報告-15の月、14日、4枚目
具体的に話を詰める
紅茶を飲みほしたスタンツェは書類に記入をしながら、皆に確認をする。
「では・・・予定通りメッツェン様とサクラを入れ替えましょうか。東の国ではサクラが王女として振る舞うことになるので、そこに妖精と魔物がいても王族でない者だと疑うことはないと思われます」
「・・・サクラはどう考えるかしら?」
「・・・スタンツェさんの提案は、私とペアンくん、ウィスカーさんの関係性はこのまま維持して、私とメッツェン様の関係を入れ替えるという話ですよね。皆さんが動きやすいのであれば、問題はないのですが、メッツェン様と私の見た目の問題が残りますかね?」
「そこはスタンツェが魔術で誤魔化すわ」
「おぉ、さすがスタンツェさん」
サクラは絵画の美術の汎用性の高さに感心する。
話を静かに聞いていたペアンがサクラを引き寄せる。
「我もそのくらい可能だ。ほら」
「は?」
「サクラ、鏡を見てっ」
目を見開いたスタンツェにサクラが驚く。
メッツェンが執務室にある鏡台を寄せる。
「わぁ・・・メッツェン様です!」
サクラはソファから立ち上がり、鏡をまじまじと覗き込む。
褒めたたえる言葉に、ペアンの機嫌が急上昇する。
「初日は容姿を変えながら、記憶に残りづらいようにして、認識を障害する。ゆっくりとサクラ本来の姿をメッツェンだと認識するようにしていくことも、我ならば出来るぞ」
「ペアンくん、凄いですね!わぁーなんでも出来るんですねぇ」
ペアンはとうとうドヤ顔になり、サクラはさらに誉めている。
離れたところでやりとりを見ていたアドソンはカップの中に小さく呟く。
「協力的な魔物って、面白いなー。人外者と契約出来れば、国の王になれるだけのことはある」
こっそりと聞き取ったスタンツェは小さく頷く。
姿かたちを似せることが可能となり、メッツェンは次の話を進める。
「では、東の国では入国した時点からサクラにあたくしの姿を取ってもらうわ」
「はい。えっと・・・見た目は良いとして、話し方・声はどうしましょう。癖までを完璧にするのは難しいかと思います」
「我が・・・」
「ペアンくん、『待て』です。人間たちで検討してからにしてください」
話に割り込もうとしたペアンを、片手を上げてサクラが制する。
「・・・分かった」
憮然とするペアンを席に戻ったサクラは、頭を撫でて落ち着かせる。
「なぁー、魔物に待て出来るのってサクラくらいだろっ」
「サクラちゃんじゃなくて、他のヤツらだったら人間を八つ裂きにしてるねっ」
「えっと・・・その問題は、後日スタンツェと検討するわ。ちなみに聞いても良いかしら?サクラのいた世界では、そういう事は可能だったの?」
「例えば用意された文章を読み上げるのであれば、声を機械に残して後から聞かせるという技術がありました。他にも、とても離れたところに声を届ける技術がありました。機器を使わずに、生身の人間同士という条件では無理ですね」
「声を残す・・・声を届ける・・・」
スタンツェが顎に指を添えて俯き、数度瞬く。
「えぇ、通信という技術なのですが、文字や絵を即座に遠い相手に届けることも出来ました。そうですね・・・例えばこのノートに私が書いた文章を、皆さんそれぞれが持つノートにそのまま映し出すという技術もありましたよ」
「絵を共有して、相手に届ける・・・」
「のぅ・・・サクラ、我の魔術ならすぐに可能だぞ」
会話に割り込みたいペアンが胸を張って、サクラに宣言をする。
表情をわざとらしいほどに明るくしたサクラが、返答する。
「そうしたらペアンくんがメッツェン様たちに教えてくださるのですか?わぁ嬉しいです!」
「えっ」
目を瞬くペアンと、面白そうに片眉を上げるスタンツェ。
「・・・この流れでそっちに持っていくのか」
「当たり前ですよ。技術は閉じ込めておいては発展しません。何か問題が起きた時に、その人しか分からない技術があるのは大変危険です」
「サクラ、たとえそうだからと言って・・・」
「では、ペアンくんは魔術を使えると言わないでくださいな。人間は便利なものに弱いので、知っている知識であれば教えて欲しいものなのですよ」
ペアンの鼻先に指を向け、サクラは胸を張って人間の業を言い切る。
あまりの潔さにウィスカーの肩が震えている。
「・・・あい、分かった。では、スタンツェに開発を任せる。もしも東の国での王への謁見前日までに成しえなければ、我がサクラについての全てを預かる」
「・・・承知しました。メッツェン様、寝る時間はなさそうなので、あとの手筈は任せていいですか?」
人外者への礼儀を通したスタンツェが、メッツェンに退室を提案する。
逡巡するメッツェンにアドソンが代わりに返答する。
「スタンツェ、頑張れよー」
風のように優雅に、即座に、スタンツェはいなくなった。
数杯目のミルクティを堪能したウィスカーは、サクラに話掛ける。
「サクラちゃん、お夕飯はどうするっ?」
「そうですね・・・メッツェン様と入れ替わるなら、テーブルマナーとかも覚えないとならないですよね。メッツェン様、ご一緒してもいいでしょうか?」
「え?えぇ、そうね・・・そっかぁ、王妃教育も必要なのね・・・」
「えぇ、東の国では基本的に部屋に引き籠っているとは思うのですが、用事が出来れば、ずっと引き籠っているという訳に行かないのでしょう?」
「そうなのよね。モースが叩き込んでくれた礼儀作法で、ある程度は賄えるけれど、王族の気品が必要な場面もあるわ」
メッツェンは下を向いて思考を巡らせている。
「では、メッツェン様が考えているうちに、食事を運んでおきますね」
「サクラ、俺の分も―」
「はい。スタンツェさんの分は、後で持っていきますね」
ソファから立ち上がると、ペアンがサクラの袖を引く。
「サクラの料理・・・」
「今日のお夕飯は厨房のものですよ?私たちと同じ食事が必要なら、ペアンくんにも後でお裾分けしますね。・・・えっと、人型のときは甘えん坊さんなんですか?」
「はっ、そんなことはない。では戻る。・・・ニャン」
甘えていると思われるのが恥ずかしいのかペアンは即座に猫型に戻る。
「わぁ見慣れた格好いいペアンくんです。素敵な毛並みの猫様ですね。では一緒に厨房に料理を取りに行きましょう」
「ニャーン」
「本当にその扱いで良いんだな・・・」
一連のやり取りを眺めていたアドソンが苦笑する。
「そのようです。あ、メッツェン様、『そういうこと』になりますので、騎士服にお着替えしても大丈夫ですからね」
「・・・えっ?・・・えぇ・・・・ありがとう?」
「では、一旦失礼します」
いつもの笑顔のサクラはウィスカーとペアンと共に、執務室を後にした。
仕事中毒の人に仕事という劇物を与えてはいけません。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
連日23時アップ予定えす。




