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報告-16の月、12日、エレバ

説明回

「侍女の中に、呪われた者がいた?」

コッヘル様に先程メッツェン様の部屋で起きたことを報告する。

今後の対応は王妃様が指揮を執られることになるため、事実のみを説明する。

事実誤認があってはならないため、王妃様より伝えても良いと指示された事項のメモを読み上げていた。


「コッヘル!」

報告を最後まで聞かずに、コッヘル様が走り出す。

滅多に慌てることのないコッヘル様が、取り乱すのは珍しく、体が丈夫ではないため走ってしまっては後に影響が出ると予想される。


しかも、前触れも出さずに『我儘王女』を訪れたなら、機嫌を損ねるだろう。

先程の件と合わせてこちらが有責となり、婚姻を結ぶしかない状況になるはずだ。

慎重に事を勧めないといけない段階であるはずなのに、コッヘル様が迂闊な行動に出てはいけない。


幸い、廊下に人気はなく、追いかけている途中にラスパが角から顔をだす。

「えっ、コッヘル?えっなに?」

「コッヘル様が姫君のところに向かわれた。前触れなしに」

「えっ、それ不味いでしょ」

「行くぞ」

二人は慌てて主の後を追う。


幸い西の国の王女が「滞在している客間」の前で、ノックすることが出来ずに立っているコッヘル様を捕まえることが出来た。

普段の運動量の違いだろう、コッヘル様の息が上がっており、話すこともままならない。


声をひそめて、コッヘル様に詰め寄る。

「何を考えておられるのですかっ」

「あ・・・いや・・・メッツェン嬢・・・サクラ嬢が呪いに触れたかも知れないから。不安に駆られているのではないかと・・・すまない」

「・・・はぁ・・・コッヘル様、こういうときは先触れを出し、返答を待ってから訪れるものです。今ままでそのような機会がなかったのですから、仕方がありませんが、これからは先触れを出して頂きたい」

「あぁ」

「まぁ、今まで通り『今後』などというものは来ないのでしょうが」

「・・・ごめんなさい」

赤い髪に赤い瞳、すらりと大きな体は、コッヘル様を勇猛果敢、冷静沈着などの印象にしてしまう。

本人は何度も生死の縁を彷徨い、今も病気がちであることからも、優しく、穏やかな性格だ。

第一王子が王太子となれば、継承権を返還し、一臣下として東の国を支えると、幼少の頃から周囲に伝えるほどの聡明さだ。

体が弱いことから、成人出来るか不安視されていたため、取り入ろうとする大人が少なかったのは、幸いだった。


「大丈夫です。今回は呪われた者はいません。西の国のスタンツェも同行していますから、何も問題は起きません」

「・・・エレバはスタンツェさんを知っているの?」

「直接会ったことはありませんし、向こうは私のことは知らないと思います」

東の国の王族は皆背が高い。

王城に出入りする魔術師や騎士の中でも、コッヘル様は背の高さだけでも目立つ。

こちらが少し見上げる位置に顔があるのに、しゅんとした大型犬の雰囲気を醸し出さないで欲しい。

あと、可愛らしく首を傾げて質問して来ないで欲しい。

東の国の令嬢たちが好印象を持つのも、良く分かる。


「あっ、エレバ、ラスパ。私はお詫びの品を持って来てもいない」

「エレバから報告を受けて、僕の庭園から花を摘んで来ておいたよ。前情報では派手な花が好みだと聞いていたから、百合にしてみた」

「そうか・・・ありがとう」

コッヘル様はふんわりと笑う。

その笑顔を女性に向けることはないのだけれど、誤解する令嬢は多かった。


ラスパの持ってきた百合は綺麗に咲き誇っている。

姫君の髪色に近い黄色の百合だが、ラスパの管理が行き届いていることを物語る美しさだと感じる。

料理の魔術で土属性の魔力を持っているので、土地や草木に力を与えながら管理をするというラスパ独自の栽培方法あっての品質だ。

コッヘル様が体を丈夫にし、成長出来たことの片翼をラスパが担っている。


息が整った様子のコッヘル様を見て、大きな影響はすぐに出ないと判断する。

コッヘル様には呪いと説明したが、侍女はそれよりは軽度の魔術汚染の段階であった。

城の医魔術師に診てもらい、洗浄を受けているはずだ。

私に医魔術は使えないが、知識はある。

コッヘル様に魔術汚染は起きていない。

健やかに過ごされるように配慮するのが、私の大切な仕事だと、握りこぶしに力を入れる。


コッヘル様と私は離れて隠れ、ラスパが客間の扉をノックする。

了承の返事が聞こえ、先触れに来たことを伝える。

少しだけ開いた扉の隙間から、騎士が顔を出す。

先程の会見の際、王女の右隣りに座っていた騎士のアドソンだった。

ウェーブが掛かった茶色の髪に、緑の瞳、一見して鍛えていることが分かる体つきの男だ。

「立派な体つきだよね。俺も鍛えたらアドソンさんのように成れるかな」

コッヘル様の呟きは聞こえなかった振りをした。


アドソンはラスパの話を聞き、小さく頷く。

「承りました。・・・もう入られますか?」

「えっ・・・いや・・・ご令嬢には準備の時間が必要だと思いますので、お返事だけ頂ければ結構です」

「分かりました。少しだけここでお待ち頂いていいでしょうか?すぐに確認致しますので」

「礼を失したのはこちらですので、待たせていただきます」

「恐れ入ります」

静かに扉が閉まる。


姫君の機嫌を損ねないように、婚約者候補を辞退いただきたいところだが、トラブルを起こして退去してもらっても良い。

『我儘王女』として他国にまで名が広がっているが、西の国では随一の歌の女神として国民の支持は高いらしい。

そんな姫君がコッヘル様の元に嫁いできたとして、一臣下としての慎ましい生活には馴染めるとは思えない。

私やラスパはどのような生活でも、コッヘル様についていくだけなのだが、そんな覚悟はないだろう。


アドソンが室内から出てきて、ラスパに手紙を託したようだ。

ラスパがこちらに向かってくるので、コッヘル様の執務室に三人で向かう。

手紙を読んで戸惑いながらお互いに見つめあうまであと五分。




主が大好きな黒髪ワンコがエレバです。主が頼りにしている茶髪ニャンコがラスパです。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

連日23時にアップ予定です。

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