表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/267

報告-17の月、3日、コッヘル

心配と疑問と分からぬ心

急に大きく開かれた掃き出し窓から、女性一人と男性二人が侵入してきた。

サクラ嬢と護衛の二人なのだが、あいにく私の目の前にもメイド姿から戻ったサクラ嬢がいる。


「それは、私は西の国の姫メッツェンであり、メイドのサクラでございます、から」


不敵な笑みを称える女性は確かに王女の気品に溢れている。

対して、私の目の前にいる女性は穏やかな笑みを崩していない。

同じ顔、同じ髪型、同じ服の女が二人。

片方の女性の後ろにはいつもの騎士が二人。

その両方を見比べて視線を彷徨わす私の部下二人。

中々の混沌だと溜息をついてしまう。


「あたくしの部屋でお取込み中の様ね。挨拶も出来ないのかしら?」

「お帰りなさいませ」

王女のサクラ嬢と部屋にいたサクラ嬢が会話する。

小さな違和感だったものが、確信に変わる。


魔術を扱う力がある者の中で、攻撃魔法にも防御魔法にも当てはまらない能力を持つ者がいる、

東の国では王族や王族に血筋が近い貴族たちに見られることが多い。

私は生育環境もあり、表向きには特殊能力はないとしているが、声にわずかに乗る魔力の個人差を波の大きさのような感覚でとらえている。

メイド姿のクラさんがとサクラ嬢が同一人物なのは、机の下から出てきたときに分かった。

そして、挨拶を交わした二人は、姿形が違えど、私が知っている人達だと理解出来た。

けれど、新しい疑問が生まれる。


「なるほど・・・今まで私たちがサクラ嬢だと考えていた人は、クラさんですか?」

この胸の痛みは騙されていたことへの悲しみなのだろうか、分からない。


この時、コッヘルは耳を伏せた大型犬のような眉が下がった顔をしており、サクラは困惑していた。

コッヘルは事実にたどり着いたが、全てを理解しておらず、不信感を深めている状況なのだ。


「・・・一先ず、その前提で続きのお話を致します」

「まだこの茶番は必要ですか?」

今まで静かに話を聞いていたエレバが、穏やかではあるが怒りを滲ませた声で問う。

コッヘルは理解したことを伝えたかったし、もう少しサクラの話を聞き、知りたかった。

王女として偽物だったということよりも、今まで自分たちに向けてくれた笑顔や、教えてくれた知識が偽物だったのかどうかを知りたいと感じていた。


『サクラ嬢』の笑顔で微笑むその女性は穏やかに話はじめる。

「はい。サクラがなぜメッツェン様の代わりをするに至ったかについては、お話していません」

西の国の三人がピクリと肩を揺らす。


「・・・ですが、三人にも紅茶を入れても良いでしょうか?」

「・・・・分かりました。どうぞ」

早く話を聞きたいところではあるが、長い話をじっくり聞くために、許可を出す。

サクラ嬢はメイドの姿に戻り、同じ紅茶とお茶菓子を西の国の三人に配る。

いつの間にかもう一人の侍女が控えていた。


サクラ嬢の性格が偽りのないもので、今からも本音を話してもらえるのであれば、こちらも偽ってはいけないのだろうと様子を伺う。

俺たちに納得のいく説明をしてもらえるのか、害を為すのか。

紅茶を一口含んだメッツェン嬢はサクラに問う。

「ねぇ、サクラ、本当に話してしまうの?」

「はい。恐らくここが良いタイミングなのでしょう。勝手をお許しください」

「では、任せるわ。お替りはミルクティにして」

「畏まりました」


長いソファに俺、右にラスパ、左の一人掛けソファにエレバが座る。

テーブルを挟んで長いソファにスタンツェ、アドソンが座り、もう一つの一人掛けソファにメッツェン嬢が座る。

椅子が足りないのではと気づいたときには、サクラ嬢は侍女と共にハイチェアを運んでくる。

あれは令嬢には重いものではないのだろうか?

少しだけ口角が上がってしまった。


跪礼を見せたサクラ嬢が口を開く。

「今はメイドの身であり、皆さまの前でお話出来る格ではございません。ですが、こういった機会を頂きましたので、嘘偽りなくお話いたします」

「今までの流れからみれば、メイドだから格が違うという話ではないのでしょう。サクラ嬢も侍女も座って話に加わってください」

サクラ嬢は軽く一礼をして、ハイチェアに座る。


胸元に右手を触れ、左の膝を二回たたき、話始める。

あの胸元に触れる動作は癖なのだろうか。

「・・・私、サクラは西の国でもこの大陸でもこの世界でもないところに生れ落ちました。違う世界の住人で、人生の半ばでこの世界に呼ばれたものです」

「・・・え?」

「十一の月の頭に、西の国のメッツェン様とスタンツェさん、アドソンさんが私を助け出し、保護してくださいました」

「あの、違う世界とは?」

「ある日、光に包まれて、歴史、文化、施策、料理、技術が違う世界に来たのです。私が今まで東の国の皆さんに見せたアレコレは、この世界にはない知識や文化のものです」

「その知識は根拠があるものなの、ですか」

エレバが懸命に質問しているが、戸惑いを隠せていない。

俺も想像以上の話に混乱していると感じる。


サクラ嬢の穏やかな笑顔は崩れることなく、いつも通りの声で話している。

嘘偽りも困惑もない。

「根拠はこの世界にはありません。だからこそ、それを実証実験するために王女のお近くで相談役として存在していたのです」

「デタラメばかりを言っているかも知れないのに、西の国では雇用したというのですか?危険ではないですか?」


サクラ嬢に向かった質問は、メッツェン嬢が答える。

「あたくしは実利を求めます。この者を保護したときに、あたくしに有利な条件が揃っていたのですから、近くにおいて役立たせるのは実利になるのではなくて?」

メッツェン嬢の姿をしているが、この人の実利とはサクラ嬢にメッツェン嬢の代わりを勤めさせることだったのだろうか?

急に文化が違う世界に来た方に、そんな勝手なことが許されるのだろうか。


「皆様の戸惑いは私が嘘を話していることに対してでしょうか?それとも、荒唐無稽な話に理解が及ばないということでしょうか?」

「それは・・・」

「サクラ嬢のお話は真実を話していると感じています。この世界には魔術の縛りがあります。嘘偽りを言わないと誓った後、サクラ嬢からは揺らぎを感じません。ですが、突拍子もないお話なので、戸惑っています」

「なるほど、そうですよね。一つ言えることは、私は自身が持ちうる全てで、この国に貢献したいと考えています。コッヘル様たちにアレルギーの話をしたのも、健やかに過ごして頂きたいからです」

「貢献したいといっても、どこの者かもわからないものを、王女の代わりに妃として婚姻を結ぶだなんて出来るわけがないだろう!」

「えぇ、ですから、東の国の皆さまに初めてお目にかかったときに、愛は望まず、実務を欲したのですよ。もうお一人妃をと臨んだのは真実です」

エレバは戸惑い大声を上げてしまうが、サクラ嬢は動じない。

動じないというより、こちらの反応を予期していたということなのだろうか。


分からない。

分からないけれど、彼女が嘘をついてはいない。

騙していたことすらも偽らずに話してくれている。

何が目的なのかも聞いたら答えてくれるのだろうか。

分からない。

裏切られたと思いたい心。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます

連日23時アップ予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