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子どもの頃から好きなあなたと  作者: もち雪
木染月に君を知りて

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54/59

54:三者三様の大人の世界(愚痴)

 カサブランカの寮の前にふたたび馬車の列ができたその日、ふたたびアイシアと会うことができた。


 夏の長い休み中、(わたくし)は同好会の部室へ通いつめ、長時間太陽の下へ出たのは海での波乱の一日だけ、それ以外は、学校内の購買で買い物をして過ごし、馬車で行動していた。


 だから部室へやって来てくれた彼女を、扉の飾り窓の中に見つけた時、長い休みの間にほんのり小麦色の焼けた肌を見て、羨ましくもあり、それ以上に嬉しかった。


 そして一緒に、玄関へやって来ていたエルウィンが制止するより早く、扉を開け、親友の前に立っていた。


「アイシア……」

「ルルカ!」


 やわらかな秋の風が、二人の制服を揺らし、アイシアの顔が歓喜の笑顔に変わる。


 どちらからともなく、親友同士である二人は、お互いの体を抱きしめていた。


 やはり彼女からは、優しいカモミールの香りがして、不意に心が緩み、ルルカの頬に涙がつたう。


 しばらく優しい香りに包まれそおしていたかったが、ゆっくりとアイシアは彼女から離れた。

 アイシアの前で、彼女は黒髪をなびかせ、碧い瞳から頬に静かに涙が(こぼ)れている。


「どうしたの? 泣き虫なって?」 

「そうね、泣き虫のままじゃ困るわね……。でも、嬉しいわ……、今は、素直に嬉しいの」

「そっか、いろいろ大変だって聞いたよ。」


 アイシアは、彼女の肩に手を置くと、懐かしそうに彼女の顔を見る。

 少し離れていただけなのに、色々なことが起こり、心が疲れてしまっていたのかもしれなかった……。


 でも、今は彼女の居てくてる事で、新たな癒しに受ける事ができている。


「あぁ……、エルウィン、ハリネズミの様に自分を守っていた、ルルカをこんなにしてしまって、いけない人だわ」


 言葉と裏腹に、とても嬉しそうな親友の言葉を聞き、不心得ながらついてくれていた彼の事が、頭になかった自分を恥じ、おずおずと彼女は後ろに振り向いた。


「もちろん、責任は取る。彼女が許してくれれば……卒業してすぐにでも……」


 学生服の彼が、一歩、また一歩、彼女たちの近くにやって来て、アイシアの手の外側に手を置き、徐々に内側へ移動させ、アイシアの手を追い詰め始めている。


「久しぶりに会ったのですもの、ルルカはまだあげないわよ」

「レディ…………」


 それだけ言うと、いたずらっ子の眼差しで、涙の残るルルカの碧い瞳を彼女は見つめ、そして戸惑った、エルウィンの声を聞く事になった。


 ルルカは、そんな恋人と親友の間を取り持とうと、アイシアの顔と、彼女の上から聞こえた声をたどる様に、上を見ようと顔をあげるが、首の角度の限界のせいで、見えるのは天井だけで、彼女は凄く戸惑いつつある。


