報告-16の月、13日、1枚目
講義一日目
「おはようございます、サクラ様」
「先生、よろしくお願いします!」
満面の笑みで跪礼を見せる
ピクっと片眉だけ上がるエレバさんはスタンツェさんと同じ魔術師だ、絵画魔術で土属性とまではわかっている。
どんな魔法かまでは西の国では判明していないが、どうやら怖い魔法らしい。
「・・・そのような呼び方はおやめください」
「では、私のことも呼び名を変えてくださいませんか?」
こちらも負けじと眉毛を下げて応戦する。
悲しげに見えるように。
「・・・サクラ嬢でよろしいですか?」
「エレバ様でよろしいですね」
もう一押ししたい。
「・・・サクラさんでいいですか」
「エレバさんでいいですか?」
ちょっと笑顔を見せて、胸の前で両手を合わせる。
お願いポーズはこの世界で通用するのだろうか?
「・・・よろしくお願いします」
応接室部分のソファの後ろから騎士が覗いているという奇妙な構造があるが丸っと無視する。
「・・・押し切ったな」
「完全勝利なのかー」
「すでに講師を疲れさせている気がするが」
何か言っている気がするが、丸っと無視する。
「では・・・サクラさん、本日は歴史と地理をもって参りました」
「はい。西の国からみた東の国の成り立ちは存じ上げているのですが、教えてください」
「近代の東の国は中央区の制定時になります。ここは西の国と同様でしょうか。ここから、東の国として地方を統一し、今の国王の先々代が立国いたしました」
「その時に国王となられた方が歌の魔術を使われていたということですね」
「えぇ、また当時より職人を重要視していたので、手作業中の歌の魔術が充実したといわれています。多神教国であるのは仕事を通して安全を祈るなど信仰の先が複数あるためです」
「西の国ではその商品を加工に使ったり、体験するなどの観光業で成り立っているので、ここでは多くの神に祈りをささげていらっしゃるのでしょう。職人の皆様は市民から尊敬されているのでしょうね」
「えぇ、マイスターになることは名誉だとされています。しかし職人気質で商売ができない、いい材料がなければ仕事にならないのが難点ですね」
「後方支援、または販路拡大、品質改良においては課題があると・・・では、職人や生産者の方々の適正はどう見ていますか?血筋だけではうまくいかないこともありますよね」
「えぇ、そこは魔術と同じで適性を見ながら、職人同士でやりとりをしています」
「国の介入はないと?」
「えぇ、まずは職人に学び、才能がなければ伝手を使っているようです。または村全体で事をなしているのであれば、それぞれの分業で融通を利かせていますね」
しっかり話してくださる先生で、質問すればどんどん返事をいただけるので、とても楽しく講義を受けられた。
「それでは、本日はここまでということにしましょう。明後日もこの時間に、題材は医療でいいですか?」
「はい、よろしくお願いします」
「・・・終わったか」
「ほかのお二人はどうされました?」
「飽きたから、散策と鍛錬に行った」
「あら、スタンツェさんは待っていてくださったんですね。ありがとうございます」
「・・・未婚の女性と男性が二人きりで密室にいる危険性を考慮してくれ」
「あーなるほど、失礼いたしました」
「失礼ですが、主の婚約者候補の方に邪な思いなど持ちませんよ」
「本音からそうであろうと、外野が何を言うかわからないからな」
「スタンツェさんはいつもこうやって様々な配慮をしてくれるのです」
「文官でしたら、このくらいの配慮はできるかと思います」
「それならもう少し配慮してもらいたいものだ」
「講師としては適切な距離で適切な会話であったと思いますよ」
「さて、紅茶を飲みますが、エレバさんもミルクティを一緒にいかがですか?」
「・・・飲んでみます」
「スタンツェさんもミルクティでいいですか?」
「あぁ、それとあいつらが戻ってくる」
「では全員分作りますね」
「昨日もそうでしたが、サクラ・・さんは、普段から給仕をされるのですか?」
「あれがうちの主の趣味だからな。手に入れた茶葉を自分でおいしいと思う飲み方で飲みたいらしい。ほかのことでも存外頑固なんだ」
「ただいまー」
「戻りましたー」
「おかえりなさいー」
「あの調子で主従関係はいいのですか?」
「主がお望みなのでね。家族というものを作りたいんだそうだ」
「夫婦ではなくてですよね?」
「婚約者殿はそちらの主で良いんだろう。平民が作り上げるような家族にあこがれているそうだ」
「あれだけ聡明な方でいらっしゃるのに、一般市民をの生活に憧れを持たれるのですか」
「まぁもう少し話していけば、いろいろわかるだろう。主のことだから、聞けばなんでも、嘘偽りなく答えてくれる」
「それは少々無防備では?」
「その無防備さとそちらが感じる聡明さを兼ね備えたのがうちの主でね」
「不思議な方ですが、うちの主を支えてくださる方であればいいです」
「支えるというか・・・まぁそこは追々判断してくれ。ダメならダメで退去するだけだ」
「お待たせしました」
「ミルクティーにしたのか」
「エレバさんに飲んでいただきたくて、ミルクティにしちゃいました。エレバさん、こちらの二種類を飲み比べてもらっていいですか?それから甘さを決めます」
「・・・・こちらですね、ほんの少しだけ甘いほうがいいです」
「では、これを分けて・・・・砂糖とハチミツにしました、どちらがいいですか?」
「これは・・・砂糖のほうがいいかな、いやハチミツもいいですね」
「それなら甘味はその時の気分にしますね。アドソンさんと同じで、あっさり目のほうが好みなのが分かりました」
「ご配慮いただきありがとうございます」
紅茶を飲み終わったエレバさんが部屋を出る。
午後に予定していた王妃からの講義と、晩餐会はしばらく延期と連絡が入る。
自己学習と料理に励もうとサクラは考えるが、連絡に来たラスパからコッヘルとのお茶会を勧められる。
交流を図る方向性は決まっているので、了承した。
「サクラちゃん、お茶会ならドレスアップするよー!」
「控えめにお願いしますー・・・・」
ウィスカーの気合の入った声に振り向くと、ドレスを片手に持ったペアンが見える。
苦笑しながらサクラは返事をした。
社会人になって、知識を得ることが楽しくなった作者です。
現役を辞めるその日まで学び続ける職業です。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
連日23時にアップ予定です。




