報告-17の月、3日、ラスパ
偽り偽らず
冷静さを欠いたエレバの大声に驚いたが、逆に冷静になれた気がする。
今までは俺とエレバで、コッヘルの婚約者にふさわしくない令嬢は退けてきた。
西の国の王女との婚姻は俺達だけではどうにも出来ない案件で、サクラちゃんが偽物だったのならば婚約しないことも可能だ。
良い条件だと考えるべきなのだけれども、コッヘルはサクラちゃんの話を聞こうとしている。
俺も話を聞きたいと感じてしまっている。
なんだ、これ。
コッヘルが重い口を開く。
「・・・・エレバからの授業は楽しいのですか?」
「もちろん楽しいです。沢山の発見があり、沢山の学びがあり、沢山の改善点があるのですから」
「・・・では、これからも東の国のために役立つという言葉に偽りはないのですね」
「はい。もしこのままコッヘル様の婚約者として学びを得られるのであれば、実利を出しましょう。もし破棄されるということであれば、速やかに出て行きましょう」
「・・・そうなのですね。分かりました。信じましょう」
「主」
思わずエレバが口を挟むが、コッヘルは穏やかに笑って首を横に振る。
何か考えがあるときの笑顔だ。
余計な口を挟むなというところか。
「わぁ、ありがとうございます!・・・ですが、信じて頂かなくても結構です」
「・・・え?」
「信じなくて構いません。使って頂ければ良いのです」
「何を言ってるの、サクラちゃん」
黙って聞いていようと思っていたのに、思わずツッコミを入れてしまった。
「何を、と言われましても・・・私がいた世界の話を一つ披露しても良いですか?」
「・・・構いません。どうぞ」
サクラちゃんは、侍女に紙とペンを指示する。
何かを書き留めながら、話始める
「ダズンローズという・・・いわゆる結婚式の演出の一つです。花嫁が持つ花束に使われる花の一つ一つに意味を込めます。感謝、誠実、幸福、信頼、希望、愛情、情熱、真実、尊敬、栄光、努力、永遠の十二の意味です。あぁ愛情は民へ向けたものとして考えてください。コッヘル様に対する感情ではございません」
「サクラ~それ不敬」
穏やかな笑顔でさらっと、コッヘルを恋愛対象外としたけれど、アドソンがそれにツッコミを入れている。
正直、恋愛対象としてではなく、ビジネスパートナーとして、目の前の優秀な人材を確保できるなら、それは良い事じゃないかな?
コッヘルの気持ち次第だけど、俺は悪い話だとは思わない。
「まぁ・・・ダズンローズにあやかってるので、そこは流してください。コッヘル様、私を使ってくださるのであれば、貴方にこの十二の花を捧げます」
コッヘルの近くまできたサクラちゃんは、紙を両手で包みこみ、軽く口づけをして、もう一度広げる。
コッヘルに渡された紙を見ると、花びらに似せた宝石に文字が刻印されて、十二個乗っていた。
絵画の魔術に似ているけれど、エレバも理解出来ていない様子で、目を見開いている。
三人がサクラちゃんを見つめる。
「これは?」
「ここから先は、雇用契約の良きお返事を頂いてから致します。どうぞ前向きにご検討ください。返答に嘘偽りはございません」
物凄く良い笑顔でサクラちゃんから線引きをされた。
婚約じゃなくて、雇用契約というのが素の彼女の感覚なのだろう。
もし主の婚約者としてではなく、同僚として会っていたら、優秀な同僚として受け入れていた気がする。
「コッヘル様、婚前の西の国の王女の寝室に、東の国の王子が来ても問題はないのでしょうか?」
ずっと言葉を発していなかったスタンツェから、質問が飛び出して、体裁のまずさにハッとする。
コッヘルは慌てて立ち上がり、謝罪する。
「・・・あ、いや、夜半の不躾な訪問、大変失礼しました。えっと・・・次の訪問の際は必ず前触れを出します」
「いつでもお待ちしております。では、ごきげんよう」
俺達はポイっと廊下に投げ出される形になった。
三人で顔を見合わせる。
「とりあえず、部屋に戻って話を整理しましょう」
エレバが提案し、お互いの認識や感じ方を共有することにした。
「夜だけど、夜食でも作るよ。何食べたい?」
「さっき出してもらったお菓子食べてないから、何か甘い物が良いな」
「あれ、サクラちゃんが作ったお菓子で、コッヘルも食べられるものだけが使われていたよ」
「準備してくれていたんだね」
「・・・印象を良くするためでは?」
「エレバっ」
「印象を良くして、コッヘルの体を心配して、国の発展を考えるなんて・・・本当に・・・主の良い婚約者候補が現れたと・・・思ってたんですよ」
眉間に皺が寄りながらも笑おうとしているエレバの複雑な気持ちが伝わってくる。
小さな小さな嘆きに俺たちは何も言えなかった。
コッヘルの決断は果たして。
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連日23時にアップ予定です。