 無下にできない大切な人たちに触れられ、身動きができない彼女は心の中で慌ていた。


 辺境伯の娘であるアイシアには、驚かせられる事も多くあったのだけれど、エルウィンを戸惑わせる人物なんて、アンドリュ師匠だけだと思ってた。


「うふふ……」

 今度は口に両手の指先つけて、思わずクスクスと笑い声が零れだす。


「あら、今度は可愛い」

 そう言った、彼女はルルカの頬に触れ、親指でルルカの涙を拭きとり始めた。


 コンコン――。


 近くの壁が、ノックされる。


「あら、イドルド早かったのね」

「イドルド様ごきげんよう」

 ルルカは、アイシアに頬を触れられたまま、彼女の許婚に挨拶をした。


「ごきげんようエルウィン様、ルルカ様」


 穏やかそうな表情をうかべ、アイシアの婚約者のイドルドが立っていた。


「やぁ、イルイド」

「エルウィンも居たのか、久しぶりだな」


 そう話している前で、アイシアがルルカの頬を、その手のひらでスリスリすると――。


「じゃー(わたくし)たちは、部活の様子を見て来るわね」

 と言い一歩後ろずさり、手をふり「また後でね」「またな」そう言ってわかれた。


 そして校舎の角を曲がったところで、新しい人影が……。


「お兄様……」


 スーツに身を着込むアッシュと、王国錬金術師の制服に身を包んだエルドアがやって来る姿がみえた。


 しかしその後ろに、普段、教鞭をとる際の、普通の格好のゼロス先生まで歩いて来ていた。


 三人は、話し込んでいるようだった。八割ほど兄が話はしている様子で、ルルカは子どもの頃から変わらない兄の様子に少しだけ肩をすくめた。


 待っていると、三者三様の挨拶をして、ルルカを先頭にロッカールームを抜ける。

 部室に入ると「すまない、集まってくれ」と、まるで先生の兄が、皆に呼びかけた。


「何ー?」

 そう呼びかけに対して、セロッティーが問いかける。


「喜んで欲しい。国内の薬の在庫量が、規定数にほぼほぼ達する目途がついた」

「では、詳しくは(わたくし)から」

「では、エルドア頼んだ」


 王国錬金術師のエルドア様が説明するため、兄がやや後ろへと下がった。


「まずは、ルルカ様の製造したポーションについてですが、(わたくし)はそれについて知らなかったのですが、ヘイゼル家の製造した特化した薬品の治験に際して、専用の検査プロセスは確立されていました。開かずの資料庫にヘイゼル家の専用スペースがあったほどにです」


「それは祖父の薬に対し、使われていたものなのですか?」


「いえ……、どうやらそうではない様です。検査記録も一緒に残ったのですが、記載されていた日付的にはもっと古い世代につくられた書類ばかり見つかりました」


「まぁ、じっ様は努力した天才だったんだろう。それだけルルカの能力は稀なものなのかもな」


 そう黒板の前に座っている。大人三人組の中の真ん中の兄はそう語った。


「それは……魅力的だわ。確実に、ルルカの力を解明したいわね」


 腕を組んだセロッティーがまたもや、壮大な夢を語っている。


 隣りで、アワアワしている人物や、「うちの妹を怪しい実験に使わないでね」って兄は言っている。


「……人体実験について制限や罰則がありますから、下手したら人生が終わってしまいますので、気を付けてくださいね。


 では、話は戻りまして、ヘイゼル家専用の検査プロセスに対し、我々王国錬金術師たちは会議を行いまして、その内容について検討しました。


 そして実際、実験をしたのですが、ニ、三の検査プロセスは増えましたが、その検査方法について承認されています。


 錬金術の分野は最近脚光を浴びた学問ですので……、それ以前の錬金術をやろうなんて鬼才に、今の錬金術が追い付いてない様で、すんなりしたものです。


 実は、ロストテクノロジーぽい文献まで出てきて、困惑してます」


 そう寂しげに語るエルドアの話を聞いて、兄は口を一文字に結び、『うん、うん』と、うなずいている。そんな兄を、ルルカは食い入るように見つめている。


「そんなわけでルルカ様の作ったポーション、錬金術師部、そして前もって王室が、その名を使い各工房を作らせていた薬の数々を市場に出し、今ほぼ、ほぼ上手く回っています。


