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子どもの頃から好きなあなたと  作者: もち雪
木染月に君を知りて

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49/58

49:夢であり、過去

 どうやら眠りについたようで、気づけばルルカ暗い廊下に立っていた。


 窓から差し込む月明かり、そして部屋から漏れる明かりで、おぼろげであるのだけれどアンドリューの姿も確認できていた。


「どうやら成功のようだな」


「アンドリュー、ここは祖父の家だと思いますが、これからどうなるのですか?」


「それはわからねぇ。現実の先生が、催眠術の様にある程度は誘導してくれるが、何しろ夢の世界だからな……。取りあえず、しばらくすれば夢の中のエルウィンが出て来る。それを待とう」


 その声に答えるように、廊下に並ぶ部屋の内、工房から二番目に近い扉が開く。中から明るい光が漏れ、私と出会った頃のままの姿のパジャマ姿のルーちゃんが出てきた。


 工房側に居たルルカたちを避けていたが、気づいた様子はないようだ。


「ルー、いえ、エルウィン様ですよね?」

「たぶんな、だがこう暗くてはちゃんと確認できない」


「ところで師匠、これって夢ですよね? 危険なことや、やってはいけない事ってあるんですか? 授業では死ぬと、危ないと教わりましたが……」


「驚かせ過ぎれば人は死ぬんだし、気を付けるに越した事はないが、大丈夫だろ。ここは過去ではなく、エルウィンの夢を土台にした、それぞれの夢。夢の中で攻撃魔法を使っても、現実まで持ち越せる怪我の話しは、俺の使った魔法に関しては聞いてない」


「師匠、それでは人に教える時に、行き詰まりますよ。今後のために、聞いておいた方がいいかと……」


「弟子はやはり、弟や妹弟子が欲しいのか……」

「……弟子としては、箔がつきますしね」


 アンドリューは感慨深そうにそう話し、ルルカは質問をしながら現状を確認し、ルーの後をついて歩く。


 ルーは扉から出てきた時は、誰か探しているのか、辺りを見回した。


 先ほどは後ろを歩く、何かを確認する様に歩きを止め、じィーっとルルカたちの方を見ている様な気配があった。


 その様子だけは、いつも笑顔だったルーちゃんではなく、ルルカは顔を少しだけ、後ろめたさを感じなから顔を赤らめて下を向いて歩いた。


 そして歩いて行くと、前方から光が漏れてくる。


「あの明かり……、それにあそこにいるのは先ほどエルウィンが言っていたように(わたくし)……です。ちゃんと……エルウィン様?」


「あっちはルルカを見つけて、隠れたみたいだ」


 知らぬ間にルーの隠れた居場所を確認する為に、ルルカから離れていたらしいアンドリューがふたりのルルカの元にやって来た。


 そして彼らの行き着く先、子どものルルカの隣りにはエルウィンは途方にくれたように、小さなルルカを見ていた。


 その彼が、やって来た彼女たちに気がついたようだ。


「どういう事だ? どうしてエルウィン、お前がここにいるんだ?」


「俺にはこういった場合、魔術師の術に対抗するための、植物の染料で書かれた、消せるタトゥーが入っているだろう……」


 エルウィンは心底呆れたって、声を出す。


「あぁ……、俺用のな。でも、寝たら駄目だろう? 術にかかってるぞ」


「アンドリュー……、お前がこういった共同調査の際、一端はかかってないと、やりにくいと言ったからだろ……、術師の青ざめた顔を忘れたのか?」


「あ……忘れた。覚える呪文が多すぎる」

「そうか、なら仕方ない」


 エルウィンの日常を推し量り、ルルカは彼を見つめる。

 

 けれど、エルウィンは……、小さなルルカ、現在のルルカを見てこぼれるほどの笑顔をする。


「すまない……。初恋の思い出の君と、今の君、胸にくるものがあって……」


そんな彼の耳に手をかけて、「私も小さなルーのカッコいい所を発見しました」と、彼女は耳元で囁きく。


そしてアンドリューに「俺を混ぜろ」という言葉に、エルウィンは落ち着いた感じで「わかっているよ」と返した。


 その時、不意に祖父が中から現れ、廊下に出てくると、エルウィン様の向こうで消えてしまった。


「祖父ですわ……夢でも、安心しますわ。もういませんのにね」


「ルルカ……」

「大丈夫、お別れはちゃんと致しましたわ」


 ルルカは寂しげだが、ニコリと笑って小さなルルカを見る。

 

