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報告-15の月、14日、メッツェンとゴッセ

正体

 起きたら西の国に行かなければならないのに、幼いころの夢を見て、心が休まらない。

目覚めろと体に言っても言うことは聞いてくれないらしい。


――――いつから違和感を抱いていたのだろう。

 物心ついたときには、母である人も、母と共にいる人たちも、俺を着飾り、俺に美しいものを纏わせた。

優雅であれ、優しくあれ、聡明であれ・・・

ここにはいない理想の誰かを求めて、俺にそれを演じさせる。

俺は必死に演じてきたけれど、その事実を知っている者は努力を認めることはなかった。

まだ足りない、まだ出来ていないと言われ続けた。

もちろん演じていることを知らない者は、嘘の俺を本物だと思っているから、何の疑問も持たずに手放しで褒めたたえる。

そこに俺の心は何一つ無いのに、俺はそこにいないのに。


 まだ夢から覚めないのか暗闇の先に灯りが見える。

あぁこれはサクラと出会った洞窟だ。

サクラに出会った日は、隠密行動で洞窟に行った。

壮大な計画の中の一要因として、異国から女を連れてきて魔物との契約の生贄にするという。

女を召還し、その上で魔物を召還するという無謀な計画だが、女に付加価値をつけることで魔物に気に入られようとしているそうだ。

実行犯が酒の勢いで話してくれたので、事実だろう。

ありがたい話だ。


 俺が自由になるための生贄が手に入るかもしれないと、その地に行った。

そして、大きな爆発音と大きな光の柱、倒れている女、引きちぎられた肉の塊を見た。

そこにいた女がサクラだった。

城に連れて帰ってきたときには、異国の女に見えず王女の代わりには出来ないかと落胆したが、絶望的な状況でも人の興味をひきつける会話が出来る女だった。

異国どころか異世界から人間を召還するだなんて、死んだ男はさぞかし凄い魔術師だったのだろう。利用できなくて残念だ。


 瞬きの間にサクラの姿が変わる。

まだ夢からは覚めていないようで、珍しくペアンがいない日だったと思う。

なんとなくサクラに城から街を見せてやりたくなって、尖塔を登った日だ。


城の尖塔は見張り台も兼ねているので、屋根に足場がついている。

騎士以外は登らないのだが、ここは一人になりたいときによく来る場所だ。

サクラは景色を見ながら、満面の笑みになる。

「ふわぁ・・・ここは穏やかな気持ちになれるところですね」

「あぁ、この街の美しい風景なら、俺様はどんな場所でも知っているぜ」

「ここよりも美しい場所があるんですね。さすが王都です!」

「ここから見る街は木々が美しいが、公園の噴水の美しさなら別な角度が良い。サクラは建物を見るのも好きなんだろう?街の向こう側の高台から見る屋根が広がる風景も美しいところがあるんだ」

「そんなにたくさんあるんですね。いつか連れていってください」

「あぁ」


 吹き抜ける風が心地よさそうに目を細める彼女の横顔を見つめる。

背伸びをして、服の汚れなんて気にしてないのか屋根に寄りかかる。

「・・・お前は自由だよな」

「んーそうですね。今は自由だと感じても良いのだと、思うようになりました。」

「昔はそうじゃなかったの?」

「・・・私は自分で不自由な身になることを選びましたから。そして、今は自分で選ぶことの出来る自由を楽しんでいます。私はここにいる自由を貰いました。」

「・・・そうかそれも自由なのか。・・・・俺も自由になれたら良いんだけどな」

「・・・そうですね、きっと自由になれますよ。貴方にはその権利があります」

「どうだろうなー」

サクラは寝転がったまま空を見ている。

横に座った俺はサクラの方を見れずに、同じように空を見上げた。

一羽の鳥が空を舞っている。


「そういえば、メッツェン様に差し上げた羽ペンに、『どうぞ自由に羽ばたいて」と彫りが施されているんです。お守りなのだそうですよ。だから、きっと騎士の皆さんも自由になれますよ。貴方にはその権利があります」

「・・・・そっか」

自由になんてなれないのに、彼女の言葉は心地よく、そうなったら良いなと束の間の自由を想像させてくれた。

空はどこまでも透き通っていた。



「あぁ、そういうことか」

目覚めたときに、頬が冷たく濡れていた。

ベッドで身を起こして、泣いていたことを知る。

まだ薄暗い部屋を見渡し、夢を思い出す。

――――あぁ、彼女は俺が誰なのかを知っていたのだろう。


 だから、婚礼の話を何も聞かずに引き受けたのだ。

俺が男だから王女としては結婚できないことを知っていたからこそ、女であるサクラが身代わりを引き受けてくれたのだ。

しかもそれを王妃代行という重荷を背負わされたと思うのではなく、この世界に残るための自由としたのだ。

そして、その自由を守るために俺たちの手を取ってくれた。


 身代わりとして差し出すだけならば、西の国に一人で行かせれば良いのだ。

魔物も妖精も守護があるから一人で行かせても、生き残れるだろう。

――――だけれども・・・。

 彼女を一人にするつもりは初めからなかった気がする。

魔力を奪われたから仕方ないのではなく、身代わりだから申し訳ないのではない。

この世界で生きると決めた彼女の生き方を、考え方を、行動をこの手で守ってやりたいと思ったのだ。


――――不思議なものだ。

 あんなにどこかに行ける自由を欲しがっていたのに、今は彼女の近くに居たいと思う。でも少しも不自由ではないし、窮屈でもない。

魔物が語る愛情のように彼女を縛るつもりは起きない。

彼女の持つ知性とまなざしは、俺が知っている女たちと違う。

男どもの後ろに守られて、女同士で駆け引きを楽しむようなものでは無い。

災害派遣の時のように、俺も知らない民の元に行き、視線を合わせるものなのだろう。


 望み通りの行動が取れるよう民の様子を耳に入れ続けよう。

必要なときにはすぐに傍に向かう算段をつけてやろう。

民に跪いて話を聞きたいなら汚れの目立たない服を用意してやろう。

サクラが来てすぐに知恵を借りたように、彼女を必要とする場はいくらでもある。

そうやってサクラが与えてくれたダズンローズの誓いを、何年かかっても全て君に返していこう。


誰でもない俺は俺なんだ。

俺、ゴッセは、騎士としての全てを掛けて君を護る。



それぞれの想いをそれぞれのタイミングで描けました。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

連日23時アップ予定です。

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