報告-16の月、12日、5枚目
仮説の共有
コッヘルは『西の国の王女が隠す事情』について、追及してこなかった。
サクラはその沈黙から、東の国にもなんらかの事情があると断定した。
口にも顔にも出さないけれど、サクラが気づいている違和感の正体が事情と関わっている可能性が消えない。
それぞれがお弁当を食べ終えたところで、新しい飲み物を確認する。
ウィスカーとペアンは作っておいたフルーツ入りゼリーも一緒に給仕してくれる。
入手出来た果物を一つのゼリーに一種類ずつ入れてあり、一口サイズにしてある。
「これも出すのか。コッヘル様、毒見はこちらで・・・あぁもう食ってるのか」
「そうですね、思わず食べ始めてしまいました」
スタンツェの気の抜けた声に、コッヘルが恥ずかしそうに答える。
「サクラ、大盤振る舞いってやつだなっ」
「あ、これおいしー。レシピを教えてもらえるかなぁ」
「スタンダードなものと変わりはないと思いますよ」
アドソンとラスパは持ち前の明るさからか、気が合うようだ。
テーブルの端と端で賑やかに会話している。
「・・・もしかしてこれもサクラ嬢が作ったのですか?」
「主の、趣味の、範囲なので、許容、いただけますと、嬉しく、思います」
「いえ、サクラ嬢は博識であるからこそ実践に生かされるのだと知り、感銘を受けました」
「意外と高評価らしいよ。理解力あるねー」
エレバの質問にゴッセが慌ててフォローを入れる。
サクラはゼリーに果物を入れただけなので、そこまで評価されると恥ずかしい気持ちになる。
夕食会は和やかに終わりを告げる。
「それでは、サクラ嬢、お時間を頂きましてありがとうございました。また二日後にお茶会で」
「サクラちゃん、料理を作れるなら、今度僕の庭園っていうか畑、見に来ると良いよ」
「サクラ嬢、明日は歴史と地理についての書籍を持ってまいります」
「はい、お越しいただきありがとうございました」
畏まった席ではないが、サクラは誠意をもって跪礼を見せる。
静かに扉が閉まった。
ペアンが遮音と断絶の魔術を施し、メッツェンの部屋は城にありながら、世界と隔離された状態になる。
何を言っても、やっても、外の世界にバレることはない。
そのため、六名で今日の感想をまとめる。
「うーん・・・」
「どうした、サクラ」
「昼間に頂いた百合について少し考えていました」
「なにかあるのか?」
「黄色の百合は私のいた世界での花言葉が『陽気』『不安』『偽り』だったと思います。たぶん。この世界ではどうですか?」
「なんだったかなぁ・・・ゴッセ知ってる?」
「見栄と不安だったと思う。それをあの王子が知っているかは分からないけどね」
「あの王子はほとんど貴族令嬢と関わっていないから、知らないはずだな。エレバもそんなタイプではない」
「スタンツェさんは、エレバさんを知っているのですか?」
「円卓の魔術師会で数年共に学んでいたらしい。専攻が違うから、必修科目のときにすれ違ったくらいだ」
「なるほど」
「正直、記憶はないな」
「ふふっ。想像出来ます」
片眉と片方の口角を上げて笑うスタンツェを見て、サクラは少し楽しいときの笑顔だと感じる。
旅の途中で一度だけ、笑いのツボに入ったのか、眉毛が下がって困ったような顔をしながら爆笑していたのを思い出す。
複雑な事情のゴッセと共に、あのお城の中で三人が生き抜いてきた事実を思い、これからは笑って過ごしてもらいたいと感傷に浸る。
百合に込められた意味を考えるのは保留とした。
サクラの顔の前に、急にウィスカーの顔が現れて、目を見開く。
「ねぇサクラちゃん、後でもう一度パンケーキを作ってくれる?」
「・・・もちろん!先程頑張っていただいたお礼に作ります」
空間魔術の厨房でパンケーキを提供することにした。
サクラは料理を進めながら、皆に話しかける。
「まだ確証はないのですが、コッヘル様の寿命について仮説を立てました。聞いてもらえますか?」
「仮説?」
「体が弱くて長生き出来ないんだろ?」
「はい、この世界の認識ではそうなると思います」
「サクラのいた世界の知識を聞いてみようか」
「共通の認識のために例えを使いますね。この世界には魔力と魔力を受け入れる体という考えがあります。魔力が大きく体が小さければ魔力が暴発し、体は大きいけれど魔力が小さければ魔術が使えない。これはあっていますか?」
「間違いはない」
「ありがとうございます。この例えの中の魔力にあたるものが、コッヘル様の寿命を縮めていると考えます」
「魔力に変わるもので、体に影響を及ぼすもの?謎かけみたいだね」
「それは食事ですね」
「えっ、飯が爆発するのかっ?」
「アドソン、落ち着け。飯は爆発しない」
「あぁ、分かった!」
「他の人には食品なのですが、コッヘル様にとってはごく微量でも毒になる食品がいくつかあるようです。子供のころはそれが分からず、食べてしまって症状が出たんだと推測しています」
「食べるとどうなるんだ?」
「体に赤い発疹やかゆみ、悪いときには呼吸困難感、ヒューヒューと言った呼吸音の変化が見られます。呼吸がうまく出来なくて、蹲ったり、倒れたりします。私のいた世界ではアレ・ルギーと呼ばれている症状です」
「それは・・・毒殺を疑う状況だな」
スタンツェは眉間にギュッと皺を寄せている。
知らない知識を否定せず受け止めてくれているようで、サクラは精一杯かみ砕いて説明する。
「そして、コッヘル様のお立場を考えると、また複雑です。コッヘル様の世話係の方々は症状が出るたびに、無実の罪で罰せられることがあったと思います。そして、コッヘル様から見れば、ご自分が体調を崩すたびに周りの人がいなくなっていく環境だったのでしょう」
「なるほど、幼少期の療養で母方の領地で過ごしたと聞いている。体調不良といえば体調不良か」
「はい。ご自分を責めたこともあるでしょうし、すり寄る大人たちを疑うことも多かったのではないでしょうか」
「・・・頼れる者がいないとか、疑って生活するっていう苦労は、理解出来る」
ゴッセも珍しく眉間に皺が寄っている。
自身の苦労と重ね合わせているのだろうとサクラは考える。
「そんなことがありながらも、エレバさんとラスパさんは偶然か必然か、コッヘル様の体調の改善に役立ち、まだお傍にいるのだと思います」
「・・・確か、ラスパが料理の魔術を使う。畑と話していたから、コッヘルの料理を担当しているのだろうな」
「はい。コッヘル様と同じものを食べたいと伝えた時に、お城の厨房ではなくラスパさんが作っているというのは、体調を考えてのことだと思います」
話を黙って聞いていたアドソンが、首を傾げて質問する。
「サクラが作った料理は症状が出ていなかったのかー?」
「サラダはラスパさんがとりわけていました。ハンバーグは小麦粉や卵などの材料を説明してあります。その上でハンバーグは食べなかったようです。ゼリーも果物を選べるようにしました。寒天で症状が出る方もいるのですが、コッヘル様は迷わず食べていたので、大丈夫だったと思います」
「なるほど。その細かい事情はさすがに簡単に明かせないな」
サクラは小さく頷く。
観察と事実を解釈するときに、思い込むこともありますね(自戒)
ここまで読んでくださり、ありがとうございます
連日23時アップ予定です。




