報告-15の月、14日、5枚目
ずっと言いたかったこと
「戻りましたー」
サクラとウィスカーとペアンの三人で、厨房へ夕食を取りに行った。
執務室に戻れば、メッツェンはラフな服装に着替えており、スタンツェが連れ戻されていた。
アイボリーのシャツにこげ茶色のズボン、同色の革靴、後ろ髪を一つにまとめ、前髪を下ろしている。
舞踏会ほどの華美なドレスではないが、短時間に一人でドレスを脱ぎ、着替えるのは大変だっただろうと、サクラは考える。
「・・・サクラ・・・これからは俺をゴッセと呼んでくれて良い。・・・・メッツェンの名は君の物だ。・・・・・・すまない」
サクラに向かい合いながら、騎士の礼をしたゴッセ。
サクラが知っている『ゴッセ』の姿はピンクブロンドの短髪にオレンジ色の瞳の青年のはずだけれど、今は金色の腰までの長い髪にピンクの瞳だ。
『メッツェン様』の男装に見えてしまうような、『ゴッセ』の女装に見えてしまうような、違和感があって、微笑んでしまった。
言えない過去も、癒えることのない傷も、お互い持っているのは確かで、それでも一緒に前を向きたいとサクラは思う。
目の前の真面目な王族は、本当に優しくて柔らかい人だ。
「謝罪されるのでしたら、メッツェン様の名前をお返ししましょうか?・・・・ふふ、冗談です。・・・メッツェン様の名で、愛称をサクラとしますね」
「あぁ・・・そうだな、謝罪は二度と言うまい。感謝する。そして・・・魔物殿。俺はサクラを利用させてもらうが、不幸にするつもりはない。騎士としての忠誠の誓いを立てても良い。貴方の領域を侵すつもりはないから、これからもサクラに力を貸してほしい」
いつも通りに首周りにいるペアンに向かって、ゴッセは頭を下げた。
一連の謝罪の話し方は、『メッツェン様』のものではなく、今までの『ゴッセ』のものでもないため、サクラにはやはり違和感はあるけれど、誠実そのものだと感じる。
不意に空気が揺れて、サクラが目を瞬くと左側にペアンが立っていた
「知識の魔物である我の領域を侵さないことは、知識を借りぬということでもあるのだがな。・・・まぁサクラの守護が盤石になるのであればよかろう」
ウィスカーもこっそり頷いているのがサクラから見える。
ゴッセが小さく息を吐き、握りしめていた拳の力を抜いた。
「あぁそうだ・・・お前たち三人の魔力を少し削るぞ。それを対価とし、サクラの守護とする」
「え?」
ペアンが手を振り握ると、ゴッセ、アドソン、スタンツェの三人がふるふると揺れた。
握られた手が開かれると、三人の瞳の色に似た宝石が存在した。
「人体に浸蝕した?魔力を削ったのか・・・」
「これは・・・魔石?・・・魔力の結晶?」
「作り出せるものだったのか」
「狭い空間で濃度を高めると結晶化するのだ。サクラ、メッツェンが与えた首飾りを見せてくれ。・・・あぁこれでいい、結晶をここに埋め込んで守護とする。首周りにつけてみてくれ」
手元に戻ってきたネックレスを眺める。
スティーブンに貰った羽ペンのネックレスに、メッツェンから与えられたネックレスのトップを追加して付けているものだ。
トップ部分には三粒の宝石が付いており、上から下に向かってピンク色が濃くなっていくデザインだった。
今は水色、黄緑、桜色に変わっていて、三人の瞳の色のような色合いになった。
「宝石の色合いが少し変わりましたね。・・・あれ、鏡越しでは今までと変わりません」
「違和感がなければ問題ないが、念のため明日朝まで外さずにつけておいてくれ。体に馴染むだろう」
「体に・・・馴染む・・・・?」
「まぁ後に分かる」
サクラは首を傾げるが、重さも大きさも変わっておらず、装着しても何も変化を感じられないため、そのまま着けておくことにした。
