報告-17の月、6日、2枚目
生贄
サクラは、尊い犠牲とはなんだろうと常々思う。
昔いた世界にも尊い犠牲と呼ばれた方々はいた。
もちろんその方々を卑下することはない。
どちらかと言えば、祀り上げている他人の思惑が嫌なのだ。
一つしかない命を賭して、失われた悲しみを綺麗ごとで包むなと言いたい。
失われた命の方々はもっと生きたかっただろうし、笑顔を向けていた家族がいたのだろうと思う。
その大切な存在と共に何度でも話し合い、困難を乗り越え、穏やかな生活を送りたかったのだろうと思う。
だからこそ、クーデターという言葉に過剰に反応してしまった。
関係のない市民の命が脅かされる気がした。
出来るだけ犠牲者は少なく済んで欲しいけれど、きっと国を大きく変える転機だから、被害は大きいものになるのだろう。
まぁ、そこはこの世界の価値観もあるので、文句は言わない。
「・・・サクラ・・・」
思考の海に浸りきっていたようで、心配そうなペアンくんとウィスカーさんがこちらを見つめている。
「汝は今何を考えていたのだい?」
「話しちゃったほうが楽になるときもあるよ。それとも紅茶とお菓子にする?」
「・・・では、紅茶とお菓子をいただきながら、話を聞いてもらってもいいですか?」
「分かった。準備するね」
長いソファにサクラとペアン、左斜め前の一人掛けソファにウィスカーが座る。
目覚めた時にはこの部屋にいて、コッヘルの仮眠室だと教えてもらった。
他の人たちは執務室にいるそうだ。
「ウィスカーさん、ペアンくん、やっぱり皆と話しても良いですか?」
三人で執務室に戻り、ゴッセからの説明を受けて、サクラは西の国で起こったクーデターを把握した。
ある種の自作自演で、一般市民には危害が及ばないものになるそうだ。
サクラ達が西の王女宮を出発してから、国王と王子は酒池肉林の準備をしていたらしい。
血税使って何してんだと言いそうになるのを、サクラは抑えた。
西の国の国王と第一王子、その取り巻き達は処刑されるとのことだった。
会ったことも見たこともない人たちなので、実感はわかない。
「金の亡者団覚えてる?」
オレンジ色の瞳に茶色の髪、右の眉のあたりに傷がある大柄の男性は頭と呼ばれ、ホプキンスという名前だ。
メッツェン、サクラ、ウィスカーで女子会として街に視察に出た時に、こっそりと護衛をしてくれていた。
サクラはお菓子を差し入れしたのを覚えている。
頷くサクラを見ながら、ゴッセは説明を続ける。
「彼がそのクーデターの首謀者となっている」
「その彼はクーデターが鎮圧されたら処罰を受けるのですか?」
「ううん。西の国は東の国の属国となるから、諸々落ち着いたら彼を国王に仕立てるつもり」
「なるほど。平民が治める国を作るのですね」
「そう、そこでサクラの知識と経験が必要になる。だから、君は安全なところに居て欲しい」
小さく頷くサクラは、嫁ぐために国を出たメッツェンという女性の存在をどう取り扱うのだろうかと、質問をぶつける。
「メッツェン様はどうなるのですか?」
「・・・さすがに誤魔化せないか。一応、この騒動の責任を取って、西の国で終身幽閉となる予定だよ。国民の感情によっては処刑になるけれど、どちらにしても俺は騎士のままでいるから心配しないで」
「分かりました。では、私は東の国に残ったメッツェン様として、幽閉の身となりますね」
中の人であるゴッセは騎士の一人として、西の国に向かうという。
ある意味首謀者側だから、処刑されることはないと思う。
けれど、悪政を敷いた国王と第一王子、貴族たちへの非難を、巻き込んでしまった東の国からの責任追及を、架空のメッツェンという女性に対して尊い犠牲として祀り上げるということなのだろうか。
サクラは、ぽつぽつと心に浮かぶ色んな話を口にする。
周りの人は口を挟まずに聞いてくれている。
この国にメッツェンとして入り、今これからはメッツェンとして牢屋に入る。
そしてこの一連の騒動が終わる時、メッツェンという人はどこに行くのだろうかと思う。
ゴッセとその周りの人が必死に守り、育ててきたメッツェンという女性は、幻の存在ではあるが、これを機に幽閉という自由な生活になれるのだろうか。
自己犠牲でもなんでもなくて、サクラのことは構わずに、メッツェン様を自由な存在にしてもらえる方法はないのだろうか。
もしメッツェン様が実在したとして、いや、ゴッセのように大人の事情で人生を翻弄されるような人が、これからは少なくなれば良いなと思う。
「大人には大人の事情がありますが、その後始末を子どもが取るのは悲しいことだと思っています」
「俺だけじゃなくて、ここにいる全員それは分かっていると思うよ。それぞれ事情があるようだから」
「そうなんですね。いつかお話を聞けるときが来たら、ゆっくり聞かせて頂きたいものです」
サクラは自分のこれからのことも、皆のことも不安なのだと思い至り、認めてしまえば素直に言葉に出せた。
「あの・・・皆、無事に帰って来てくれますよね?」
「もちろん」
「俺もー」
「サクラちゃん、安心してねっ。そこはペアンとあたしでどうにかするから!」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。ウィスカーさんも無理しすぎないでくださいね」
不安と恐怖は別物だと、前の世界で自分に言い聞かせていたことを思い出し、サクラはもう一口紅茶を飲んで覚悟を決めた。
メッツェンという存在を気に掛けるサクラ。
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