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報告-15月、15日、1枚目

新たな出発

「おはようございます。・・・眠って・・・ないのですか?」

「・・・仮眠は取った」


 メッツェンの執務室に現れたスタンツェがげっそりしていた為、思わずサクラは質問した。

視線を逸らしたスタンツェは恐らく眠っていないのだろう。

馬車での移動が始まったら仮眠をとってもらうことにする。


 東の国に向かうメンバーにスタンツェから、昨晩の空間魔術についての経緯が説明された。

小さい袋ではあるが、本棚を入れられるくらいにしたと報告があり、サクラの掌に乗るサイズの袋を、皆で頭をくっつけて袋を覗き込むというイベントが発生した。

何とか四個作ったとのことで、人間四人に袋が渡る。


「わぁ、全部収まりました」

「サクラちゃん、良かったね!」

王女宮に元々あった調度品を除いて、サクラの荷物は全て袋に収まる。

途中で、ペアンが袋の中に入ろうとしており、慌ててサクラが抱き上げることもあったが。


王女宮の中は慌ただしい空気が流れていたが、それでも静かだった。

訓練された使用人や騎士たちは感情を隠して、優雅に仕事をする職人なのだと、改めてサクラは考える。

「皆さんに、新しい制服を着て頂きたかったですねぇ」

「それは既に手配してあります。サクラはメッツェン様を支える心配だけをしていなさい」

小さな声でボヤいたはずが、後ろから近づいてきたモースに聞かれていたようだ。

廊下で声を出すからだと言わんばかりの視線に、サクラは視線を逸らす。

「貴方は西の国の代表として東の国に向かうのです。どこでも自由にとは行かないまでも、いつもどおり不敵に笑っていれば、味方も増えるでしょう。体に気を付けなさい」

サクラはモースの言葉を心配と激励と受け取り、穏やかな笑顔で跪礼を見せた。

モースは口角を少しだけあげて、見事な跪礼を返した。


 王女宮のエントランスに到着する。

見えるのは王女宮の使用人だけで、知らない人はいない。

歌の女神が生まれ故郷を離れるというのに、表立った国王からのご挨拶などはなく、これは政略結婚なのだなぁと、サクラは実感する。

自分の国の利益のために相手の国へ、しかも喜んでもらえるかどうかは分からない状態で、品物として贈られるのだ。

王女として生きなければならなかったゴッセは、どうにかして自由を確保したいと考えるのだろうなぁと、自身の選択は間違っていなかったと安堵する。


王女宮の方々が見送りに来てくれる。

昨日の夕方に決まったため、慌てて使用人の皆さんがそれぞれに贈り物を準備してくれたそうだ。

騎士団の方々はアドソンに泣いて何かを伝えているし、スタンツェは魔道具を渡されている。

メッツェンは、侍女長のモースと執事長のホーマンから花束を渡されている。

彼らはこれから、王宮、王子宮、新しい就職先にそれぞれ移っていく。

以前お世話になったイスイ村に所縁がある二人は、これをきっかけに村に戻るそうだ。

復興状況を手紙に書いて送ってくれるらしい。

ミクスターとミテルは餞別として王女宮にあったあらゆる調味料と、調理器具一式を渡してくれた。

「向こうで料理が出来るかは分からないが、メッツェン様にうまい物を食わせてやってくれよ」


 王女のための馬車は四台分の手配がされていたが、王族が使用するものでは無く大手の交通会社のもので、馬と御者は毎日交代で派遣される。

スタンツェとアドソンが手配してくれたそうで、貴族が使うレベルの馬車となる。

装飾はもちろんのこと、揺れや強度などにも違いがあるそうだが、サクラには違いが良く分からない。

王族が使う物一つでは長期間・長距離移動に使用すれば移動効率が落ちるため、支社ごとに乗り換えられるように工夫しているらしい。

王族のものは目立つ上に、疲弊した馬では戦闘に耐えられないのだろうと、サクラは考える。


 馬車に近づけば、人が乗るもの一台と、荷物を乗せるもの三台で手配されているのが分かる。

「あ、四人乗りなんですね、じゃぁ私は荷台に乗りますね」

「は?」

「サクラって、本当におもしれーなっ」

「ちょっと・・・貴方はメイドであるし王女代理なのよ、貴方だけは荷台に乗らないわ」

極力小さな声でメッツェンがサクラにツッコミを入れる。


「でっ、では、出発しましょう!」

珍しくメッツェンが大きな声をあげたため、皆の注目を浴びている。

少しだけ頬を赤くしているのが、サクラから見えた。

