報告-16の月、12日、4枚目
飯の時間
メッツェンの部屋で長方形のテーブルに七人が座る。
ちなみに、このテーブルは東の国王城のどこかから持ち込まれたもので、コッヘルが手配してくれたものだ。
しっかりとした作りで、晩餐会などで使われるような高級品なのだろう。
綺麗に磨かれているが、煌びやかというよりは清潔感のために磨かれているように思える。
長い一辺の左寄りにサクラ、右寄りにコッヘルが座り、時計回りにラスパ、エレバ、スタンツェ、アドソン、サクラの右斜め前にゴッセが座る。
七つのお弁当に加えて、サクラが作ったチキンハンバーグとセルフ方式サラダを配置する。
飲み物はカードに書いてあり、各自で選んでもらう。
東の国の三人がカードを覗き込み、悩んでいる。
「飲み物をメニューから選んでくださいね」
「め、メニュー・・・あの、このロイヤール・ミ・ルクティーと言うのは」
顔を上げたコッヘルに、ラスパが袖を引いてツッコミを入れる。
「・・・主、落ち着いて。僕たちのことを紹介しないと」
「エレバさんとラスパさんも、お越しいただいてありがとうございます。飲み物は何にしますか?」
「メッツェン様、お招きいただきありがとうございます」
エレバがしっかりと礼を伝える。
「すみません、サクラと呼んで頂きたく・・・あと飲み物を」
飲み物を選んで欲しいサクラは、さらっと呼び名のツッコミを入れながらも催促する。
「ぶはっ、じゃぁシャクラちゃんで良いかな?あれ?」
「サクラ嬢だね」
「シャ、サ、サクラ。よし発音出来た!」
「はい、それで飲み物は・・・」
「私は果実水を」
「僕は紅茶でお願いしまーす」
「ラスパさんは紅茶で、エレバさんは果実水ですね」
「私は珈琲をお願いします」
コッヘルは最後に選んだが、まだ悩んでいる様子であり、サクラは微笑ましくなる。
「はい、分かりました。少しお待ちください。えっと、先にサラダを各自で盛り付けていてください」
「・・・あの・・・給仕をサクラ嬢がするんですか?」
思わずコッヘルがサクラを呼び止める。
ゴッセが慌ててフォローする。
「・・・主の趣味なので、許容して頂けると助かります」
スタンツェが溜息混じりに、嘆く。
「飲み物の給仕くらいで済めば良いが・・・あぁ、毒見はこちらで行って良いか?」
メッツェンの中身がゴッセでもサクラでも、しばらく毒見などという習慣はなくなっていたが、昼間の魔術汚染のことを考えると、スタンツェは毒見をしておきたかった。
ペアンとウィスカーが洗浄の魔術を展開しているため、悪意があれば入室出来ないことになっているとは理解していても、安全性は高めておきたいのだ。
西の国の代表でスタンツェ、東の国の代表でエレバが毒見をすることに決まる。
各自の飲み物を準備したサクラは着席する。
「コッヘル様、すみません。食膳の祈りを捧げても良いですか?」
「えぇ、構いません。西の国にはそのような作法があるのですか?」
「いえ、昔知った作法で気に入ったので、私だけのものです。身内の食事の時に行っています」
「そうでしたか。私にも教えて頂いても良いでしょうか?」
「良いですよ。胸の前で両手の掌を合わせまして、文言は『いただきます』となります。食材そのもの、食事を加工して料理を作ってくれた方、食器を作ってくれた方など全ての命に感謝し、美味しく頂くという意味が超えられています」
「なるほど、短い文言の中に深い意味が込められているのですね」
両手を合わせるサクラを興味深そうにコッヘルが見る。
「では、頂きます!」
「待て」
「サクラ、一応毒見をしてからの方が良いんだが・・・まぁ、いいや。頂きます」
「・・・いただきます。乾杯とはまた違っていいものですね」
ツッコミを入れたスタンツェ、苦笑しながらも許すゴッセを見比べ、コッヘルは穏やかに微笑む。
