報告-16の月、11日、2枚目
直接のご挨拶
静かな廊下を歩く。
調度品はほとんどなく、人気もない。
来賓があるから人払いをされているのかと思うが、どちらかと言えば『ひっそり』という趣に感じる。
日当たりが悪いわけでも、埃が舞っている訳でもないが、それでも華やかさは感じない。
一つの扉の前で騎士が立ち止まる。
ノックの後返答があり、扉が開く。
「ようこそお越しくださいました。先程はご挨拶もせず、大変失礼致しました」
謁見の間で見た服装から、幾分か豪華さをなくしたコッヘルが声を掛けてきた。
スタンツェが代わりに挨拶をして、席に促される。
ここは応接間だったようで、三人掛けのソファが二つと、一人掛けのソファがローテーブルの周りに配置されている。
東の国のメイドが紅茶を用意して、出て行った。
ゴッセが擬態しているメイドは断りを入れて、同席させてもらうことになる。
一人掛けソファにサクラ、長いソファにスタンツェ、アドソンが座り、テーブルを挟んで一人掛けのソファにコッヘル、長いソファに文官二名が着席する。
「まずは紹介を。私が東の国第二王子のコッヘルと申します。西の国より足を運んで頂きましたことを、感謝申し上げます。このまま東の国の者を紹介しましょう」
短い赤髪、赤い目の優しく穏やかそうな王子は、すぐに目を伏せてしまう。
あまり人前で話すことになれていないのだろうとサクラは判断する。
「私はコッヘル様の護衛兼魔術師のエレバと申します。円卓の魔術師出身となります」
ローブを来た短い黒髪に黒い目の男性は文官ではなく、魔術師で護衛だという。
円卓の魔術師の出身であればスタンツェの知り合いかと思ったけれども、二人とも反応しないので、学年や専攻が違うのかもしれない。
「私はコッヘル様の文官兼従僕のラスパと申します。よろしくお願いしまーす」
ジャケットにスラックス、短い茶の髪に金色の目の男性は、ニコニコという効果音が付きそうな笑顔を見せる。
サクラはその笑顔が心からのものなのか、こちらを安心させるためのものなのか判断がつかないが、敵意はないと判断する。
三名の自己紹介が終わり、スタンツェが口を開く。
「こちらは西の国の第一王女メッツェン・サクラ様です。釣書は先日送付したものと相違ありません。そして、私はメッツェン様の護衛兼魔術師のスタンツェと申します」
コッヘルは手元にある書面に目を通し、頷く。
「私はー、メッツェン様の護衛兼騎士でアドソンと申しますー」
ラスパとアドソンの爽やかな笑顔合戦になっているのを、サクラはベールの下で見守る。
スタンツェはさらりとゴッセについても触れる。
昨日王都に到着したことを、中央区まで早馬で伝えに行った護衛がいるとほのめかしておく。
近いうちに護衛が三人になることを了承してもらった。
コッヘルは静かに話を聞いている。
訝しむ様子は今のところ見られないため、サクラとしては擬態とベールによるカモフラージュが効果を発揮していると考える。
「失礼ですが・・・これからはメッツェン嬢と呼ばせていただいても?」
爽やかな笑顔でコッヘルが質問をする。
サクラは咄嗟に答えそうになるのを扇を広げて堪え、スタンツェが答える。
「恐れ多くも、メッツェン様は愛称であるサクラの方で呼ばれたいとのご所望です。宜しいでしょうか?」
「愛称とは・・・初めてお目にかかるのに、宜しいのですか?」
「えぇ、東の国に嫁ぐ者として、淑女としてはいささかはしたないと受け取られるかと思いますが、王子と親しくなりたい考えておられます」
「それでしたら、サクラ嬢、私のことはコッヘルとお呼び下さい。宜しくお願いします」
サクラはニッコリと笑う。
まだ一言もしゃべっていないが、第一ステップは押し通したと捉える。
「先にひとつ確認しておきたいのですが、この国の王族は他重婚が認められています。そのことはサクラ嬢はどのように捉えられているのだろうか?」
「・・・それは」
打ち合わせしていなかった項目が出たが、スタンツェが対応しようとするのを、サクラは片手を上げて制する。
スタンツェは片眉を上げて、何を話す気だと睨むが、サクラは動じない。
「いやですわ、コッヘル様、そのようなお話は二人の時にしてくださいませ。ただ、私は実利を求めます、寵愛を欲している訳ではございませんわ」
少し拗ねたように頬を膨らませ、ぷいと顔を横に向ける演技をする。
実際はゴッセの様子を伺ったのだが、コッヘル達から見たら、扱いづらい他国の姫が機嫌を悪くしただけだろう。
婚約時点で破棄をしたいので、ぜひとも本当の奥様を探して欲しいという本音は隠して、仕事だけ寄越せと言ってみた。
「実利・・・そうですか。では、二人で過ごす時間を頂けたときに詳細を相談出来れば嬉しく思います」
朗らかに見えるような微笑みの王子をチラリと見るが、その目は笑っていない。
短い手袋をしているが、裾との隙間を掻いているように見える。
緊張からなのか、他の理由があるのか、今のサクラには判断できない。
他の二人からの視線も痛いけど、嫌われたなら願ったり叶ったりだ。
サクラは我儘な王女のイメージを追加出来たようで満足する。
静かに話の流れを見ていたスタンツェが、咳払いをする
「サクラ様の求める実利のために、いくつか手配を願いたいものがございます」
「・・・出来る限り善処しましょう」
「サクラ様はお飾りの王子妃候補になるお気持ちはございません。一つ目は、こちらの国の実情を教授してくれる講師を、二つ目は、こちらの国の礼儀作法を指導する講師を、三つ目は少し先で構いませんがこの国の視察の許可を頂きたい」
「・・・講師と視察ですね。検討して返答を送ります」
サクラはコッヘルが保留とした時点で、第二ステップを押し通したと考える。
講師がつけば、その時間の『メッツェンとしてのアリバイ』が作れる。
いつか本物ではないとバレても、あの日はサクラで、この日はメッツェンなどと立証するのは困難だろう。
メッツェンとゴッセが存在する状況を作れれば、サクラとしては御の字だ。
明日以降にゴッセが騎士の姿で城に到着してくれれば、皆で活動出来る。
ラスパが手を挙げて話始める。
「こちらからいくつかの条件を伝えます。第一にメッツェン様におかれましては、婚約式までは第二王子妃候補として待機して頂き、婚約式まではコッヘル様の居住区より外へ出られませんようお願い申し上げます」
「承知」
スタンツェが短く了承し、サクラは頷く。
「第二にメッツェン様におかれましては、二日に一度のお茶会にてコッヘル様と交流を持っていただます」
「承知」
「第三に専属の侍女を付けさせて頂きます。何なりとお申し付け下さい。これらの事柄に加えて、婚約式までに何事かの問題がございましたら、退去をお願いするかと存じます」
「承知」
サクラは退去の話が出るような事例があったのか、少し興味が出たが静かに頷く。
「なお、明日よりお茶会にて交流の時間が始まります。明日午後のお茶の時間にコッヘル様がお迎えに上がります」
「承知した」
スタンツェの返事をもって、話合いが終了となる。
なお、とっても静かに座っていたアドソンは、ずっとお菓子を食べていた。
ウィスカーが食べたかったなとぼやいた声をサクラだけは聞いており、吹き出すのを我慢するはめになった。
互いにとっての利が反するものでなければ、一緒に自由になれば良いんじゃないかなと思うサクラ。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます
連日23時アップ予定です。




