報告-17の月、5日、2枚目
お話中に時間が前後します
明日婚約者役の仕事を契約する事になり、できる限り美肌を作ろうとウィスカーとゴッセが打ち合わせを始める。
アドソンがスタンツェに耳打ちする声が、サクラにも聞こえた。
「なぁ、明日ってさ」
「これも嫌がらせの一つだったんだろうな」
「メッツェン様への嫌がらせですか?」
大きく目を見開く二人と、内緒の話ならば二人きりの時にすれば良いのにと考えるサクラ。
咳払いを一つしたスタンツェが口を開く。
「明日はメッツェン様の誕生日だ。西の国としては破談に打ちひしがれているか、我が儘三昧して追い出されて困窮しているはずだったんじゃないかな。例年誕生日には色々な事が起こるんだ」
言い終えて、スタンツェは小さく嘆息する。
「なんでそれを早く言わないのですか!」
「は?」
「ゴッセさんの誕生日ですよ?お祝いの日ですよ?何の準備も出来ていないじゃないですか!」
「あ、いや、そうなんだが」
「私がこの世界に来て、初めてのお誕生日じゃないですか!もっと早く知りたかった・・・あっ、スタンツェさんはいつですか?アドソンさんは?コッヘル様にも聞いてないっ!」
「おっ、落ち着け、サクラ」
「あははははっ」
スタンツェとサクラの会話にゴッセの笑い声が割り込んでくる。
驚いた二人の会話が止まり、ゴッセは話し始める。
「サクラ、ありがとう。そうだね、ゴッセが産まれた日のお祝いをしても良いんだよね」
「当たり前ですよ。産まれたことも今生きていることも、私がゴッセさんを祝う日です。今まで生きてきてくれてありがとうと感謝する日です」
「今まで生きて・・・いや、ちょっと昔を思い出しただけ。ろくでもない誕生日ばかりだったんだ。どうせ今まで女としての貢ぎ物攻撃と政治利用しかされてなかったんだし」
自虐的に笑うゴッセをの頬を、サクラは思わず両掌で挟んでしまう。
挟まれたゴッセの肩が揺れる。
「・・・なに・・・」
「良いですか?ろくでない思い出なら思い出さなくていいです。ゴッセさんはこれからのことだけ考えていてください。話したいなら聞きます。貴方の胸の中に閉じ込めて、いつまでもそこを占領されないでください」
「はひ」
「良いですか?今年はそんな思い出に煩わされないで、ゴッセさん自身のお祝いが出来ますからね」
鼻息の荒いサクラは手を離す
ゴッセは頬を擦りながら、目を伏せる。
「そうだね・・・じゃぁ明日は簡単にお祝いして貰おうかな。贈り物はいつでも受け取るよ、俺様は寛大だからね。ちょっと遅れたくらいは許してあげる」
「よーし、明日はお料理を頑張りますよ!」
「じゃぁ俺はスタンツェと買い出ししてくるー」
「アドソンと俺が離れたら、誰が護衛するんだよ!」
そんなやり取りを見ていたペアンから、サクラに質問が飛ぶ。
「生まれた日を祝うというのは、人間にとって重要なのか?」
「そうですね・・・幼い子供さんにとってはお祝いの言葉やプレゼント、美味しい料理を食べられる日ですし、親御さんにとっては子供が無事に年を重ねたことを喜び、成長を振り返る日です」
「サクラは・・・いや、サクラはいつが誕生日なのだ?」
「私は・・・そうですね、この世界に生れ落ちた日の十一の月五日でお願いします。誕生石がペアンくんとウィスカーさんの色ですから」
「じゃぁ、サクラちゃんのお祝いは来年のその日に絶対するね!」
「ありがとうございます。そういえば、魔物さんや妖精さんには誕生日はありますか?」
「発生した日はあるだろうが、覚えてはいないな」
「うーん、知らないなぁ。王も一々覚えていないだろうし」
「妖精さんには王様がいるんですね」
「妖精ごとに色々なところに国があるんだ。サクラちゃんは行かなくて良いからね。面倒な妖精もいるから」
「そうなんですね。では、好きな日付を誕生日としましょうか。さすがに今日・明日ではお祝い出来ないので、少し遠い日を選んでください」
「我はサクラが生まれた日が良い」
「あら・・・そうなんですね・・・では、雪が消えた春先の・・・五の月一日です。私のいた国では桜の花が咲く頃になります」
「分かった。サクラからの祝いの品を楽しみにしておこう」
「贈り物の準備と、料理も作りますね。皆で賑やかにお祝いしましょう」
「あたしは?」
「秋の始まり・・・十一の月十四日でいかがでしょうか?私の誕生日と近すぎますでしょうか?」
「ううん、一緒にお祝いしているようで嬉しいよっ!じゃぁ楽しみにしてる」
人外者の誕生日を勝手に決めるという規格外の決定を成し遂げたサクラだが、感覚が麻痺した三人からもツッコミを受けることが無く、それからもエレバが止めるまで人外者の誕生日を設定していくことが続いたのは、また別の話。
時を戻して、サクラの渾身の料理が並ぶ。
コッヘルも取りやすい様に品数が多めで、タレや添える野菜を自分で選べるようになっている。
「と言うことで、パーティーを開会します!改めて自己紹介してから乾杯しましょう!まずは私から。異世界から来ましたサクラと申します。肩書きは東の国の第二王子コッヘル様の婚約者役です」
「えっと・・・」
「はい、今日の主役のゴッセさん!」
