52:錬金術師見習いルルカ 2/2
「光は、夢の中の方が強いな」
気が付けば、出来たばかりのポーションの入ったスープ鍋まわりで、ルルカとセロッティー部長。
「夢は真実ではなく、強調される部分が、記憶の中とそう大差は無かったように思う」
いつの間にか起きていたのかアンドリュー、そしてエルウィンを含む、同盟会のみんなが揃い二人のまわりを囲み立っていた。
「夢の話、話していいのですか? えーっと、技術面とかについて、秘密な部分ってあるのですか……?」
アンドリューは国お抱えの大魔術師、彼の魔術については平和な今はめったに使われる事はないが、長い年月の間、我が国の切り札になってきたものもあるかもしれない。
そう思うとルルカの言葉は、最後には消えてしまうのだった。
「では、俺が話そう。俺は昔ライミュー病という病気を患っていた。それを治したのは幼いルルカで、その事実が、今後の錬金術師として歩むルルカのヒントになると思い、まぁ……いろいろあったんだ」
そう話した時、みんなに大きな驚きは無いように思えた。
そしてセロッティーが口を開く。
「貴方のライミュー病が、完治した事についての噂は知っていたわ。
成長と共に、そういった症状が軽減される事ある。そんな事もあるらしいけれど。
けれのあの当時、ノア家の動きは傍目から見て言葉で表せば『心痛』と言っていいそうよ。
ここだけの話、錬金術に関わる新鋭派の貴族の家系では錬金術を学ぶ際、貴女の完治についてかもしれないって形で、ノア家が『エリクサー』に辿り着いたのではないか?
もう一つの可能性としてヘーゼルの話もでるわ」
「そうなんですか……」
――やはり、そういう所から、ドスカレッドの耳にも入ったのかもしれない?
ルルカは危機一髪で助かったが、闇の様な記憶や思いに、目を向けるように足元をしばらく見つめていた。
しかし、闇を振り払う光? はすぐ降り注ぐ。
「それで、錬金術のヒントとなる事って?」
同好会の誰も、自分の未来に積極的に、思考し、口に出し、行動していく。その姿が、錬金術師を目指す彼女に力を与えていた。
「エルウィン様の薬を作る際、私は彼の完治を願いました。
先ほどと同じ様に、鍋の前に祈り、かき混ぜていました……。
逆に言えばそれだけしかしていません。
それだけライミュー病が完治させて行動には到底思えません。
しかし思い出の中の鍋の姿は、先ほどの鍋の変化と比べて光については輝きがましていたように思います」
「過去について、検証のしようがないわね」
「エルウィン様の為に、特別なポーションを作ってみるとかはどうですか? 誕生祝いのポーションやクリスマスポーションなどをです」
「ルルカ自身に思いあたる事はないのか?」
いろいろの提案があり、フロートの提案を聞いた時、思わず真顔になってしまう。
「そうですね……、特別ポーションですか……、送りたい物に添えてならいいと思うのですが……」
そう答えた時、フロートの顔にはなんだかわかりやすく『しまった!?』と書いてあった。そして、彼は言った。
「はは、そうですよね。普通はポーションなんて、送ろうと思いませんよね。そうすると、検証にならないかもしれませんね。お忘れください。是非に」
「でも、低予算でできたポーションでしたり、素晴らしい効果のポーションなりを新しく生み出せたなら、是非飲んでいただきたいですわ」
そう言って彼の顔を見ると、静かにうなずいてくださる。
――今なら、素敵なポーションができそうですのに。
そんな事をチラっと思いながら、師匠の言葉からも突破口を探してみる。
「家族みな忙しい家ではなく。
山の暮らしの方が祖父も高齢者であったため錬金術について、教わる事も多かったのですがゆ、家庭教師の先生方に勉強を教わり始めると、忙しさから祖父の家へ行く回数も減ってしまいました。
そのために錬金術に触れあう時間が、他の勉強と同列になり少時間がカサブランカに入学するまで続いたからでしょうか?」
「それはないかな。このカサブランカで学ぶ錬金術の質は王室の工房より、僅か程度の違いだけだと聞く。幼い君と才能だけで、ここで学び経験を積んだ君に勝るのは難しいはずだよ」
「それはそうですよね」
エルウィンの意見を聞き、彼女は頭をひねり考える。
その間に、セロッティーが鍋の中のポーションをすくいとりビーカーに入れて、やはりあらゆる角度から眺めている。
「偶然、ルルカの祖父の魔力量にかち合った。もしくは幼さ故に少量ずつの属性が規定量に落ち着いたのかも?」
そう言って彼女は、ティーポットの所へと歩いていき、蓋を開けて、ビーカーに入れらたポーションを注ぎ込む。
「無いこともないかもな? しかし全て想像でしかない。まぁ、これは真実に行き着くのが難しいだろうがな」
「あぁ……部長!?」
慌ててルルカが、彼女のもとまで向かっていった。
それでも、平然とそのままティーカップに注いでいく。
そんな姿がやはり部長らしくて、彼女が注ぐ姿を見ていた。
注ぐ場所をくるくると変え、色を均等にしていく。
「できたわ。先に持っていってくれるかしら」
「はい、わかりましたわ」
そう答えたところで、セロッティーが自然な動作で残りのポーションをごくりと飲んだ。
それをお手伝いに戻るかどうかの、確認をしていたルルカとフロートが彼女のもとへと集まる。
ルルカはセロッティーの体調を見て、フロートは小言を言っていて、なにやら大忙しだった。
そして三人はみなと同じ様に、着席しお茶を嗜む
「幼いルルカ様の願いが、強く、純真であったからこそ魔法の原理で万能薬ができたというのはどうですか? クリスマスの奇跡ぽくって教会でよく聞きそうな話じゃないですか?」
