報告-14の月、18日、1枚目
知識ある者
先日お願いしていた薬草についての相談は、メッツェンの許可が出て、ホーマンと共に医魔術師の元に向かう。
スタンツェが師団長を担っている魔術師の集団の一つ、医魔術師が所属している部署で、サクラと話が出来る者を選出しているそうだ。
医魔術・薬草の知識を持ちながら、サクラの突拍子もない発想をひとまず受け付けられる柔軟な発想の持ち主という人物はあまりいないだろうからと、スタンツェは嘆いていた。
「サクラはメッツェン様の元で様々な学びを受けていますが、次は医魔術ですか?」
「はい。医魔術師の皆様の知識と技術を知ることで、先日の災害派遣での疑問を解決できるのではないかと考えました。あとは、魔力自体が少ないので、増やせる方法はあるかを聞きたいのです。こっそり」
こっそりと聞きたいことも付け足したサクラに、ホーマンは眉をあげ、微笑む
「それは彼らの基本の部分ですので、ぜひ苦労を聞いてあげてください。きっとサクラも驚くことでしょう」
「楽しみにしています」
元いた世界のファンタジー設定では、限界まで魔力を使い、ポーションで回復することを繰り返すと魔力の器が大きくなるというのが通説だった。
魔力を溜めて置く器官があれば見てみたいし、神経やリンパのように体の中を巡る回路があるならば興味深い。
気孔のようなものでも受け入れられるため、魔術のある世界はサクラにとって奥深い世界だ。
黒檀のような重厚な扉をホーマンがノックし、入室する。
意外にも長い廊下と何枚もの扉が見えるだけだった。
首を傾げるサクラに、突き当りの扉からスタンツェが顔をだす。
「クラ、こっちだ」
「スタンツェさん・・・遠いですね」
「えぇ、確かに」
珍しくペアンが足元に降りて先に歩き出したため、ホーマンと共に歩みを進める。
廊下に並ぶ扉はやや赤みがあり、スタンツェのいる扉は黒だった。
「ここが俺の研究室の前室だ。医魔術師と治癒士を呼んでいる」
「クラ様、お久しぶりです」
「初めまして、治癒士を勤めております」
「本日はよろしくお願いします」
先に挨拶をした医魔術師は災害派遣で見かけたことがある。
急を要する患者がいないことで、カルテ作成の相談後、早々に王女宮に戻って貰ったのだった。
治癒士と呼ばれる女性は普段はポーション作りを任されており、災害派遣には同行していなかった。
向かい合わせのソファにサクラの隣はスタンツェ、もう一つのソファに医魔術師、治癒士が座る。
紅茶を淹れてくれたホーマンはサクラの斜め後ろに控えている。
サクラからイスイ村で見かけて採取してきた薬草と思われる植物を提出する。
ポーション作りや民間療法レベルでも良いので、住民の健康に繋がる知識を知りたいと考えた。
治癒士は一つ一つ観察している。
その間に医魔術師に持参した本の知識を確認する。
「魔力が枯渇すると意識を失うと聞きました。命に関わることはあるのでしょうか?」
「魔力を限界まで使った場合に、意識を失わないと体力を魔力に変換しようとするようです。元々少ない体力を魔力に変換すれば命に関わるでしょう。幼い頃に、魔術が暴発したときに危険だという理由の一つですね」
「なるほど」
「それと舞踏と歌の魔術には、魔力との相性がありますが、限界まで魔力を使ったときにしか扱えない術があるようです。状況が状況ですので、文献にもあまり残っていませんが、大きな魔獣も倒せるような術のようです」
「イチゲキヒッサツ・・・あ」
「クラ・・・どうした?」
「いえ・・・アドソンさんに以前似たような話を聞いたことがありました。それがその術なのかと考えました」
「舞踏の魔術で風の魔力ですか・・・そうですね、最近の記録ではアドソン様の父上が使用されたと残っています」
「それは・・・最期の討伐の記録ですか?」
スタンツェは目を見開く。
アドソンはいつも軽いノリで過ごしているが、軽薄な性格ではない。
これまでも家族のことを軽く話すことはなかったのだろう。
スタンツェはアドソンがサクラに話したことを驚いているようだ。
「知っていたのか」
「偶然聞かせてくださっただけですので、詳しくは・・・」
「まぁアドソンが話したなら良い。滅多に使う術ではないし、使える状況に陥らないことが優先される」
「はい、そのために私も頑張れとアドソンさんから励まされました」
「あぁ、それでいい」
薬草を調べていた治癒士が顔を上げる。
「あの・・・クラ様、薬草についてお話します」
「あっ、お願いします」
