽培したのか、当然ご存知ですよね?」

「そ、それは……っ! 適度な日照と、一般的な肥料をだな……!」

「全く違います。この特産品は、私たちが一から泥にまみれ、村の皆さんと試行錯誤を繰り返してようやく完成したものです。帝都のふかふかな椅子に座り、一度も現場を見に来なかったあなたに、語れることなど何一つありません」

 私のきっぱりとした否定に、通信石の向こう側の役人たちがざわめき始めた。

『おい、どういうことだ……』

『カーライル君は、特産品の製造工程を全く把握していないのか?』

 疑念の目が向けられ、カーライルの顔からどんどん血の気が引いていく。

 だが、私の追及はこれで終わりではない。彼が私から奪い続けてきた過去を、全て清算するのだ。

「次に、こちらの書類です」

 私はファイルをめくり、彼が以前、御前会議で大絶賛されたという『第三区画・魔導下水道敷設案』の企画書を取り出した。

「なっ……お前、なぜそんな過去の書類を……!」

「私が実務を担当し、データをまとめていたからです。……カーライル様、この企画書の十四ページ目。魔力流動予測のパターンを、当初のA案からB案に変更していますね。なぜですか?」

 カーライルはビクッと肩を跳ねさせた。

 先日の御前会議でユリウス様から詰め寄られ、何も答えられなかった彼にとって、トラウマのような書類だ。

「そ、それは……B案の方が、初期コストを削減できるからだ! そうだ、俺は常に市の財政を最適化するために――」

「間違いです。B案は、A案よりも初期コストが十五%も高くなります」

「な、なに……?」

「私が――いいえ、『あなたが』A案からB案に変更した理由は、事前の地質調査で地下に強固な魔力岩盤が発見され、A案のルートでは物理的に工事が不可能だと判明したからです。コスト削減どころか、ルートを迂回せざるを得なかったからです」

 私はカーライルの目を真っ直ぐに見据えた。

「あなたはこの書類を『自分が作った』と言い張りました。ならば、なぜ自分が書いたはずのルート変更の理由すら知らないのですか? なぜ、先日ユリウス様から古いデータを指摘された際、すぐに修正案を提示できなかったのですか?」

「あ、あぁ……あ……」

 カーライルは口をパクパクとさせ、一歩、また一歩と後ずさった。

 何も答えられない。彼の薄っぺらい知識と虚勢は、客観的な事実とデータの前に完全に粉砕されていた。

「答えは一つしかありません」

 広場に、私の声だけが静かに、だが確かな重みを持って響き渡る。

「あなたは、私が徹夜で集めたデータや修正案の『付箋』を剥がし、表紙だけをすげ替えて、自分の手柄として提出していただけだからです。あなたは、自分では何も生み出せない。他人の努力を盗まなければ、書類一枚まともに完成させられない人なんです」

『――ッ!!』

 通信石の向こうの大会議室で、爆発したような怒号が上がった。

『カーライルゥゥゥッ!! 貴様、これまでの企画書は全てその女性に作らせていたというのか!!』

『御前会議で宰相閣下に提出する重要書類すら、他人の丸写しだっただと!? なんという恥知らずな!』

 市長が顔を真っ赤にして激怒し、他の議員たちも一斉にカーライルを糾弾し始めた。

 帝都の中枢に、彼の無能さと手柄泥棒の事実が、言い逃れのできない形で『全世界同時生配信』されたのだ。

『ピコン! ピコン! ピピピピピピピピポーン!!!』

『神界リスナー【永遠の17歳女神L】からのメッセージ:

「キタァァァァァァァァァァ!! 完全論破!! ぐうの音も出ないほどの圧倒的ファクトパンチ!!」』

『神界リスナー【炎上神W】からのメッセージ:

「生配信で自分の無能さを大暴露www クソ上司、顔面ブルーベリーフラペチーノじゃねーかwww 最高だぜ!」』

『神界リスナー【規律の天使V】からのメッセージ:

「正義は成されました! 偽りの栄光は地に落ち、真の努力者が光を浴びる。これぞ世界の理……!(スパチャ:1,000,000 Pt)」』

 脳内で神々がお祭り騒ぎを起こし、凄まじい額のポイントが加算されていく。

 だが、現実の広場は、カーライルにとって地獄そのものだった。

「ち、ちが……っ、俺は、俺はエリートだ……! あんな地味な女に、俺が頼っていたなどと……!」

「事実だ、カーライル」

 これまで静観していたユリウス様が、冷酷な死神のような声でトドメを刺した。

「貴様がどれほど己の無能さを否定しようと、結果が全てを物語っている。天原織姫を失った貴様は、ただの書類一つまとめることができず、御前会議で恥を晒した。……それが、貴様自身の『本当の実力』だ」

 ユリウス様は懐から数枚の書類を取り出し、カーライルの足元に投げ捨てた。

「さらに、貴様が天原織姫の超過勤務手当を意図的に未申請にし、それを視察費の名目で横領していた証拠も全て揃っている。……他人の手柄を盗むだけでは飽き足らず、金まで着服していたとはな」

「よ、横領……!?」

 通信石の向こうの市長が、ついに堪忍袋の緒が切れたように絶叫した。

『カーライルッ!! 貴様のような下劣な泥棒に、娘は絶対にやらん!! 婚約は破棄だ!! そして、市の公金を横領した罪、決して許さぞ!!』

「お、お義父様! お待ちください、これは何かの間違いで……!」

『二度と私を義父と呼ぶな!! 貴様は今日付けで懲戒免職だ! 衛兵! 直ちにポポロ村へ向かい、その愚か者を拘束しろ!!』

 通信石の映像がプツリと切れ、広場には静寂が落ちた。

 出世。名誉。市長の娘との婚約。そして、虚飾に塗れたちっぽけなプライド。

 カーライルがしがみついていた全てのメッキが、音を立てて完全に剥がれ落ちた。

「あ……あぁ……っ」

 膝から崩れ落ちたカーライルは、床に散らばった横領の証拠書類を震える手で掻き集めようとしていた。

 その顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになり、かつての『エリート上司』の面影など、もうどこにも残っていなかった。

読んでいただきありがとうございます。

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