 しかし海外からの輸入の見込みはしばらくありません。


 そのため、今後引き続き薬草、薬の制作の協力をお願いします。


 そして皆さんも知っての通り、海外であるクリアード。


 その地にあるペイジ家の農園で起こった暴動や、海での海賊行為の発生についての発表を、ペイジ家並びに、アルセル家の刑の執行後、この国の国民へ告知いたしました。


 過去の出来事に対して、不安を煽り、混乱を促す行為に歯止めをかける猶予期間を置いたつもりだったのですが、正直、混乱を誘う行為は、多少はみられた事をご存じでしょう。


 ですが、なんとかそれも切り抜けました。


 これが我々王室の仕事であり、王国錬金術師の仕事です。


 そこでは未来を担う、錬金術師を募集しております。


 もちろん全員は受かりません、二年の、三年の方々にも合格足りる技術の習得を願います」


 そう言ってエルドアの話を〆た。


 現状の報告と、それよりもっと大きな、優秀な錬金術師獲得のための思惑の様なものを、凄ーく感じるが気のせいではないだろう。


「その為……」

 その後にゼロス先生が続く。


「この錬金術師同好会の実績を認め、生徒会の集まり、もしくは会議の際は、学校側から生徒会側へ、今回の働きについて改めて伝え、同好会の解散など無いよう伝える予定ではあります。ですので、今年中はこの同好会の解散は、(おおむ)ねなさそうです」


「なんで、確定じゃないのよ?」

「そうだ。そうだー!」


「それは……、カサブランカの生徒会は自主的運営をうたってるし、大体……格上貴族の令息、令嬢が役員やってるから、学校側もねー。


 それは裏を返せば、彼らもすべては実績になると心得ているだろうし、学校側から見ても現在の生徒会について、クリーンな生徒会のイメージ通りの結果は残せていると思っている。


 だから安心するといいよ。


 そして来年度は、ルルカ君は王国錬金術師への就職確定なので、セロッティー君も頑張ってくれれば、少数精鋭って同好会のアピールとなる就職実績は残るよね」


「私は崇高な目的のために、王国錬金術を目指すのだけれど、この錬金術師同好会の断続の為に名前を使う事、やぶさかではないわね」


 セロッティーのやや傲慢にも見える口ぶりに対し、彼女が就職試験を近々控えている事もあって、今は下手な事を言えずに、一同、しばし静まりかえった。


「後、職員たちの間で私が忙しいって話になっているようで、錬金術師同好会側にも補助担当入れるって話も出てはいます。……が、新たな先生は錬金術部の方に入れてくれれば全て、上手くいくなのだけれど縦社会だから伝うことにためらわれて、ごめんね……」


 そうゼロス先生は、目尻に皺を作り笑う。


「王国錬金術師側から、カサブランカ側へ話をつけましょうか?」


「えぇー!? それだと後腐れが!?」


 そう言って、錬金術師同士の内輪話が、彼らが椅子ごと後方へ下がる事により始まった。


 錬金術師の卵たちは、大人の社会を目の前でみせられている……。

 それを断ち切る様に、〆として最後にアッシュが話しだす。


「皆さん、僕はここまでです。明日からここへは来れません。


 今回の事件の為、アンドルの仕事を早めに切り上げて帰国しましたが、そのため、僕の次行く予定だった場所への、人事の移動はすぐには無理って事で……、今後の錬金術師関係の貿易について、我が国とクリアードとの調整役として、ふたたび海外へ飛ぶ事になりました。


 何故だろう……僕はそんな教育は受けていなかったのだがね。以上です」


 そう兄は〆た。


 同好会の会員は、それぞれ三者三様の大人の社会をみた。


「アッシュ先輩、今度、昼あるパーティーにいらっしゃる事は変わりませんか?」


「あぁ、それについては大丈夫だ。しかし二人で行って大丈夫か?」


「あぁ、問題ありません。今度のパーティーは家族の顔合わせですので、是非に」


 そう、兄とエルウィンは話している。

 それを聞きつつ、ルルカは心は心にあらずだった。


 次回のパーティーの真の目的は、ノア家から王族に嫁がれたグレース、その方に結婚の承諾を貰う事だった。


 彼女に気に入られても、気に入られなくても、結婚は出来る。


 ――けれど……、だけど……、と、そうは思ってしまうようだ。

 しかし、グレース様にこだわる事は、以前の二の舞。


 なら、一番大切な事は……。


 続く


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