報告-16の月、11日、3枚目
西の国から来た六人が、初日の夜を過ごします。
西の国の人間四人は、予定されていた第二王子妃室へ向かうことになる。
なお、東の国王の計らいで、家族の晩餐は明日に予定される事になっている。
王妃はサクラとコッヘルの二人の晩餐を目論んでいたようだが、コッヘルが疲労を心配して、明日の茶会までは休んで欲しいと伝えて来たのだった。
案内してくれた騎士がいなくなったところで、本日の『メッツェン業務』は終了する。
「ふぅ」
サクラはゴッセに手伝ってもらい、メイクを落とす。
着替えは朝もペアンとウィスカーが手伝ってくれたため、ゴッセは自分の着替えのために離れる。
質素なワンピースに着替えが終わり、衣装室から出ると、ウィスカーがミルクティを出してくれた。
「サクラちゃん、お疲れー」
「ウィスカーさん、ありがとうございます」
馬車につけていた空間魔術を、この部屋に移動したのだという。
元々広い部屋にキッチンが造設されており、不思議な光景が広がる。
全員が椅子に座り、ミルクティを飲む。
スタンツェが小さく溜息をついて、口を開く。
「サクラが発言したときは肝が冷えたぞ」
「うん、でもうまくやってくれた」
「そのようなお話は二人のーだって、サクラっておもしれーな」
ゴッセとアドソンも話始める。
サクラはミルクティを味わいながら、キッチンにお茶菓子が残っていたのを思い出していた。
思考があちこち飛ぶのを感じて、緊張していたのだと苦笑する。
ペアンが心配そうにサクラの顔を覗き込む。
「・・・あぁ、あの時は、コッヘル様がどういう意図で聞いたのかがつかめなかったんですよ。悪い感情ではなさそうでしたが、牽制しました」
「あれで良かったと思うよ。相手の好印象にはならなかったのが一番」
「我の最愛に余計な虫はつかなくて良い」
「全く思考にブレが無いな」
「そうですねぇ・・・さて、質問です。ゴッセさんはいつお城に来ますか?」
「その扱い・・・サクラはやっぱおもしれーな」
「そうだねぇ。『俺様』は予定通り、明日の夕前に到着としよう」
「先触れはこちらから出しておく」
「はい、ではメッツェン様として、ゴッセさんの到着を待ってますね」
サクラは頷き、ミルクティーをまた一口飲む。
正式な形で、全員が揃うのは安心感があり、またあ力を抜く事が出来る。
「それと、お部屋の配置はどうなりますか?」
「この部屋の廊下の反対側に扉があるだろう、そこが使用人と騎士の部屋の様だ」
「今東の国からは計五名が滞在している。丁度使用人たちの部屋は四つだから、一部屋は偽装して使っているように見せて、あとはそれぞれの部屋としよう」
「使用人の部屋は私、空室、アドソンさん、スタンツェさんでいいですか?」
「は?」
「サクラちゃんはここの部屋だねっ!」
「えー・・・」
「講師と侍女が来るのだから、ここにいてくれ。あちら側は男どもで使う。ウィスカー殿とペアン殿はこの部屋で良いだろうし、な」
「我の最愛には最上級の待遇を求めたいものだな」
「むぅ・・・ではお言葉に甘えます。そうなると、お夕飯は私はここで、皆さんは従業員食堂になりますか?久しぶりに一人でご飯ですね」
「そうだな・・・魔物と妖精と食べれば良いんじゃないか」
「あ、じゃぁ運んでもらって、空間魔術の厨房の方で三人で食べましょうか」
「それも楽しそうだなー。俺も弁当にしてもらってここで食うかー」
急な思いつきで厨房の者たちに迷惑が掛かるかも知れないが、サクラにとってアドソンの発言は、有難かった。
「あっ・・・・もし良ければ・・・今日は皆さんと食べたいです」
「そうだね・・・発覚すればまずいことは色々あるけれど、今日は厨房内で皆で食べようか。一緒に旅をして、いきなり一人では落差が大きいね」
「・・・まぁな」
「わぁありがとうございます!そうしたら、ウィスカーさんとペアンくんの分のご飯を作りますね。今日は何にしましょうかねぇ」
「・・・休まなくて良いのか?」
「ん?皆さんも休んでいないですよ?」
「俺たちは移動して働き続けるのは慣れているからなぁ。サクラは休んでおけよー」
「ん・・・では少しだけのんびりしてから、食事を作ります。荷解きもしてなかったですね」
「あぁ、俺たちも交代で荷解きをしてくる」
ミルクティを飲み終え、それぞれが荷解きを開始する。
「サクラ、我とウィスカーがやるから、君はこちらへ座ってくれ」
サクラの荷物はウィスカーとペアンが魔術でさくっと終わらせることになってしまった。
