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報告-17の月、16日、ペアン

特異体質

夜、サクラと部屋でのんびりと過ごしていた。

紅茶が飲みたいサクラは茶葉が少なくなっていることに気づき、新しいものを開封する。

「痛いっ」

開封の仕方が悪く、ペーパーナイフで指先を切ってしまう。


ウィスカーが慌てて近づく。

我も慌ててサクラの傷を消す。

「どうしたのっ?」

傷が出来た指先から滴るはずの血液が赤い宝石になって、コツンと落ちた。

「えっ?」

「・・・見てしまったか」

我の声にサクラは顔を上げる。

我自身が今どんな表情をしているのかは、分からない。

分からないという気持ちは不安になると、サクラから学んだ。

今は、自分がどんな顔をしてサクラと向き合っているか、が分からない。


「えっと、私の血液は固まりやすいんですね」

「固まるというか・・・」

「それは・・・魔石だ」

「ほう?」

サクラは止血のために押さえていた指を開く。

やはり傷はない。

赤い魔石をサクラの掌に乗せてやる。

その手を外側から握り、ソファに座るように促す。

今回は膝の上は止めておいた。何となく。


横に座って不思議そうに掌の魔石を見るサクラ。

顔を覗き込みながら、重い口を開く。

「以前落盤事故に巻き込まれた事があるだろう?その時にサクラの周りには特大の魔石が多数散らばっていた。そのときに我は確証を得たのだが、サクラの体の一部は魔力を含んだ魔石になるようだ。伝えて不安にさせてしまうのも申し訳ないと考えていたんだ」

「サクラちゃん、ごめんね。あたしもペアンから聞いていたんだ。意地悪で黙っていたわけじゃないの」

「分かりました。配慮ありがとうございます」

いつもどおりのサクラの笑顔からは、感情が読み取れない。

分からないことは不安だ。


頭をフル回転して、言葉を紡ぐ。

こんなときに、サクラなら、ゴッセなら、スタンツェやアドソンはなんと声を掛けるのだろう。

「サクラのいた世界では血液が魔石になることなどなかったであろう。怖くはないのか?」

「んー元の世界とこの世界は違いますからねぇ。誰一人として血液が魔石にならないとか、ペアンくんも知らないことなのであれば、怖いかも知れません。必要なことを知る術がないのは怖いです。えっと血液以外に気を付けたほうがいいことはありますか?」

流石はサクラだ。

無知によりただ怯えるのではなく、理解した上で対処法を考えなら恐れている。


「・・・実際見ていないが、サクラの涙は魔石になる可能性がある。切断した髪の毛は細長い魔石になっていた。自然に抜けたものは変化しないのだが、出血や散髪は魔力を削った形になるんだ。」

「ふむ・・・それは人間や魔物さんや妖精さんも同じですか?」

「普通の人間には起こらない。よほど魔力が多く、長命の者であれば、この世界の中では数名だけ同じ症状の人間を知っている。魔物や妖精はこの現象がある。ウィスカーは宝石の一族だ。より顕著であろう」

「うん。あたしも涙も血液も魔石になるんだよっ。髪の毛は人間であっても呪いの媒体になるんだ。気をつけてね」

「なるほど、ウィスカーさんも同じなら心強いですね。

「我もサクラと同じだぞ!」

「あ、ペアンくんも同じでしたら、とても心強いです」

「うむ」

サクラのことなら何でも知りたいし、サクラも同じであるというのは、我の欲を満たしてくれる。


「それでですね、この知識は人間は知っていますか?」

「スタンツェは知っていると思うー。前にサクラちゃんが髪の毛を切って、怒ったでしょ?」

「あ、心配してくれていましたね」

「心配?」

イスイ村に災害支援に向かう直前のことだった。

あのスタンツェは心配という感情だったのか。


小さく頷いたサクラは言葉を続ける。

「スタンツェさんの目が動揺していたので、怒りでは無くて心配だと受け取りました」

「そっかぁ、サクラちゃんはそんなところから、感情を読み取っているんだね」

「はい。スタンツェさんは、怒ると相手やどこか一点を見つめる事が多いですね」

「えっと・・・サクラちゃんは怒っている相手が目の前に居ても、視線の先とかを考えているの?」

「怒りがどこに向いているか、着地点をどこにするかで、その動作と感情の関連性が変わりますが、まぁ、考えていますね」

「それって相手にしてないってことだよねぇっ?」

怒っている相手に怯えるでも、反発するのでもなく、分析を始めるのはサクラくらいではないだろうか。

ウィスカーも方が震えており、ツボに入ったようで笑い声が出ていない。


「これから魔石の話を皆にしたいのですが、お付き合いいただけますか?」

「あぁ、もちろんだ」

「良いよっ。お茶淹れてあげる」

「お願いします」

ウィスカーが紅茶を準備し、我が西の国の三人を呼びだす。

サクラの寝間着姿を見せる訳に行かないので、魔術で平服に変える。


三人が空間魔術の厨房に集まってくる。

サクラがテーブルに置いた魔石を見ながら、ペアン、ウィスカーからの説明を受ける。

スタンツェが頷く。

「やはりそうか・・・落盤事故のときに違和感があったんだ」

「私が死にかけていたときですか?」

「・・・お前は本当に遠慮がないな」

「死にかけた本人が強いなっ!サクラってやっぱおもしれーなー」

「・・・これは俺達は聞いてよかったのだろうか・・・」

「まぁお前たちなら問題はない」

サクラが身内として扱い、魔力を削っているこいつらはサクラを傷付けることは出来ないのだから、問題はない。

全員が黙って、我の顔を見て来る。

なんなんだ?


