報告-14の月、17日、マチュー
プライドと自信は違うもの
いつも通り店で接客をしていた。
急に亡くなった父の小さな仕立て屋を何とか姉妹で維持してきた。
高級なドレスを仕立てる職人になりたかったけど、私の身分では下請けの下請けが精一杯。
だから、こうやって平民でも購入出来る、ちょっと良い日に着たい服を作ってきたのよ。
それが現在まで頑張った結果なのか、王女宮からのご招待状を受け取ってしまった。
届けに来てくれた方は高級な布地に素敵な装飾品、高級な革靴を履いていて、それだけでも緊張してしまったのに、招待状だなんて・・・。
気を失いそうになるのを妹のヘガールと励ましあって、手紙の中身を読んだ。
「・・・ありえない・・・私たちにこんなチャンスが?」
「お城の方々の制服を作るなんて、姉さん凄いわ。でも・・・なんで私も一緒に?」
「ヘガールがいてくれなきゃ、私一人でなんていけないっ!」
王女宮で新しい制服を仕立てることになったけれど、あくまで制服なので王都の職人に広く声を掛けていると書いてあった。
担当官が面接をするので、明日お昼前のお茶の時間に城に来るようにとのことだったわけで。
それからはもう、二人でてんやわんやと準備をして、王女宮に来た。
正直緊張で眠れていないし、食事も喉を通っていない。
でも、私のデザインや仕立てを見て頂けるのであれば、王女宮で使われている制服の技術を見られるのであれば、職人として誇らしいことだと奮い立たせる。
門番の方に声を掛けるのですら怖いけれど、すんなり通して頂ける。
大きな鞄を持っていたから、持ってもらえた。優しくて泣きそう。
入口の前で荷物の検査を受けて、入城する。緊張で吐きそう。
目の前に現れたのはお客さんとして来てくれた、クラさんだった。
クラさんの職場は王女宮で、面接官を任されるくらいの地位にいる方と知り、体が震えた。
待って、何も食べてないけど吐きそう。
「ほ・・・本日はお招きいただきまして・・・まっ、誠にっ、ありがとうございましゅっ」
「ねっ、姉さん・・・あ、お姉さま」
「二人とも緊張しないでください。仕事を黙っていたわけではないのですが、今日は私が担当ですので」
「い・・・今までの数々のご無礼を・・・」
「マチューさん、今は仕事の時間です。私は職人さんと仕事の話をしたいのです」
片手を上げて制したクラさんは、まっすぐに私を見つめて、穏やかな笑顔で話してくれた。
その言葉に、私がここに来た理由を思い出す。
「あ・・・・はい。・・・取り乱してしまい、申し訳ございません。ご希望の服装を必ずや仕立てて見せます」
「はい。まずは制服の条件をいくつか出しますので、そこからデザインを起こしてください。それと一緒にヘガールさんも肌着のデザインをお願いします」
「え・・・?肌着もでしょうか?制服の注文ですよね?」
「はい、少し特殊な下着を作ってもらいたいのです」
「・・・はい。ご希望に必ず応えて見せます」
「よろしくお願いします」
ヘガールも表情が引き締まった。
他に優れた仕立て屋はいるけれど、私たちの全力でこのチャンスをつかみたい。
クラ様は緊張せずに仕事に集中して欲しいと言ってくださる。
私には、大きなスカートに見えるズボンと、きっちりとしているが肩回りが動きやすい上着を注文された。
妹のヘガールにはコルセットの代わりとなるような肌着を提案してくれた。
原案のデザインを二人で見せて、クラ様に了承を頂く。
7日後までにサンプルの品を仕立てて、城に手紙を送ればいつでも面接してくださるとのことだった。
王女宮に滞在している間、クラ様は飲み物ばかりか軽食を用意してくれていて、お土産のお菓子まで用意してくれていた。
もし生地の相談や実際誰かに試作品を使ってもらいたいなどがあれば、いつでも城に来てもらっても良いとも話してくださった。
様々な体型の使用人がおり、実際どのように働いているかを見たほうが工夫がしやすいだろうということだったけれど、これほど仕立て屋を理解してくださっている人は貴族にもあまりいらっしゃらないので、感動を覚える。
ただ、平民が毎日城に出掛けるなどということは、様々な兼ね合いにより難しいと伝えてみた。
「・・・そうなんですね。では対応を考えます。あぁ、ちなみに相談出来る者は必要ですか?」
「えっ、あっ、はい。出来ればこのお城の制服を見せて頂きたいですし、実際に着ていただいて感想を聞かせて頂けると嬉しいです」
