報告-15の月、16日、1枚目
旅の途中
昨日王女宮を出て、海沿いの街に向かっている。
地図上では東の国の反対側に向かっているが、これも作戦のうちだそうだ。
『メッツェン様の我儘』で、各地の重要な貴族たちには婚礼祝いを用意させているらしい。
そして、それを東の国に持っていって使うかもしれないと手紙で伝えてあるのだ。
「嫁入り道具として、東の国の貴族との交流用の土産として、箔を付けたい商品を教えて欲しいと言ってあるんだ。別に準備しなくていいんだけどねぇ」
サクラの思い違いでなければ、ゴッセ達はタダで寄越せと言っているのだが、敢えて指摘はしない。
ついでに第一王女の婚礼話を口伝で広め、東の国での新しい生活のために必要なものを購入すると吹いてまわることも追加していた。
海沿いの街に向かっている途中で、一日目の宿に到着する。
「というわけで、サクラたちはこの部屋で、俺達は隣の部屋。夜はイスイ村みたいに交代で護衛につくからなー」
アドソンが護衛の予定を説明し、スタンツェは明日の馬車の手配をしている。
ウィスカーとペアンがアドソンと相談し、サクラの部屋は断絶魔術を展開することになった。
護衛に立たなくていいならゆっくり休めると喜び、サクラは部屋から一歩も出れなくなったが眠るだけだからと気にしなかった。
トイレも風呂も部屋にあるので、特に外出の予定も無かったし、用事があればブローチで通信できる。
「日当たりのいい場所にウィスカーさんの依り代はおきますね。ペアンくんは猫様の姿でお願いします」
「ニャァ」
尻尾と床に打ち付けて不満そうにするペアンだが、今まで出番がなかった特注のブラシでサクラがブラシをかけると満足そうに眠るのだった。
サクラも馬車の生活が体に堪えており、すぐに意識を手放した。
城を出て二日目。
服と美の街と言われる場所に到着した。
サクラが立てた作戦の通りに、わざと目立つメイド服で噂話をしながら街で買い物をする。
サクラの護衛としてペアンも人型を取り、騎士の服に着替える。
どこからどうみても高貴な方に見えるが、王女付の騎士だと言えばなんとか押し通せるとゴッセから太鼓判を押された。
顔のつくりや瞳の色などは変えていないが、サクラに合わせて黒髪の短髪に変装しているペアンを、サクラはまじまじと見つめてしまう。
見つめられたペアンはご機嫌で街中をエスコートする。
メイド服のウィスカーはゴッセと歩き、アドソン、スタンツェはそれぞれに行動することになる。
王都よりは劣るが、王城での舞踏会にも着て行けるようなドレスを仕立てる衣裳店もある。
布地専門店やボタン屋、仕立て屋を支える道具屋など、街の産業の中心が服なのだと分かる。
サクラは一般の者に対しても、布地から売っている店でいくつか布を購入する。
「へぇ、お嬢さんは王女様のところの侍女さんなのかい。うちみたいな店の物を買ってくれるんなら、お祝いにこれもつけておくよ」
「なんだって、女神様が嫁ぐだと・・・」
布地店の夫婦がメッツェンの婚礼に驚きの声を上げる。
「もうっ、すいませんねぇ。・・・うちの人は女神様の歌声を聞いたことがあってねぇ。他の歌はもう聞けないってすごいのよ」
「この国からいなくっちまうのか・・・よし、明日には東の国に引っ越すぞ!」
「あんたは何を言ってんだい。ほら、仕事しろ、仕事っ!」
夫婦喧嘩のような威勢のよさで、仲良く話す夫婦を見ながら、サクラは品物を受け取る。
「それじゃ、この布地をいただきますね」
「あぁ、おまけもついていて大荷物だが、大丈夫かねぇ」
「私が持つので大丈夫ですよ」
「あぁ、騎士さんはしっかり持っておくれよ。市民の店だが、目利きはしっかりしているんだからさ。良い布なんだよ」
一緒に買い物をするペアンは意外にも買い物などに慣れており、サクラは荷物持ちをお願いする。
扉を開けようとしたペアンを制して、サクラが足を止める。
到着して間もなくなのだろう、白っぽい布が木の棒に巻かれた状態で破れた紙の包みから顔を出していた。
サクラはそっと触れ、店員の方に振り返る。
「あの、お姉さん、こちらの布・・・全部もらって良いですか?」
「はい?」