ただし、ペアンに膝の上にサクラが座ることが条件だ。
「えっと、一人で荷解きします」
お断りすると、ペアンが物凄く淋しそうにするし、ウィスカーは魔術で荷解きを始めてしまう。
仕方なく、膝に座り室内の配置と、夕飯のメニューを考える。
第二王子妃室はとても広くて華やかだが、机がなくてがっかりする。
令嬢には執務は要らないということなのだろうか。
サクラはリビング学習上等なので、そこで書き物をしようと決める。
入ってすぐに応接スペースがあり、奥には主寝室、ウォークインクローゼット、洗面室と浴室、小さいダイニングスペースという部屋の作りだった。
スタンツェの開発した厨房はダイニングスペースの端っこに設置したため、主に厨房で食事をすることになるだろう。
本棚は主寝室の方にあるが、机を購入してもらえるのならばどこに置くか相談したい。
「座っている間に、やっていただいてありがとうございます。さて、お夕飯を作りますよー」
サクラはブローチをノックして、話しかける。
「今日のサクラの夕飯を聞いてきたぞー。メインは魚、パスタ、スープはトマト系らしい。あとで届けてくれることになった。俺らは肉とパスタの弁当でもらってきたよ」
アドソンからのノックと返答が帰ってくる。
「なるほど・・・もう渡されてしまうんですね。もし変更が可能なら、コッヘル様と同じ食事を提供してもらえるように、交渉出来ますか?」
「伝えてみるよー」
お洒落なトランシーバーという感じで、サクラはご機嫌になる。
あまり使う機会がなかったが、耳飾りに増えた緑の葉っぱはイヤホンの代わりも兼ねていると判明した。
「おっし、着地出来た。ただいまー」
サクラが厨房内で食材を確認しているときに、窓からゴッセが入ってくる。
たった今ゴッセが買い物に行ってくれた食材の袋を覗く。
まだ騎士として到着していないので、バレないといいなぁとサクラは苦笑する。
「窓から出入りする騎士は、こちらの世界では普通ですか?」
「いいや、俺様だけだね、きっと」
ゴッセが良い笑顔で返答した。
コンコン
サクラが厨房で料理を作り終える頃に、コッヘルと同じ料理にしたという夕飯が運ばれて来た。
給仕はこちらでやるのでとウィスカーが受け取る。
むしろ配膳だけで来てくれたらしく喜んで置いていった。
サクラは明日からは、取りに行くか、皆で食堂で食べても良いのではと考える。
魚がメインで、パスタ、トマトスープと聞いていたが、届いたものは魚のムニエル、フルーツ、トマトスープだった。
サクラだけ別メニューなのは気が引けるが、テーブルマナーの講義はまだ続いている。
運ばれて来た料理と、作ったものをテーブルに並べて、三人の騎士と王女代理と妖精と魔物の夕食が始まった。
「少し東の国の人たちに慣れてきたら、皆でご飯を食べたいですねぇ。お相手次第ですが」
「サクラちゃんって、人生経験が豊富なのに結構甘いよねぇ」
「相手も品定めをしてくるだろうから、食事会を開くのはいい機会じゃないか?」
「相手がどう出てくるか次第かな」
「サクラを狙おうなど、我がゆるさん」
「さすがの愛だなー」
デザートのタイミングでチョコレートのパウンドケーキを取り出す。
昨日のうちに焼いておいたもので、本当は今日のお茶の時間にだそうと思っていたが、予定が狂った。
「へー木の実が入ってて、食べ応えがあるな」
「カットが小さめだから、そんなに重たくは感じないな」
「サクラちゃん、あたしにお替りっ」
「一人一個しかないんです。また作りますね。次はバニラアイスか生クリームも付けます」
「それも良いなぁ」
「・・・サクラのケーキが美味しい」
紅茶を飲み終えて、ウィスカーが食器を片付ける。
皿洗いはアドソンがやってくれた。
旅路の中で自然と持ち回り制になったのだ。
サクラが一緒であればペアンも皿洗いやキッチン掃除をしている。
本日の日程を修了したとして解散になり、ペアンが断絶の魔術を部屋に施す。
入浴も済ませて、ようやく一日が終わる。
「お部屋に机が欲しいんですが、コッヘル様にお願いすれば入れてくれますかねぇ?」
「今度来る家庭教師に頼んでみる?」
「ニャーン」
「一応家主様の許可は必要だと思うんですよ。明日のお茶の時間に聞いてみますね」
「ニャ」
「では、おやすみなさい。穏やかな眠りが訪れますように」
「おやすみなさいー」
気が付けば70話。
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