報告-17の月、7日、スタンツェ
スタンツェたちの思惑
昨日夕方から東の国の王城を出発し、宿に一泊した。
落ち着いて作戦を共有する場として選び、歌の魔術を応用して防音を施してみた。
効果を感じられたため、朝方に出発して、騎乗しながら魔術を展開する。
「へぇ、これ便利だねー」
「声がデカい」
「どのくらいの大きさなら声が漏れるのかと思ってさ」
アドソンの緊張感のない声が響く。
魔力の使用量と効果と距離を、エレバと測定しながら確認していく。
「東の国は魔術の理を越える研究をしているんですか」
「ん?これはサクラが言い出したんだ。魔力がない世界から来たあいつは、魔術を技術として捉えている。絵画が得意な者と料理が得意な者くらいの違いだ」
「それは・・・大きな違いです」
「あぁ、魔力の違いも性格の違いくらいの感覚で言い出すから、合わせられるなら出来ると言わんばかりだな」
「サクラ嬢の発想は・・・私には到底理解出来ません」
「理解しなくても、否定しなきゃいい。そのうち勝手に巻き込まれてるさ」
「そんなものですか」
「あぁ、アドソンは実験って言いながら、全属性の舞踏の魔術を掴み始めているし、ゴッセはウィスカーと訓練して、風の魔魔力だけだが歌と舞踏を覚えてきている」
「それは・・・」
「俺は魔力が少ない平民でも安全に扱える魔道具を作ることになった。あいつにとっては魔術は技術だ」
「・・・もしその技術が大幅に進化すれば、人は死ななくなるのでしょうかね」
「何か言ったか?」
「いえ、魔力の揺れを感じました、疲れていませんか?」
「疲れた感じはないが、一旦展開を解除するか」
魔術展開を解除すると、エレバはコッヘルに呼ばれ、早々に離れていった。
東の国の国王から許可をもぎ取り、「クーデターの鎮圧」と「自治領としての再起の手伝い」という名目で、俺達六人とウィスカーは旅立った。
今後しばらくはコッヘルを国王として、改革を行うことにしている。
ゆくゆくは平民が長に就き、俺たちは自由に過ごせるようにする。
サクラはペアンと共に幽閉・人質という体を取って、置いてきた。
計画を妨害するタイプではないが、何を言い出すか読めない。
こちらの計画を全て明かしていないからなのだが、突拍子もない無理難題が振ってくることは予想できる。
コッヘルは粗末な部屋で過ごさせることに罪悪感を覚えたが、サクラはサクラでマイペースに過ごすようだ。
西の国の四人はサクラの感覚を理解しているため、サクラの反応は十分理解出来た。
城を出てすぐにゴッセはコッヘルに話しかける。
「まぁ、サクラは嫌なものがあれば改装するだろうから、心配しなくても大丈夫だよ」
「空間魔術の部屋は置いてきた。好きに食って、寝て、過ごすだろうさ」
出会ってまだ一か月も経ってないのに、サクラを気に掛けるコッヘルを不思議な気持ちで見る。
「そういえば、俺たちの快適スペースは?」
「声がデカい。心配するな、小さめだが準備してある」
アドソンが大きな声で話しかけてきてたので、空間魔術の扉を渡す。
「スタンツェ、サクラ嬢に渡していた紙と同じものですか?これは・・・魔術ですか?」
エレバが魔術の織を見たのだろう、興味深げに話しかけてくる。
「これをそれぞれ一枚ずつもっておいてくれ」
「・・・この紙を?」
「おっ、増やしておいてくれたんだなー。スタンツェ、ありがとー」
「これは、ハンカチ程度の薄くて小さい『ドア』だ。袋の中に取り付けて開けてみると良い」
首を傾げながらラスパが手持ちの袋の中に紙を貼り付ける。
「・・・あっ、ドアの奥に部屋が見えるよー。これすげぇ」
「こんな・・・魔術があったんですね」
「元々はバッグの中身を増やせればいいという程度の考えから作った空間の魔術だ。サクラが言い出したことを叶えたんだ」
「このドアをどこかに貼り付けることで、空間を併設出来るのですね」
「あぁ、この先野宿することもあるだろうから、作っておいた」
「サクラさんがいつも作る料理は、この空間で作られたものだったのですか?」
「あぁ、料理の詳細は良く分からないが、コッヘルの体に影響が出ないようにと、色々工夫していたみたいだな。戻ったら、あいつに見せてもらうといい。色々と買いそろえてある」
「そうします」
「これで野宿しても快適だなー!」
馬の上で、伸びをするアドソンに、ウィスカーが声を掛ける。
「え?野宿なんてしないよ?今から西の王城に移動するよっ」
「えっ?」
普段のメイド姿ではなく、男性騎士の姿を取ったウィスカーは六人と馬で並走していた。
急な提案に驚く六人。
「移動なんて時間の無駄でしょ?馬もろとも送り込んであげるから、さっさと綺麗にしちゃってよ。早くサクラちゃんに会いたいから」
口をとがらせて話すウィスカーだが、可愛らしさは全く感じない。
「話がずれるけど、その騎士の姿で、女性の声でその話し方をされると違和感が凄いね」
ゴッセがメッツェンになっているときも、俺たちは違和感を覚えていたんだ。
そこはアドソンと相談して、言わないと決めていたんだが、そうか、お前は口にだすんだな。
「あぁ、宝石の妖精は人間の男女どちらにでも変化出来るよ。前は魔力が少なかったから、メッツェンの希望通りの女性でメイドになってたわけ。今はサクラちゃんの横にいやすいように、女性のままでいるだけだよ」
「・・・確かに男の姿をしていると猫が威嚇してくるからな」
ウィスカーの説明に、スタンツェが眉を寄せて相槌を打つ。
「そうだなー最強の猫の護衛がいるなー」
「という訳で、ペアンに独占されたくないから、さっさとこの茶番を終わらせて、さくっとサクラちゃんを迎えに行くのよ!」
「はいはい」
「・・・朝何かあったんだろうな・・・」
「それじゃ、移動するわね。あ、さすがにこの人数だとあたしも魔力が足りなくなるから、着いたら宝石に戻るわ。ラスパの胸ポケットに入れて置いて」
「えっ?僕で良いの?」
「料理の魔術で土なんだから、この中では一番相性が良いのよ。落ち着ける部屋があったら、窓際で日の光を浴びさせて」
「はーい、畏まりっ」
「よし、じゃ、移動っ」
地響きのような揺れに、馬が驚いたところで世界が変わり、街道を進んでいたはずが、西の国の王女宮の厩内にいた。
もう見ることはないと思っていた慣れた場所。
馬を繋ぎ、煙の登る王城に向かう。
王都を駆けるのではなく、王女宮と王城を結ぶ地下通路から向かうことにした。
「よし、皆、少し走るよ。よろしくね」
ゴッセの呟きが、地下通路でわずかに反響した。
マイペースに予定をぶち破るウィスカーさん。
ここまで読んでくださり、、ありがとうございます。
連日23時にアップ予定です。