「それに、これとこれと・・・あぁ、この一角全部です」
「王女様はそんなに着替えるのかい?」
「これは個人的な買い物なので、王女様は関係ないんです。あ、全部持ち帰ります」
「・・・あぁ・・・あぁ、良いけれど、さすがに騎士さんも持ちきれないんじゃないかい?」
「私も持ちますので、大丈夫です」
「クラ、私が全部持ちますので、気にせずに」
「いえ、たぶん全部一人で抱えると、扉でつっかえて、外へ出られなくなります」
「・・・確かにそうだねぇ。外まではあたしも手伝うわよ」
「済みません。どうしても今買っておきたいので、お願いします」
「王女様と一緒に東の国にいっちまうんなら、この布は手に入らないだろうからねぇ。良い買い物だと思うよ」
話ながら頷く店員の横で、小さく頷き同意するサクラ。
興味深そうにペアンがサクラの顔を覗いてくるが、説明は後ほどとアイコンタクトを送る。
「この布は作っている方が少ないのですか?」
「育てるのも作るのも難しいって話だよ。尻がすぐに被れる赤ん坊に良いんだって評判は高いんだけど、単価が高いからねぇ。そんなに売れないんだけど、肌が弱い女子供には強い味方だから置いているんだよ」
「なるほど、良い品なんですね」
結局サクラは持っていたお小遣いのほとんどを布の買い占めで終えた。
二人で布の束を抱えて、店の外に出る。
人通りの少ないところに入り、スタンツェの空間魔法を取り入れたポーチに押し込む。
「さて、次のお店に行きますか!」
「サクラ、先ほどの店で追加した布は何かあるのか?」
「失礼しました。疑問に答えられていなかったですね。あの店は市民向けということで素朴な布地が多かったと思います。いくつかは私の服を作るために購入しました。最後の布は多くの人のために使おうと思っています」
「人のため?」
「えぇ、先日のイスイ村での災害の時に、やはり気になったのが衛生面です。綺麗な水があっても、衛星の概念が弱いと感じたのです。人の意識の中に衛生への配慮がないと、流行り病を広めることになると思います」
「病を広める、か」
「はい。西の国の歴史の中で、何度か流行り病の記載を見かけました。私は治癒魔法もポーション作りも出来ません。それであれば、病が広がるのを食い止める方策を考えていたいのです」
「病を広めないための方法として、布を使うのか?絵画の魔術でも使うのか?」
「魔術ではなくて、知識を広めます。布を感染予防として使わなくて良いのであれば、今後生まれて来るお子さんたちの口を拭くハンカチに使ってもらいましょう」
水害後の片付けで怖いのは、切り傷からの破傷風や蜂窩織炎、また粉塵からの呼吸器疾患だ。
手洗い、うがいの徹底に加えて、マスクの着用、可能であれば手袋の着用をお願いしたいところである。
ただ、この知識が広まり、効果を実感するには時間もお金も必要なのだ。
東の国に行ったところで、すぐに広められる立場にはないはずだ。
サクラはそれでも、来ないで欲しいと願いながら、その日に備えたい。
「ふむ、布を使わないことを願いながら、使うことを考えるのか。実際布を使うときに、その知識を我にも渡して欲しい」
「良いですよ。私の知識はペアンくんの食事みたいなものという認識であっていますか」
「そのようなものだと捉えてくれていい。まぁどちらかと言えば欲望を満たすものではある」
「私の知識がペアンくんの役に立つなら、何でも聞いてもらっていいですよ。気が付いていない知識の違いもあるでしょうから」
「分かった。では、サクラは今日の昼食に何を食べたいと考えているんだい?」
「あ、お店を見ていたのがバレていましたか?今日は大きな鍋で作られていたチキンのトマト煮込みが食べたいです」
サクラは食欲の向いている先を知られて、赤面してしまう。
そんなサクラをペアンは微笑ましく見つめるのだった。
「君の望みなら何でも叶えてあげよう、お姫様」
二人で美味しいチキンの煮込みを食べていたら、いつの間にか皆が集まっていました。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
連日23時アップ予定です。




