表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/267

報告-15の月、14日、スタンツェ

騒がしい来訪者

机に置いて眺めていたブローチから、いきなり使い魔の声がする。

「開けろ」

「なんだ?」

顔を上げれば、目の前に使い魔がいる。

ペアンという名付けを受けたようだが、サクラ以外の人間が呼ぶ許可を得ていない。

使い魔がいつ魔物に入れ替わったのか把握出来なかったことは、魔術師として悔しいが、知識の魔物に力を借りられるのは、大いに使える。

このブローチの魔術の展開が読み切れないが、声を送り届けるという機能は理解した。


使い魔に抱きかかえられたまま、サクラは話しかけてくる。

「あ、スタンツェさん、酔い止めのポーションはまだありますか?あと明日からの移動で、荷物を詰めるカバンが足りないんです。魔術で作れませんか?」

サクラが突拍子もないことを言いだすのは通常運行だが、言っていることを理解するのに時間がかかることをそろそろ認識して欲しいものだ。

「・・・一つずつかみ砕いて説明してくれないか?馬車なら荷物を載せる分だけ手配するぞ?」

「なるほど・・・馬車を荷物に合わせるのですね。お金持ちの発想だった」


会話をしたいからと下ろすことを要求するサクラは、使い魔の機嫌を損ねていることに気付いてないのだろうか。

いや、気が付いているが、放置しているのか。

深夜に男の部屋を訪ねる危険性については・・・知っていて、それでも好奇心が勝ったのだろうと、スタンツェは色々諦めた。


車酔いのポーションに関しては、スタンツェがその場の話に流れを合わせただけで、恐らくペアンが何かしらの作用をしたとの仮説を伝える。

スタンツェが災害支援に向かう馬車に用意したのは、本物の水だったのだから。

忙しい合間を縫って、酔い止めの魔術を考えるが、様々な方向からの衝撃を緩和するという点が壁となっていた。


「えっと・・・酔い止めは諦めるとして、荷物の相談をしたいです。スタンツェさんの魔法は紙から何かを生み出せますよね?紙に何かを埋めることは出来ますか?」

「・・・紙に埋める?」

「えーっと・・・例えば悪い人を捕まえるときってどうしていますか?」

「魔術で鎖を生み出して捉える」

「捕まえた人は連れて移動するとしたら、どうしていますか?」

「馬車に入れて・・・そういうことか」

「あ、伝わりましたか?牢屋を紙に埋め込んで、紙を持ち運べないかなと考えたんです」

「それは今の魔術にはないものだが、考えてみよう」

「ありがとうございます。たとえば普通の絵みたいに、お部屋を描いたら出来るというものではないんですね」

「張りぼての部屋を外に作るなら出来る。椅子も机も固定されて動かないが」

「がらんとした部屋を作って、荷物が持ち込めたらいい保管場所になりそうですね」

「あぁそうだな・・・試しにやってみるか」


水の魔力を持ち、絵画の魔術を扱う者は、召喚術が使える。

その基礎として、無機物を短時間作り出すことも出来るのだ。

魔術に対しての認識が全く違うサクラだからこそ、新しい魔術を思いつくのだろうな。

部屋を作り置き、人が出入りするなど考えてみたこともない。

魔術用の絵の具や筆を持ち出し、試しに描いてみる。


「入口、奥行き、窓、明かり・・・・こんな感じだ」

「あ、ドールハウスみたいですね」

「・・・確かにそうだな、そしてこれを紙に戻す魔術はない」

「では、紙から出さないで奥行きを作ることは出来ますか?えっと・・・紙の表面が袋の口で、紙の後ろ側に袋の本体が隠れているような感じです」

「・・・こういう事か・・・あぁ指が入るように出来たぞ」

「わーすごいです。この状態を大きく出来たら、ハンカチがバッグになりますね」

「なるほど、紙を少し大きくして奥行きを出すか・・・こうだな」


魔術は理論が必要だが、サクラの発想をかみ砕いていくと、どこを変化させれば良いのかの検討がつく。

新しく描き出すとサクラは不思議そうに紙に手を通す。

「入口は小さめですが、奥は桶みたいに広いですね。これは魔力を通さなければ絵に戻りますか?」

「そうだな、机に置くぞ」

「おぉ、絵になりました。そうしたら、魔力を通した状態で荷物を入れて、魔力をなくしたら荷物は壊れてしまいますか?」


いつもよりも笑顔で、次々と難問を繰り出してくるサクラを見ていて、昔ゴッセとアドソンに魔術を見せたときのことを思い出す。

こちらの魔力の残りなど気にせずに、あいつらは見たい魔術をリクエストしてきた。

帰りの馬車で王女宮から出るまでは普段通りに過ごしていたが、魔力切れを起こして家の者に心配をかけたこともあった。

あの頃の自分よりは大きく、様々な知識を得た。