御者の隣にアドソンが座り、馬車にはメッツェン、サクラ、ウィスカー、スタンツェと乗り込む。


「サクラが荷台なら、我が今すぐに東の国に送り付けるぞ」

「それは、色々計画が崩れるからやめてくださる?」

扉が閉まってからペアンが猫の姿で話しかけてくる。

冗談が冗談にならないペアンに、メッツェンがツッコミを入れる。

馬車の中では、主にウィスカーが宝石に戻る手筈になっているため、ペアンが人型になっても席は確保されている。


「それでは、出発致します」

小さな窓から優雅にメッツェンが手を振り、つられてサクラも手を振る。

数か月お世話になった王女宮の人たちと離れることは、大人であっても切ない。

しっかりと自分に任せられた役目を果たそうと、決意を新たにする。


 王女宮を出たところで、予定通りウィスカーは宝石に戻り、サクラはなぜか人型になったペアンに抱きつかれる。

視界が真っ暗になったサクラは驚いて、ペアンから脱出しようともがく。

そうしている間に、メッツェンはゴッセに着替えていた。

これからは、人目がある時にはペアンに擬態を掛けてもらい、サクラがメッツェンの代理を務めることになる。


「空間魔術の中で眠ってくる。何かあれば起こしてくれ」

 朝まで空間魔術を編み出していたスタンツェは魔力回復のポーションを飲み、仮眠をとることにしたようだ。

渡された袋以外にも、空間魔術を展開する紙と作り、壁に貼り付けてあるのだった。

元いた世界でのカプセルホテルのような感じで収まるスタンツェを、サクラは見つめる。

ペアンも何か考え事をしているようで、スタンツェの丸い後頭部をじっと見つめている。


 案の定、王都を出るまでに乗り物酔いになったサクラは、人型のままでいたペアンによって膝の上に横抱きに確保された。

「あの、ペアンくん。流石にとても恥ずかしいのですが・・・・なぜこんなにも揺れないのですか?」

「衝撃は相殺し、体は安定するように調整してあるのだ。我は有能だからな」

「調整?・・・・サンハンキカンに侵襲を?」

「さんはん?」

「あ、いえ、呼び方はなんでも良いんです。ちなみにこれはペアンくんから降りたら、効果はなくなりますか?」

「・・・あぁ、我もさすがに離れてしまえば、衝撃の細かな調整がうまくいかない。衝撃や疲労を調整しなければ、人間は容易く体調を崩すだろう?」

「ふむ・・・いつもの猫さんを抱っこするのでは難しいのですか?」

「・・・できなくはないが、難しいな」

ペアンの膝の上に乗った状態で、サクラはペアンの顔を凝視する。

そっと視線を外して答えるペアン。


「・・・目を逸らしたので、嘘ですね。・・・車酔いを改善していただくのは、とても嬉しいですが、体の他の部分を痛めそうなので、私は椅子に座りたいです。隣同士で座るか、猫さんを抱っこするのでは、どちらにしますか?」

「・・・猫でお願いします」

猫型に戻ったペアンを、サクラは抱っこした状態で座り直す。


そっと経過を見ていたゴッセが質問する。

「えっと・・・その運用で良いの?」

「交渉の結果、こうなりました。体調が悪化すれば先程の処置に戻します」

「まぁ、サクラと魔物が納得していれば良いんだ」

メッツェンの横に座ったペアンとサクラが、双方の座り心地に落ち着いたところで、王女代理としての必要な知識の引継ぎが始まる。

サクラが車酔いとなるため、聞いて覚えて宿でメモをすることになりそうだが、一通り知らなくてはいけないことは頭に叩き込んでおく。

ゴッセが単語だけを羅列したメモを見ながら説明しているため、同じものを後ほど作って、書き足すことにした。

馬車の荷台には王女のための勉強道具も積まれているため、サクラはこれからも勉強漬けの毎日になるようだ。


 東の国を知るためにと、改めて地図を見せてもらい、二週間程度の旅になると言われて、サクラは気が遠くなる。

のんびり買い物しながらな移動するので、宿もいくつか手配してくれているそうだ。

「まずは西の方に向かうよ。何か気になる特産品があれば寄ることは可能だから、何でも言ってね。お姫様」

ゴッセがサクラに柔らかく笑いかける。

常に張りつめた空気を残していたメッツェンが、素のゴッセに戻れたのだと、サクラは実感し嬉しくなった。

小さな別れ

ここまで読んでくださり、ありがとうございます

連日23時アップ予定です

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