「なるほど、ペアンくん。皆さんはペアンくんが人間たちを信頼していることに驚いたようです。私の命に関わる話題を教えても、裏切ることがないと評価してくれたと考えています。あってますか?」

「ん?あぁ、この三人はネックレスを作る際に、魔力を削っているであろう。魔力でも、武力でもサクラの身を傷つけることが出来ないようになっている。だから命を狙われることはないぞ」

「なるほど、皆さんから確認しておくことはありませんか?」

サクラが仲介役として、我の言葉のフォローをする。

質問があるかを問うが、返事をせず三人は互いを見つめあっている


スタンツェがしびれを切らして口を開く。

「サクラの体質を俺たちが利用することはないと思うが、ペアンが恐れているのはサクラの誘拐でいいのか?」

「あぁそうだな。知られてしまえばサクラの体を狙うやつらも出てくるだろうな」

「魔石を無限に生み出す人間か・・・色々な利用方法はあるだろうよ」

「ふむ・・・利用方法をが多いなら何よりですね。あっ・・・でもコッヘル様に伝えるのはやめた方が良いですか?」

「・・・東の国には言わない方が良いと思うけれど、止めた方が良いと思ったのはなぜ?」

「王族なら子供が産めないと結婚はしないでしょう?私は子を成す気持ちはないですが、体質的に産めないと判明して、早めに除外されるのも・・・良いのか。婚約しないで帰っていいなら、我々は自由ですね」

「・・・そうだね。婚約しなくても、結婚しなくても、追放して貰えれば自由だ」

ゴッセの話に、サクラは何度も首を縦に振る。

ペコペコ頷くサクラは可愛らしい。


首を傾げたサクラは、言葉を続ける。

「んーそうしたら、タイミングを見てお話しようかな。体質が変わったとでも言えば良いですかね」

「じゃ俺らはいつでも城から退去出来るようにしておけばいいか―?」

「そうだな、とっとと逃げるか」

アドソンとスタンツェはサクラの意見に同意する。

それをゴッセが止める。

「まっ、待ってくれ」

「はい、待ちますね」

「えっ?良いの?」

「ゴッセさんが聞きたいことや話しておきたいことがあれば、待ちます」

いつもと変わらない笑顔のサクラは、ゴッセに話すよう促す。


「すぐに、コッヘル達に話しても良いんだが、もう少し待っていてほしい。色々と進めたい準備があるんだ」

「分かりました。では、ゴッセさんが東の国の方々に話していいと思ったときに、言ってください。それまでは今まで通り過ごします」

「あぁ・・・我儘を言ってごめん。ありがとう」

ゴッセが苦笑する。

準備を進めているのなら良い。


サクラは他の三人を見て問う。

「他に確認しておきたいことはありますか?」

「サクラの魔石を分析するのは良いか?」

スタンツェが片手を挙げて問う。

即座に却下だ却下。

「血液は否だ。髪の毛なら分けてやろう」

「・・・なんで私の髪の毛を、ペアンくんが持っているんでしょうかー?」

いつも以上の笑顔のサクラが、我の顔を覗き込んでくる。

少し怒っているようで可愛い。


「えっ?それはサクラの魔力だからな、失われないように保存してある」

「その魔力は私に返してくださいますか?」

「えっ、少しなら」

「全部返せ。髪の毛なんて大切に保存しないでください。怖いから」

「混じりけの無い綺麗な魔石だから、怖くなんてないぞ?」

「そういう問題ではありません!今すぐここにだすか、魔力として使い切ってください」

「えーそれは嫌だ・・・」

「嫌じゃないの。駄々こねない!」

「はいぃぃぃぃぃっ」

笑みを深めていくサクラはどんどん圧が強くなった。

結局、元髪の毛の魔石と元血液の魔石は全てサクラに渡した。


「他に隠し持っている私の部品はないですね?」

「うん・・・」

「では、一番長い黒の魔石と一番大きい赤の魔石は、ペアンくんに渡します。残りは魔石が欲しい方で分けましょう」

「結局渡すんだ。サクラちゃんって大概身内に甘いよねっ」

「サクラっておもしれーな」


眠る前にウィスカーとペアンはサクラから抜き打ち持ち物検査を受ける。

二人ともそれぞれに隠し持っていたものがバレて、サクラに没収された。

「こんなものいつまでも取っておかなくて良いんです!新しい思い出を積み重ねてくださいっ」

気高き人外者の名誉のために、詳細は記録に残さないでおくことにした。

怒っている人は恐れている人とサクラは考えます。

無知故の恐れと怒りは、知識と実践を重ねることで減らすことが出来る。


80話まで更新できました。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

日ごとのPVが一定数を下回らなくなり、たまにドドンと増えていてびびっています。

宜しければ良いね、ブックマーク、感想を頂けますと、励みになります。

一話を短めに、コンパクトにまとめたい。

日々精進いたします。

これからも宜しくお願いします。

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