身の回りに置くやつらくらいは守れるようになったと自分を評価している。


「・・・それならグラスを入れてみるか」

「あ、グラスの絵が加わりました!・・・そして取り出せました!」

「次は人体を入れて試すか」

「それはさすがにやめましょう!荷物が入って引き出せると分かれば大丈夫ですっ」

「なんだ?捕縛用じゃないのか?」

わざと捕縛用の檻の話を出せば、慌てて両手を振るサクラ。

たまに揶揄ってみると、いつも通りの笑顔以外の表情を見せてくるので、飽きない。


「最初に相談したとおり荷物を入れたいのです。そして移動しながら、購入する生活用品で、部屋を設えようと思います。あとは、何かあった時の避難用ですね」

「なるほど・・・では、もっと部屋のサイズを大きく出来るか検討しておく」

「ありがとうございます。声の問題はブローチでどうにか出来そうですね。文章の共有はノートとノートではなくて、一枚の紙をちぎって渡せば同じことが映るというものでも良いかと思います」

「そうだな、やってみよう」

豊かな発想力は、サクラが元いた世界で魔術を使わずに実現された機械があるからだという。

この世界に生まれ変わったときに、元の世界の品が全て失われたことを嘆いていたなと、サクラを見ていて思い出す。

まだ数か月しか一緒にいないのに、何度驚かされれば良いのだろう。

まあ、悪い気分はしない。


「スタンツェさんは本当に魔術の研究が好きなんですね。・・・いつか私にも教えてください」

「お前はすでに文字に魔力が込めていただろう?あれは魔術じゃないのか?魔物に聞いてみるといいさ」

「あれは魔術で良いのですね!・・・とはいえ、ペアンくんは寝てしまったので、明日聞きます」

人型から猫型に戻った使い魔は、サクラの膝で撫でられているうちに眠ったらしい。

この部屋に来たときの警戒心はどこに行った?


「・・・サクラ・・・その・・・本当に良いのか?これで」

「これ・・・がどれを示すかに寄りますが、今の私は幸せなんですよ。大切だと思える人たちが近くにいてくれて、大切にしたいと言葉に出来ることは、私にとっての最大の幸せです」

「人間だけでなく魔物も妖精も付いてきているが・・・」

「私がいた世界は現実には人間しかいなくて、でも物語の中は本当に自由でした。私は仕事以外はその世界にいたので、魔物や妖精がいても、魔術があっても素敵な世界だと感じることが出来ますよ」

「それなら良いんだが」


歯切れが悪いことは自覚しているのだが、サクラは理解出来ていないのか理解するつもりはないのか、とうとう顎に手を当てて首を傾げてしまう。

「そうですね・・・・もし元の世界に戻れと言われたら、戻りませんよ。あちらの世界に未練はないんです。今は求められる知識や視点があちらのものですが、人間は忘れていくものなので、段々と思い出さなくなるるでしょう。スタンツェさんは向こうの世界に私を戻す魔術が合ったら、戻しますか?」

「戻さないな・・・あぁ、戻すことはないだろうし、戻そうとしたら全力で止めに来た『奴ら』に殺されかねんな」

「ふふふ、それを聞いて安心しました。ぜひともこちらの世界にいさせてくださいね」


いつも通り笑うサクラは、結局大量の課題を残して自室に戻った。

ペアンは薄目を開けて一瞬こちらを見たが、大人しく抱きかかえられている。

表現出来ない感情が湧き、眉間に皺が寄る。


「・・・何を心配しているのやら」

知識の魔物とシトリンの妖精が守護を与えた女。

異世界、異文化からこの世界に放り込まれた女。

類稀なる幸運と絶望が同居する不運を、自由気ままに闊歩するのがサクラだ。

そんな女を守護すると決めたのだろうから、精一杯守れば良いんだ。


「俺はあいつを利用して、俺はあいつに利用されてやる」

それでいい。

サクラが自由に発想を語り、俺にはそれを叶えていくだけの知識と技術があるはずだ。

研究も開発も何も知らないやつは天才だと言い、魔術を知っている者は膨大な努力をしていると誉めそやす。

嫉妬も嘲りも警戒も畏怖も、自分たちを理解しようとしないやつらの視線にはもう慣れた。

何も知らないやつらには言わせておけばいい。

好きなことを極めることは、努力に入らない。

サクラと俺の互いにとって良い距離感で、俺達なりの最大の利益を出せばいい。


描いた景色を空間魔術として確立させることから始めようか。

魔術師として、魔道具師として、俺は俺のやり方でサクラを護る。

サクラも楽しいことには時間もお金も労力も惜しまないタイプです。

あれ、仕事中毒者の集まりかな・・・。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

連日23時アップ予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