ウィスカーが一度両手を打つ。
「さぁ、ご飯を並べたよっ」
「ニャーン」
「あぁウィスカーさん、配膳をお願いしてしまって、すみません」
慌てて飲み物の準備に合流する。
テーブルについてからも、先程の削られた魔力や魔術の検証をしているスタンツェを横目に、サクラはテーブルマナーについてゴッセから学ぶ。
モースから教わっているため、基礎的なことは出来ていると言われたので、サクラは一安心した。
「そういえば、明日のいつ、東の国に向かうのですか?」
「・・・決まってはいないし、ルートを西の国のやつらに知らせるつもりはないな」
「襲撃の危険があるからですか・・・えっと、明日出発して、どのくらいで到着出来るんですか?」
「最短で七日くらいかかる。とはいっても、何も準備出来ていないからな。父上と兄上は是が非でも俺にいなくなって欲しいんだろう。王女として存在しているのだから継承権も何もないだろうに」
「お前の民衆からの信頼が厚いことを危惧しているんだろう。同じ歌の魔術の国で、冷遇されるのをお望みなんだ」
「良い性格してるね、まったく」
スタンツェとゴッセは小さく溜息をつき、アドソンはそんな二人を見ながら、お替りを要求している。
「ふむ・・・出発日だけ決まっているんですね?そして、メッツェン様が国を出れば良いんですね?」
「あぁ、そのようだ」
「では、明日出発して、メッツェン様が婚約するに当たって、この国を離れがたいから各地で散財すると噂を流して、東の国に向かいましょう。そうすれば気分で行き先が変更出来て、地方の皆さんはメッツェン様を拝めますし、買い物すれば準備が出来ますし、国のお金を使いこめます。え?婚約までの経費は親か国持ちが普通ですよね?」
にっこりと笑うサクラに、ウィスカーが笑いをこらえながらツッコミを入れる。
「サクラちゃんって時々怖いことを考えるよねっ」
「うふふ。冷遇されることは慣れていますので、一つの窓口からどれだけこちらに利益を奪い取れるかに注力しています」
「サクラは本当に面白いやつだなっ」
「サクラがたまに怖い・・・」
食事を終えると研究がしたそうなスタンツェは、ソワソワしだした。
アドソン曰く、見張ってないと食事を抜くからと連れて来たそうだ。
サクラはその理由に加えて、メッツェンからゴッセに戻ることをスタンツェに知らせたかったのだろうと考える。
サクラは今までで一番多量となった食器を片付ける。
執務室に戻ると、スタンツェが書類を見ながら、ゴッセがどこかに手紙を書き、ウィスカーがスタンツェの代わりにどこかへ運んでいく。
『メッツェン様』の婚約でこのお城を無人にするため、雇用継続の者も退職希望の者も手続きを踏まないといけないらしい。
「あいつ(王子)に明日出ていけと言われたから、後のことはきっちりやれ。宜しくって書いた」
テヘペロするゴッセは幼く見えるが、王女でなければならない緊張感から解放されたからだろうとサクラは判断する。
スタンツェがホーマンの所から戻り、渡されたカードと手紙を読んだゴッセは笑いだす。
「さっき、あいつ(王子)に道中のお金は全部城に回すから払っておけって言っておいたんだけど、このカードは魔術が埋め込まれていて国庫から金が直接取り出せるんだそうだ」
「えっ?なぜホーマンさんがそんなカードを持ってるんですか?」
「さぁ・・・昔に何かあったんじゃないかな・・・」
「それなら、しっかり生活の準備を重ねながら、東の国に向かいましょうね」
一見すれば笑顔だけれど、切なさが残るような表情をしたゴッセに、サクラは気づいたが見なかったことにした。
言えない優しさも一緒に受け止めるサクラです。
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