ちなみにアドソンは先に『いただきます』をして、既に食べ始めている。
本日は無礼講として、それぞれの立場は関係なく会話が出来ることに取り決めた。
お弁当の形にまとまったコース料理は、今日も魚料理がメインでサラダ、スープがついている。
サクラが準備をして、ラスパが取り分けたサラダを、ゆっくり味わっているコッヘルをこっそり観察する。
ふいにエレバからサクラに声が掛かる。
「あの・・・サクラ嬢は様々なことに造詣が深いようですが、私からの講義は必要ですか?」
「おいっ、今は食べようぜー」
「アドソンさん、ちゃんと食べていますよー」
「それなら良いんだけど、もう一個ハンバーグ食べて良いかー?」
「あと一個なら良いですよー。エレバさん、私はこの国のことを外側からしか知りませんので、色々学びたいのです。あ、このお魚は柔らかくて美味しいですね」
「魔魚に歌の魔術を聴かせて飼育したものになります。我が国の特産品ですね。」
コッヘルの説明に、スタンツェが食いつく。
「歌の魔術で成長を促進するとしたら、風の魔力ですか?」
「そこは企業秘密になりますが、飼育環境そのものに複数の歌の魔術を使っていますよ」
「なるほど」
企業秘密と言われてしまえば引き下がるしかないが、スタンツェが気になるならば後日視察の希望を出そうと、サクラは頭の隅のメモに記入する。
「サクラ嬢、新たな侍女は望まないとのことでしたが、良いのでしょうか?」
「はい、こちらの国の社交界のことは、予定通り王妃様からご教授頂けるとのことでしたし、夜会や茶会などがあれば人を寄越してくださるとのお約束を頂きました」
「貴方がそれで良ければ良いのですが。・・・私は王太子でもありませんので、あまり大掛かりなことは出来ませんが、他に望むことはありますか?」
「・・・では学びにふさわしい机と椅子、本棚を手配する許可をいただけますか?」
「・・・贈り物ではなく、許可で良いのですか?」
「はい、商人は呼んでいただかないとなりませんが、実物を見て、体にあった大きさのものを選びたいものですから」
「分かりました、許可します。品が届く日が分かれば、教えてください。城内に運び込む手配を致します」
「ありがとう存じます」
「では、明日から机が届くまで、講義はこのテーブルを使いますか?」
コッヘルは柔らかい笑顔を見せながら、小首を傾げる。
サクラはいつも通りに微笑み、返答する。
「このテーブルは食事会の為に運んで頂いたものですので、お返ししますよ。元の場所で役目をはたしてください」
「お客様との晩餐用のテーブルですから、頻繁には使っていません。数日ここに置いておいても困りません」
「そうですか。では、沢山勉強致しますね」
サクラは胸の前で握りこぶしを作る。
「あまり無理はなさらずに。・・・あぁ長旅を終えてから、休んでいませんよね?」
「・・・そういえばそうですね。明日の王妃様とエレバさんからの講義を受けたら、一日お休みを頂いてもいいでしょうか?」
「急を要する教育はないでしょうから、調整しておきます」
サクラはお休みの日に、家具商人を呼んでもらうことを提案したが、コッヘルが納得せず、一日しっかり休むように説得された。
「サクラ嬢は、真摯な方なのですね」
そっと目を伏せた状態で、コッヘルは右手を胸に当て、呟く。
サクラは聞き取れたが、聞き流そうかどうか一瞬悩み、答えることにした。
「それはきっと、お互い様だと思いますが、こちらにも事情がありましてと、お返事するだけですね」
「事情」
コッヘルが数回目を瞬いて、サクラを見つめる。
サクラはコッヘルからの視線を僅かにずらし、コッヘルを見つめていた。
思いがけない素の姿を見ることが出来る時間。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます
連日23時アップ予定です。




