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子どもの頃から好きなあなたと  作者: もち雪
木染月に君を知りて

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50/58

50:過去の結末

 夢の中の風景の時間、それも刻々と過ぎて行っているだろう。

 

 小さなルルカが去って行った、廊下の暗闇を皆が見つめていた。


 そしてお爺様は、近場の椅子を引き出して、心労が溜まったったように腰掛ける。


「許してくれ……、これもお前の為なんだ……」

「どういう事……」


 ルルカのそんな言葉を遮ったのは、ルーだった。

 彼は暗闇から光の中へ出て、祖父のもとへと歩み寄る。


 やはり歳を経ても、事前の知識があっても、幼いルーちゃんは、少ししっかりとした女の子という印象が強い。


ハチミツ色の髪は肩より長く、挿絵で見た、南国の淡い海の色の瞳、そして病気の為、あまり出歩けなかったためか、パジャマ越しに見る彼の体の線の細い。


「あぁ……」


 魔法の光の下の彼は、後悔を残し別れてしまった友だちのままの姿だったので、嬉しさのあまり思わずルルカは声を漏らしてしまった。


 そんな風に、皆の視線がルーに集まり、思い出の中のウイルドも目を見開き、小さなエルウィンの見つめている。


 ルーが祖父の前へ出て、そして跪き祖父の手を取った。

 思わず、エルウィンに目をやると彼は、複雑な表情を浮かべ笑い返す。


「どうか、お願いです。私にルルカのお薬を飲ませてください」

「それはできない」


 祖父は苦し気に、首を振っている。

 

「何を、どこで飲んだのか、決していいません。私は……あの家の一番、上の兄として、妹たちの事を守りたいのです」


「すまない……。ルルカにはああ言ったが、この薬を君に飲ませられない理由は、他にあるんだ。あの子には家の為、結婚の約束を交わた少年がいる」


「えっ……、ルルカ結婚しちゃうの……?」

 彼は驚きのあまり、思わず幼さが残る言葉を使う。


「まぁ、将来の話じゃよ……。まだしない。だが、相手が悪い……。


 もし……あの子にヘイゼル特有の能力が発現していると知れば、あの家の者たちは必ず、そんな気はなくともルルカを使い潰そうとするだろう。


 私にはそれが怖い……。せめて、フレットという少年が、あの子を守ってくれる存在なら……。


 だが、それは今は誰にもわからない。


 だから、今夜の事は私とルー、君と二人だけの秘密にしてくれないかね……? 


 公爵家の嫡男であるエルウィンが、こんな老いぼれを頼らねばならないほど、体調が悪いことが秘密なら、孫の秀でた力も等しく秘密にしなければならない。


 それについては君たち自身の問題ではないが、新たな問題から君たち二人を守る事ができる。


 だから、今夜の事は、私と君との秘密にしてくれないだろうか?……」


 祖父は項垂れ、目の前の少女にも似た、少年にそう懇願していた。


「お爺……様……」


 ルルカは口を押え、今にも零れ落ちる涙を必死に耐えている。

 その両肩に、エルウィンとアンドリューが、優しく手をかけ、さすっている。


 静かに目を閉じて、ふたたび開いた時、少年は言った。


「私は……薬を飲みたい」


 その悲痛な願いに、祖父は二度頷いた。

 わかるよ……と言うように……。


「そしてルルカの助けになる。


 ルルカも、妹と同じように私の家族、決してそんないやな目には合わせない。


 妹を見守るように、ルルカを見守ります。


 ルルカの考えを一番に考えて、ルルカのしたい事をさせてあげる。


 そのために力をちょうだい。ルルカのくれた力で、わたしはあの子を助けたい」


 それを聞いてルルカは、エルウィンを見た。


 そして彼の首へすがりつき、彼女の抱え込んでいた気持ちは、涙へと変わり、堰を切ったように頬を伝う。


 彼女の背中を、騎士の卵と、大魔術師が黙ってさっている。

 ルルカの見えない傷を、癒す様に……。


 ◇◇


 錬金術同好会の部室。

 月の隠れてしまっている今日、夕闇はすでに先を見るのも難しいほどに、闇の中にカサブランカを沈めている。


 アンドリューから全てを聞いたゼロス先生は、珈琲を飲みながら、暗闇に沈んだ外の景色を見ていた。

 

 えっく、えっく、と、大きなルルカは嗚咽を漏らす。


 隣りに座るエルウィン、に肩を擦られながら、子どもの様……。


 あの後の、ルーの様子をルルカは知っている。


 ルーはその深夜から、高熱を出し、別れの日、窓の向こうからは彼女、いえ、エルウィンの熱に苦しむ足だけしか、見る事は叶わなかった。


 窓枠の向こうから見える室内、彼は小さな唸り声をあげていて、心配だった。

 それでも……、ばあやに手を引かれてルルカは帰って行った。


 ――なんて、薄情だったんだろう……。今更ながら、とても悔いが残る。


   続く

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