「分かりました。少しお時間をくださいね。ウィスカーさん、侍女長のモースさんと、洗濯担当のクーリーさんに連絡を入れてください」
「畏まりました」
クラ様がメイドさんに声を掛けると、颯爽と部屋を出て行った。
あのような美しい方に仕立てた制服を着ていただけたなら、仕立て屋冥利に尽きます。
さほど待たずに、きりっとした眼鏡をかけたベテランの女性と、フワフワとした水色の髪を帽子で押さえたメイドさんが入ってきた。
「お待たせいたしました」
「モースさん、クーリーさん、こちらは新しい制服のデザイナーさんです。城の今ある制服と新しいデザインを検討したいので、一揃えの制服を貸し出したいのですが良いですか?」
「はい。よろしくお願いします。・・・後ほどお持ち致します」
「ありがとうございます。新しいデザインの候補はこちらになりますが、今の段階で気になる点はありますか?」
モースさん、クーリーさんが、デザイン画を覗き込む。
否定されたらどうしようかと一気に緊張する。
モースさんが眼鏡を直す。
「・・・こちらのスカートはズボンなのですか?・・・あの大丈夫でしょうか?」
「仕事としての服装なので、ドレスではなくていいと思います。ワンピースのように見えるズボンなら許されませんか?」
「・・・クラ様、私どもには斬新で想像が及ばないのですが、似たような服装をご覧になったことはございますか?」
「あぁ、持っていますよ。自分で作ったものですが」
ちょっと恥ずかしそうに話すクラ様に、私とヘガール、そしてクーリーさんの声が被る。
「「「ご自分で服を作られたことがあるのですか?」」」
「えぇ、時間は掛かりますが、刺繍よりも縫物の方が得意なのですよ。ウィスカーさん、私のお部屋から深緑色のズボンを持って来てもらって良いですか?」
「すでに準備してあります。どうぞ」
「わぁ、流石の仕事の早さですねぇ。ではちょっと失礼しますね」
腰に手を当てるクラ様に、ヘガールが声を掛ける。
「クラ様っ、ここでお着替えはおやめくださいっ!」
他の方が目を見開いて動きが止まるが、淑女が仕事の場でスカートを勢いよく脱ぐなど、止めなければならない。
クラ様、本当に潔い・・・。
「えっ、そのためのズボンですよ?ほら、スカートの上から履きましたが、このように足を大きく広げても大丈夫です」
「確かに足を閉じて立てばスカートに見えますが・・・少々丈が短い気が致します」
「それなら、実際はもう少し丈は長くて良いです。それと革靴ではなく、足首までのブーツと靴下にデザインを変えましょうか。ブーツなので踵は低くて良いです」
クラ様以外の全員が首を傾げる。
「ブーツに変える意図は?」
「お茶会の訓練の時に、慌てたメイドさんたちの靴が脱げていました。あれでは割れたコップなどを踏んだら怪我をします」
「・・・分かりました。まずは制服だけ試作品を見てみましょう」
「クーリーさんは洗濯や乾燥のことを聞いてもいいでしょうか?どう思いますか?」
「クラ様の生地は柔らかくて乾きやすいと思います。風で持ち上がってしまいませんか?」
「うーん、ズボンなので股下の部分の処理で変わるかと思います」
「なるほど、では、あたしも試作品を見せて頂ければ、洗濯部で検討致します」
「ありがとうございます」
にっこりと微笑むクラ様はモースさん、クーリーさんに話し始める。
「急なことで申し訳ありませんが、今日から三日目、五日目にモースさんとクーリーさんのどちらかに、お店の訪問をお願いします」
「はい、調整致します」
クラ様は私たちの方に向きを変える。
「マチューさんとヘガールさんは、三日目、五日目に訪問した者に、進捗を見せてください。七日目に試作品として一応の完成品を城に持ってきてください。馬車で迎えに参ります」
「はいっ」
「畏まりましたっ」
意見を聞けたら嬉しいと言ったけれど、平民の店に王女宮の使用人の方々がいらっしゃるなんて、緊張するけれど、クラ様はあくまで職人として私に注文したいと言ってくれた。
その期待に応えるためにも頑張ると、ヘガールと頷きあう。
「・・・ありえないでしょ」
王女宮から出る馬車の中に制服と布地が一式詰まれており、あまりの高級素材に気が遠くなるマチューを、ヘガールが支えるまであと三十分。
それでも認められることは嬉しいもの
ここまで読んでくださり、ありがとうございます
連日23時のアップ予定です




