報告-16の月、12日、3枚目
平服って難しいですよね
「なーサクラー、俺達の服装はこれで良いのか?」
チキンハンバーグづくりに入ろうと、保冷庫を見ていたサクラは、顔をアドソンの方に向ける。
「平民の服には見えませんが、移動していた頃の服装ですよね?」
「うん、一番簡素な服にしてみたー」
久しく見ていないが、アドソンの質素な服装は、『Tシャツにハーパン、ただし紐が長い』訓練着だとサクラは考えている。
その基準でいけば、今は白シャツに黒のスラックスの姿なので、平民ではなく貴族令息の様に見える。
「そういえば、紐の長い半ズボンは持ってきてないのですか?」
「持って来ているが、訓練じゃないからなー。サクラはあの服が良いの?」
変な子だなぁと呆れたような目でアドソンはサクラを見る。
紐が長すぎるハーパンを履いて訓練しているアドソンもかなり変わっていると思うと、サクラは見つめ返す。
「流石に他国で半ズボンは止めれる?」
スタンツェの冷静なツッコミが入った。
三人は打ち合わせはしていないらしいが、白いシャツに黒のスラックスをベースとしている。
スタンツェは紺色のジレに、同色の縁の太い眼鏡を身に着けている。
眼鏡は高級品だが、用途別に持っているとのことだ。
アドソンは孔雀緑のカーディガンと深緑のニットキャップを身に着けている。
帽子は食事の席では外すようだが、モコモコした素材の帽子はふわふわの茶色の髪に似合っている。
ゴッセは紫寄りのピンクのストールに、同色ベルトのバックルを身に着けている。
バックルとブローチが同じデザインになっており、いつの間にか新しい装飾品が増えていた。
「バックルは格好良く見せるための偽物で、スタンツェの工作の品だよ」
スタンツェの持って来ている研究資材や、サクラが道中に買い集めていたビーズなどで作ったそうだ。
サクラは数日前にガラスビーズをプレゼントしたことを思い出した。
おしゃれな普段着では個性が如実に出ていて面白いと、サクラは微笑む。
スタンツェがサクラの服装を見ながら、口を開く。
「お前はその街着で良いのか?」
「えっ、変ですか?」
「いや、それはサクラ用で、今の見た目はメッツェンだろう?色味が合わない気がする」
「あっ、そういえば、メッツェン様の擬態をしていました。・・・お勧めの服はありますか?」
包丁で鶏肉を刻み始めてしまったため、ゴッセとウィスカーに服を選んでもらうことにする。
「サクラ、スカートをこっちにすると色合いがあう」
声が掛かり、サクラは手を念入りに洗ってから、クローゼットに近づく。
スカートの代わりにワンピースを差し出されて、サクラは小さく頷き、スカートに手を掛ける。
「・・・ってここで脱がないでよ!」
「・・・奥で着替えてきます。脱いでもタイツがあるから見えませんよ?」
「サクラちゃん、淑女は人前で着替えちゃだめよっ」
「サクラっておもしれーな」
「ドレスを着る時には人の手を借りないといけないのに、不条理です・・・元いた世界の服装を再現して見せてあげたいものです。きっと簡素すぎて、驚かれますよ」
「ペアンとウィスカーの許可が出る服装なら構わないが・・・」
「じゃぁ作ってみようかな」
軽口を叩きながら着替え直して、料理を再開する。
メッツェンの擬態をしているため、明るい茶色に白いレースのついたワンピースを着る。
アクセントにピンクのリボンが腰回りについている。
汚れないようにペアンが魔術を掛けてくれたので、心配せずに料理が出来るとサクラは上機嫌だ。
ウィスカーはサクラの料理の補佐を買って出て、アドソンは訓練を行うために部屋に戻った。
ゴッセとスタンツェは、サクラを見つめるペアンに、先程の魔術について色々質問している。
サクラは料理を作りながら、ペアンが質問に答えてくれるよう、助け船を出し続けた。
予定の時間までに、料理が出来上がり、あとはお弁当を取りにいく段階になった。
「では、取りに行きましょう!」
「サクラが行くのはダメだからね」
「えぇぇ・・・」
「今はメッツェンの姿だから、大人しくここで待っていてくださいね」
ゴッセとアドソンで受け取りにいくことに決まった時、ノックの音がする。
少し早い時間に三人が来てしまい、慌てて表情を取り繕い出迎える。
「お招きいただきありがとうございます。先程は私たちの不備により、ご迷惑をおかけいたしました」
代表でコッヘルが挨拶と謝罪を口にする。
さすがは一国の王子様、平服と言えども高級品だと分かる。
パリッと糊のついた真っ白なシャツが眩しい。
「・・・えっと・・・サクラ嬢は本日も愛らしい服装で」
無理やり褒めようとしているペアンを片手で制する。
「謝罪をお受けいたします。こちらは何もございませんでしたので、気に病まずに。こちらからの急な提案をお受けいただきありがとうございます。それと無理に誉めなくて構いません。今は気合を入れたドレスではないですし、化粧も薄いので、見た目に触れずとも構いません」
「そうですか。お気遣いありがとうございます。私たちの服装はご希望に沿いましたでしょうか?」
「高級品だと思いますが、努めてシンプルな服装にしてきてくださったのでしょう。お心遣い、とても嬉しく思います」
「合格点で良かった。・・・・あのお弁当を十個ほど用意したのですが、本当にこちらの二人も同席して宜しいのでしょうか」
「はい。ぜひ皆様とお話したいと考えておりましたので。どうぞお座りください」
三つのお弁当を空間魔術に隠し、人間七人の不思議な夕食会が始まる。
無難なスーツが一番落ち着きます。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
連日23時アップ予定です。