 彼女は夢の中だけの存在だけれど、今は祖母の死を乗り越えたばかり。


 そしてこれから祖父の死、失恋や新たな恋、そして誘拐を経験する。

 

 エルウィンではなくてもやはりこの世界は懐かしく、心の柔らかい部分に触れてくる。


「小さい方のルルカが、動き出したぞ」

「はい」


 工房の中心に置かれた鍋に向かって、小さい彼女は膝を折り、一心不乱に祈っている。


「祈っているのか?」


「はい……ルーちゃんの病気を、治してくれるよう女神様に祈ってました。一人残してしまうルーちゃんに何か出来ないかと思って……」


「その思いが、通じたってわけか」


 「けれど……病気が治れば、彼女……いえ、エルウィン様は見知らぬ故郷へと帰ってしまう事はわかっていたので、そこまで純粋な気持ちではなかった……とは思います」


 そう、悪戯を告白するように、彼女は笑う。


 そんな彼女を騎士の卵と、魔術師は暖かく見守る。


(わたくし)はあの時も帰って欲しくない。帰ってしまっても、文通とかお願いすれば良かったですわね。うふふ」


「それは……」

 彼は戸惑った声をだす。


「そうしたら、いつまで女の子だったんだろうなぁー」

「あー……、それは困りますよね」

「取りあえず、お前にはこのエルウィンも、俺様、錬金術師たちもいるだぜ」

 

「アンドリュー師匠……」

「お前は……」


「いいじゃねぇかー。お前はふたりきりの時に言えば……」


 エルウィン様は片手で額を抑え、頭を抱え込んでいる。

 ルルカは、ふれていた手をギュっと握り、こちらを見た彼に笑いかけた。


 手が――。

 彼の手がルルカの頭に降りて来て、不器用に彼女の頭を撫でる。


 なでなでなで――。


「来た! 鍋が光出したぞ!」

「これは何? もしかして……女神様が……」


 少女の声が、驚きに震えている……。


「って、なにやってるんだ!?」


 ついでに、大魔術師もびっくりしている……。


 後ろを振り返ったアンドリューは、ルルカたちの様子に驚き少し後ろずさりした。


 ルルカはされるがままで、少しだけ髪が寝てしまい、表情はきょとんと理解できる範囲を超えてしまいましたと、顔に書いてあるようにたたずんでいた。


 そんな彼女の頭の上で、しっかりとした声で、エルウィンが彼に返事をする。


「この後、ウイルド先生が戻って来るはずだ……」

「いや、答えろよ!」


「すまん……、いとしさが募ってしまった……」


「よし! わかった。前の事に集中しろ!」

「あぁ!」


「……はい!」


 そして彼の言う様に、足音が聞こえて来た。

 その事に、小さなルルカが気付く様子はない。


「ルルカ、どうしたんだ……」


 祖父は、ルルカたちの横を通り過ぎ、小さなルルカの隣りに立ち、そう呟くと唖然とその様子を見つめている。


 鍋はキラキラと、光を煮詰めているようにひかり、光の瞬く音が聞こえてくるよう……。


「ルルカ、ここまでだ。薬草の声が聞こえるだろう?」

「これが……薬草の声?……」


 彼女はかき混ぜる木の棒から手を離し、置いた。


「お爺様、(わたくし)……ルーちゃんの御病気を治したくて」


「わかっているよ。だが、魔法によって調整されているとはいえ、鍋は熱を帯びている。一人の時は決して触ってはいけないよ。さぁ……おやすみ」


「わかりました。お爺様……。あの……、このお薬でルーちゃんは治る?」


「すまない。これはお出しする事はできないんだ。異変が起きた薬は、首都ルーフェンの錬金術師たちに調べて貰わねばならない。この薬は消費期限の短いもの入れてあるので、戻ってくるまでに、薬は使えないものなってしまうだろう……」


 途端に小さなルルカから、涙が溢れだす。


(わたくし)、明日には帰るのに、間に合いませんわ!?」


「そうかもしれない。けれど……、いつか必ず、私が彼を治す薬を作りだすよ」


 ウイルドは、孫の涙をハンカチで拭くと、「さぁ……お眠り、明日は馬車の旅だ。ちゃんと、休養をとるんだよ」と、言って小さな彼女を支えていた手を離した。


「うん、わかったわ。おやすみなさいお爺様」


 そう言って彼女は小さく手を振って、ルルカ達の前を通って行き、入口を出て、右へと曲がった。


 続く


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