「えっ、西の国の王女役をやっていたことから、サクラの護衛を務めることになったゴッセだ。えっ?この説明必要なの?今日が誕生日で主役だよ」
「はい、コッヘル様!」
「はい、東の国の第二王子コッヘルです。サクラさんの婚約者役となりました」
「はい、つぎは」
「我が言う」
「誰っ」
急に現れたペアンを警戒するラスパとエレバ。
コッヘルを椅子ご自身の方に引き、ラスパがコッヘルの周りに籠のような黒い縄の様な魔術を展開している。
以前、魔術汚染された侍女を捕縛したときの魔術の柔らかいパターンに見える。
「西の国の王子とその従者よ。我は知識の魔物ぞ」
「・・・知識の魔物殿」
目を見開いたコッヘルが息をのむ。
「サクラは我のものぞ」
「ペアンくんのものではないです。ペアンくん座って下さい」
「だが、サクラ」
「座って下さい。私から説明します。ウィスカーさんも座って下さい」
「分かった」
渋々ゴッセが寄せた椅子にゴッセが座り、サクラを椅子ごと抱きしめる形で落ち着く。
ウィスカーはその後ろにハイチェアを持ってきて座った。
アドソン、スタンツェが小さく突っ込む。
「分かっちゃうんだ」
「まぁいつものことだ」
「いつもの・・・」
「・・・こと?」
エレバとラスパが混乱する。
「コッヘル様に紹介します。こちらが知識の魔物のペアンくんです。私に色々なことを教えてくれて、私の異世界の知識を楽しんでくれています」
「・・・はい」
「そしてこちらは黄水晶の妖精のウィスカーさんです。私のこの世界で唯一の親友です」
「・・・えっと・・・サクラさんは魔物殿と妖精殿と契約を結びながら、私の婚約者役を引き受けたのですか?」
「契約?コッヘル様との業務契約しか結んでいないですよ?」
「えぇ?契約者ではないと・・・」
「サクラ、我から話すぞ」
「はい。ただ、ペアンくんが話すとコッヘル様が怯えているので気をつけて下さい」
「畏怖を持って人外者に接するのが王族として正しい姿勢だ。最低限の礼儀は出来ていると言うことだ」
「なるほど」
「それでだ。東の国の者たちよ。我とウィスカーは今のままでサクラの傍に居ることを望んでいる。横やりを入れる事が無ければ、サクラの知識をこの国に取り入れることも構わん」
「・・・はい」
「しかし、サクラを裏切ることは許さぬ。東の国の者たちのように、お前達とサクラの契約を形にする」
「あ、ブローチ作ってあげるんだ?」
「サクラの守護を固めたいんだろう」
「ペアンもサクラに似て甘いよな」
「それがサクラちゃんの為だからねぇ」
「えっと・・・私たちは何をすれば宜しいですか?」
「サクラから預かっているダズンローズを出して、テーブルに置くように」
「これをどうぞ」
ペアンが手を振ると、花びらの宝石の山は三つに増える。
東の国の三人が見入っていると、ペアンが手を振り、三人は震える。
「なっ」
「・・・これで良い」
三人がペアンの方に顔を向けている間に、宝石の山はゴッセ達と同じ意匠のブローチに代わり、サクラの首飾りにはそれぞれの瞳の色に似た宝石が増えた。
「それは君たちとサクラちゃんを結ぶブローチだよ。魔力を込めれば離れていても話が出来るのっ。裏切らない限り、貴方たちのことも護ってあげる」
「魔物殿と妖精殿が私たちを護る」
「付属品が壊れないように目を掛けるだけだ。契約ではない。サクラの為にお前達を護ることが、我の利となると判断した」
「おれたちも同じ状況だから、上手くやっていってよ。サクラとコッヘルの婚約者役の契約はそのままで大丈夫だから」
「えっと・・・状況がよく分かっていませんが、私とサクラさんの関係は変わらなくて、人外者殿の守護を頂けると言うことですね」
「守護では無い。おまけだ、おまけ」
「まぁまぁ、あたしたちの大切なサクラちゃんを守ってくれるなら、貴方たちにも利益があるってことで良いよー!」
「あ、ありがとうございます」
「という訳で二名増えましたが、ゴッセさんのお誕生日のお祝いをしたいと思います!はい、ゴッセさんの挨拶をどうぞ!」
「結構強引に話をぶった切ったけど、まぁ、複雑な事情はあるんだけど、簡潔に考えて貰って良いから。皆さん、これからも宜しく頼みます」
「宜しくなー」
「王族同士、後でゆっくり聞かせて下さい。宜しくお願いします」
「えぇ・・・面倒くさ・・・サクラ、代わりにお願い」
「分かりました。とことん飲みましょう!」
「わー、サクラに酒は飲ませるなー!」
「我が許すのだぞ」
「ペアンが楽しいだけだろう。面倒なことになるから、あまり飲ませるなよ・・・」
「お酒下さーい!」
「ウィスカーも飲ませるなよっ」
「えーニコニコするサクラちゃん可愛いでしょう?」
「それが面倒なんだよ・・・」
「さぁ、皆さん楽しく適度にお酒を飲みましょう!」
「コッヘル、後で話すから、今は取り敢えず食べて解散だ!」
「分かりました。急いで食べてしまいましょう」
誕生日だというのにいつも以上に早食いするゴッセ。
それでも自然と笑顔になるのだった。
「ありがと、サクラ」
祝い祝われ。
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
連日23時にアップ予定です。