「それはないな。それで叶うなら、俺に彼女の一人や二人いていい事になる。そうなってないなら、その考えは否定するしかない」
「お前……俺の病の完治を願う気持ちと、お前がモテたい気持ちは同列なのか?」
「その通りだが?」
「それね!」
「みたいですね……」
「何が……?」
アンドリューは、発言したセロッティー、ミルティーを見てそう言った。
しかし、彼は女性の前では人懐っこい子どもの様な性格がより子どもぽくなるようで、少しおどおどとしていている様にも見える。
「女の子の誰かを思う気持ちをないがしろにしては、絶対駄目ですよ。大魔術師様! そういう所ちゃんとしなきゃ女の子のハート掴めませんよー」
「それに自己本位だわ。錬金術は崇高なのよ! その学問の前ではモテたい気持ちと一緒にされてわ困るわ」
「じゃー、世界一の錬金術師になるって夢は?」
フロートが、ぼそりと呟いた。
「それは、夢じゃなくて目標と当然の結果よ。そのためには切り捨てるものがあるかもしれないけれど、錬金術についてはないがしろにしないつもりよ。いろいろと」
そう、セロッティーは今までで一番カッコいい風に呟いた。
「そうなのか? エルウィン?」
驚きのあまり、声を若干震わせアンドリューはエルウィンに聞くと、彼は目を伏せうなずき肯定した。
微かに、「地位が高いだけに、突っ込みずれー」と、聞こえたが、ルルカはまわりを見回した後、その事について表情にでないように考えるのだった。
◇◇◇
その時、トントンと、扉が叩かれる。
「あっ、私行ってきますわ。多分、兄でしょう」
「では、俺も行こう」
「俺様はパス苦手ではないが、先生にあってる気分になる」
「それって、苦手じゃないの?」
「そこは突っ込まないでくれ、アッシュは、エルウィンを連れてなら遊びに連れて行ってくれる。
楽しいは、楽しいが、今回、エルウィンは絶対断るだろう? なら行くだけ無駄なんだよ」
「勝手なものね」
「魔法使いだからな」
扉を開けるとやはり、兄が居て……その向こうにフレット……。
「すまん。ふたりとも、フレットがあまりにも馬鹿だから連れて来た」
その時、ルルカが言葉を発するまえに、エルウィンが彼女の前に立った。
「すみません。アッシュ先輩、今のフレットには彼女を会わせる事は出来ません」
「そうか……、お前は実家から」
彼女はふたりの顔を、見比べるくらいしか出来ない。
けれど、意を決して彼女は言葉を選び発した。
「フレットと、リスレイがどうかしたのですか?」
アッシュは大きくため息をつく。
「彼らは辺境へ行くそうだ。
今回の事件は大きく、ペイジ ドスカレッドと名乗っていた男はこの世にも居ない。
スケープゴートが必要なんだ。
だからペイジ家は元より、辛うじて綱の上を歩いていたアルセス家の貴族としての称号と領地までもがはく奪される事となった。
それで新鋭貴族への見せしめとし、旧貴族との関係も手打ちとする事になったようだ」
「そうなんですか……」
フレット、彼には辛い思いをさせられた過去がある。
同時に、彼とお別れする事を望んでいたが、彼の事情も知っていた。あの父親が居れば、どうしようもなかったと……。
だが、その彼の父も、時代が変わっても、考えを変えられず、取り残され落とし穴に落ちてしまっただけかもしれない。
今の時代が、それが悪とするなら、そうなのかもしれない。
時代に流され生きるなら、その変化を見逃してはならないのかもしない。例え水から茹でられたカエルの様な状態でも。
「そしてフレットはどうしょうもない馬鹿だ。
あいつのいう事はすべて嘘かもしれない。
だが、問題はルルカ、お前がどう思うかだ。
あいつは初めから、辺境の地で騎士になるつもりだったらしい。
お前を連れてな。だが、辺境では人が、コロッ、コロッ、虫けらのように死ぬ。
だから、力を蓄えたかったんだと、馬鹿だなー。
本当に馬鹿だ。偏屈過ぎるだろう。
何故か言わない? はぁ……、俺ならもっと違う道を提示できたんだ。
で、どうする? ルルカ、フレットに会うか?」
ルルカは後ろへ振り向き、エルウィンの顔を見た。
そんな彼女を、エルウィンは切なげに見つめる。
その時、ルルカはエルウィンの手に自然に触れつないでいく。
アッシュの眉はぴくっいたが、彼は何も言わなかった。
そして――、
ルルカはふたたび、兄のもとへと振り返る。
「会いません」
それだけ、はっきりと断言すると、彼女は蚕の繭から糸を紡ぎだすように、繊細に言葉を選び話し出す。
「たぶん……彼の好きな私はもう居ません。
焦燥感に囚われながら、待つ日々は苦しさしかありませんでした。
でも、違う気持ちを知ったなら、過去へは振り返りたくないのです。
……そんな私は恋だけを大切する女ではないけれど、受けいれてくだ……、受け入れさせます……と、も違……」
考え込むルルカの首へ、エルウィンが後ろから腕をまわし抱きしめ、彼女の肩に顔を埋めた。
「わかっている……」
彼の頭を右手で撫で、「ありがとうございます。お茶の続きをしましょうか?」
「しばらく、このままで……」
「いや、離れて、早く向こうへ行ってろ」
それを聞き、彼はゆっくり顔をあげ、「アッシュ先輩は、自分のことは棚に上げて……」そう言って珍しく、抗議するエルウィン。
「エルウィンが、子どもぽいこと言うなよ……」
「えっ、えっ? えっ?」
「行こうルルカ後は、お兄さんに任せればいいよ。おいで――」
そう言って、恋人は戸惑う彼女を連れて行った。
続く