「ここにある二十種類のうち、ポーションに使用できるものは五種類で、品質は良いものです。貴重な素材ではないにせよ、生産量が安定しているならば使いたいですね。次に三種類はハイポーションに使うものです。こちらは入手が困難ですので、専有したいくらいです。素晴らしい!続いて十種類は民間で虫下しや解熱、保温などに使われる一般的なものです。最後の二種は毒です」
「・・・毒の二種をお聞かせください」
「一つは摂取すると心臓が止まります。一つは摂取すると眠りに落ち、量によっては呼吸が止まります」
「なるほど、それなら想定内ですね」
「クラ?」
「あっ、いえ、薬草の本を見ながら採取したので、間違っていなくて安心しただけです。不用意な毒の持ち込みは王女宮にとって危険なのは理解しています」
「・・・まぁそういうことなら・・・治癒士として扱うのは八種類、薬草について知識があるものが扱えるのは十種類です。医魔術師は毒草の二種類とポーション用の八種類を扱います」
「では、魔力はないに等しいのですが、私が教えを乞うとしたら十種類は可能ですか?」
「そうなりますね」
「沢山の収穫がありました!」
「それならば良かったです」
笑顔のサクラは追加の質問を重ね、会話が途切れたところでスタンツェがまとめる。
「では、そろそろ終わりで良いか?また機会は調整する」
「はい、皆さまありがとうございました」
「では、我々は仕事に戻ります」
仕事に戻る医魔術師、治癒士と共に、サクラとホーマンはスタンツェの研究室を退室する。
「ホーマンさん、この宮ではどの立場の使用人でも医魔術師や治癒士に見て貰えるのですか?」
「えぇ、怪我や病の程度によりますが、医務室がありますので、そこで見て貰えます」
「体調が悪いと申告してから受診するのですね」
「えぇ」
頷きながら歩くホーマンの横顔を見ながら、サクラはこの国の前提を確認する。
「医魔術師や治癒士に見て貰えるのは宮に勤める者だけで、一般の方は気軽に医魔術師に受診することは出来ないのですよね」
「住民は治癒の魔術が使えるものに個人的に依頼していますが、その地域の貴族に召し抱えられている者も多いので、民間療法や自力で治す者が多いですよ。嘆願書にも医魔術師の派遣を挙げる地域があります」
「・・・そもそも医魔術師と治癒士の違いって、魔術の違いですか?」
「専門性の違いでしょうか、医魔術師は中央区にある『円卓の魔術師』の中で学んだ者が名乗ることを許されます。招待され審査に合格した者だけが入れる研究所ですので、西の国においても多くはありません。部門違いでスタンツェ様は円卓の魔術師で学びましたが、そちらの話はスタンツェ様本人に」
「はい」
「治癒士は治癒の魔術を使える者か、料理の魔術を扱える者になります。自分の治癒の魔術をポーションに込めるか、料理の魔術を扱い薬草をポーションとするかの違いです」
各魔術の中に、魔力の属性によって治癒の魔術を扱える者がいるとは知っている。
料理の魔術を扱える中で、土の魔力を持つ者は特に強い治癒力があるため、医魔術師ほどではないが、治癒士も重宝されるのだろう。
医食同源の考え方で言えば漢方と薬膳という感じになるのだろうと、サクラは理解する。
「なるほど・・・料理長のミクスターさんや菓子職人のミテルさんは、緊急時には治癒士のお手伝いが出来るのですね」
「・・・彼らがやってくれるかどうかは別ですがね。料理の魔術は魔力を込めることによって、機能回復や活力増強などの効果がありますので、その応用がポーションということになるでしょう」
「なんとなく繋がりました。基本的すぎて、お二人に聞くのは止めたのですが、これでスッキリしました!」
微笑むサクラはつい立ち止まってしまう。
歩調を合わせていたホーマンも立ち止まり、微笑む。
「それは良い事です。サクラはポーションを作りたいのですか?」
「いえ、ポーションよりは治療を受けられない方が、どうすれば健康になれるかを考えたいです」
「ふむ」
「ひとまず、メッツェン様にイスイ村の薬草は良質だということを報告してきますね」
イスイ村で発見した薬草から、多くの人に医療やセルフケアの選択肢が増えることをサクラは願う。
それは運営の仕方によって悪用されてしまうこともあるだろうけれど、まずはイスイ村の経済を救う一つの方法だとも考えている。
サクラの考えに頷くホーマン。
「メッツェン様への報告が終わりましたら、すぐに計画書を提出するように。出来る限り長期的に何をどのくらいの規模で考えているのかを、具に報告してください」
笑顔で圧を掛けてくるホーマンに、サクラはスタンツェの執事業の師匠はホーマンだったなと苦笑するのだった。
実践の知は経験知、緻密な計画を立てる冷静さと実行していく情熱のバランスが必要。
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