報告-14の月、16日、1枚目
報奨金
イスイ村の安定した生活とこれからの安寧を願い、サクラ達は全員が王女宮に戻ってきた。
今後の支援の見通しが立ち、故人を弔い、出発したかったが、サクラの負傷により一日延期した帰還となった。
祠の奥の間はそのまま封鎖として、元々住民が使っていた墓地の機能は使用継続となったそうだ。
安全性の確認で、スタンツェたち魔術師が定期的に監査に行くことになった。
王女宮ではいつも通りの顔ぶれにいつも通りの食事、馴染みのある音に見慣れてしまった風景。
いつから馴染みのあるものとして認識し、その機能が一時でも失われたことを惜しむようになったのだろうと、サクラは嬉しくなる。
サクラと共に帰還したモースは、サクラが負傷したことの心労で倒れたため、明日まで休暇を貰っている。
今後のイスイ村への支援はホーマンが行うと報告を受け、午前中の授業で意見交換をした。
いよいよ日常が戻ってきたことを感じる。
午後にはメッツェンの執務室での業務に当たる。
「ねぇ、サクラ。あたくしは国からの派遣の慰労金を、『特例』で、城の者たちに配ろうと思います」
「え?今までは配っていなかったのですか?」
「サクラ、訂正しますが、今まで王女宮への災害派遣の依頼はありませんでした。今回は失敗することを前提に仕組まれた派遣です。そして、結果を残したのよ」
執務机に座り、右手の人差し指を左右に振りながらメッツェンはサクラに説明する。
サクラは紅茶を淹れながら話を聞いている。
「なるほど、国としては結果が残ってしまったので、王女宮に慰労金を支払うしかないのですね」
「えぇ、本当なら、あたくしに損害を与え、イスイ村への慰謝料として王子が横領したかったのでしょうね。王子や上級貴族などでは必要経費の支払い以外は、そのまま懐に入ることが当たり前です」
「なるほど、災害派遣への慰労金を貰って、臣下に配ろうというメッツェン様の考えが斬新なんですね」
小さく頷きながら、口角があがるメッツェンに、サクラも笑顔になる。
元いた世界での社会の仕組みと、この世界での仕組みは違うが、メッツェンに新しい発想の選択肢が増えたのは良い事だと思った。
「サクラのいた国ではどうしていたの?」
「社会制度の話をすると面倒なので、飛ばしますが、理想論で言えばそのお金は地域の復興と関わりのある住方々への還元に使われます」
「今回で言えば村の存続と産業の確保、住宅再建よね。そこは目処が立っているわ。・・・そこで、関りがあるということで言えば、城の者は含まれると考えたのよ」
「はい。それと物資を手配してくださったり、大工さんたちのように実際労働した方々も関係者になりますね。還元という意味ですと・・・あの領主さんがしっかりしてくれればという条件は付きますが、王都の人々に観光に行って買い物や食事をしてもらうことも含まれるかと。ただ、これは一時的な流行ではなく、継続的な産業になるかどうかが難しいところです」
「サクラっておもしれーな。そんなことも考えているのか」
メッツェンの執務室の奥で昼寝をしていたアドソンが、体を起こして話に加わる。
これから訓練に行くそうだ。
「災害が多い国でしたから、復興とはなんだろうと考えたことがあります。支援として適切に使われるなら現金が一番ですね。その用途の適切さが難しいわけですが」
「えぇ、そこはまた落ち着くころまでに検討するわ。今は城の者たちへの報酬を考えているの、賃上げと贈り物を考えているのだけれど、サクラは何が欲しいかしら?」
サクラは首を傾げて考える。
昔の人生でサプライズプレゼントに良い思い出が全くないのだ。
喜んでいただける物で、使える物でないと、気持ちの押し付けになるだろう。
「贈り物は選択肢を与えますか?それとも、決まった品を贈りますか?」
「そうねぇ・・・人数が多いから、出来れば決まった品を贈りたいわ」
「それでしたら、私は新しい制服が欲しいです」
「制服?今着用している制服?」
メッツェンとアドソンは首を傾げる。
「はい。一緒に派遣された侍女さんや騎士さんたちは当時の服をまた使っていると思います。この服は肉体労働には向かないですし、騎士さんたちは訓練服ではなく窮屈な服で労働されていました。新調してもっと動きやすいものにしても良いのではないかなと」
「なるほど、アドソンのように破けた者もいますからね」
「私も落盤の時にボロボロになりましたから」
サクラの件はペアンが何も語らないため、偶然の落盤事故として、たまたま好奇心旺盛なサクラが巻き込まれたとされた。
落盤が起きた箇所は魔術師それぞれが仕事をこなし、壁の奥に封印した。
祠本来の部分に損傷がなかったため、今後もイスイ村の者たちは祭壇、墓地を使用することが出来る。
「・・・・サクラ・・・」
自分の身に起きた不幸な事故も、使用人たちの服の数が減ってしまった理由の一つとして、サクラは挙げた。
メッツェンの不満そうな顔は受け流し、微笑む。
「それで新しい制服にするとしたら、デザインは貴方がやるの?」
「デザインしても良いですが・・・私の画力を理解して、服に仕立て上げることが出来る職人さんはいらっしゃいますか?」
「・・・いるかしら?」
「・・・いると思いますが、少し調査致します」
やりとりをそっと眺めて、小さく溜息をついたスタンツェは、眼鏡をかけ直した。
「おもしろそーだなー。サクラ、騎士服もデザインするか?」
「チュウニビョウが爆発しそうですね」
「チュウニ?」
「いえ、相談相手がいてくだされば、挑戦してみますよ」
「おー。スタンツェ、よろしくなー」
「・・・あぁ分かった。それならローブも任せよう」
楽しそうにスタンツェの仕事を増やすアドソン。
小さく溜息をつくスタンツェも、口角を挙げた。
「そうしたら、ホーマンさんにまずは相談してきますね」
「え?本当に制服で良いの?」
「制服で良いかをまず聞いてきますよ。褒章が異例のことであれば、猶更皆さんに喜んでもらえるものが良いので」
「まぁ、そうね」
「メッツェン様が直接聞くと言いづらいかもしれないので、代わりに聞いてきます」
「分かったわ。サクラに任せます」
そういって離れたサクラ。
ホーマンは制服に関して同意し、加えて王都のいくつかの店に品物を交換してくれるチケットをつけてみるのも良いとアドバイスしてくれた。
王女宮で働く者たちに、自身の店の商品を渡すとなれば、食いつく商人は多く、メッツェンの評判はあがるだろうとの見込みだ。
「戻りました。頂けるものはなんでも嬉しいそうなので、制服とちょっとした選べるプレゼントでいかがでしょう?」
「そう、ホーマンも面白いことを考えるわね」
サクラが一通りの説明を終えると、メッツェンは微笑む。
なお店の選定は王都を知り尽くしているゴッセに指示をだすことになる。
執務室に戻って来たスタンツェは、数枚の書類をメッツェンに見せる。
「ドレス職人ではサクラの考えを理解できないかもしれないとのことで、若手の職人を挙げました。材料は城から渡すようにすれば品位は保たれるのではないかと考えます」
「そうね。サクラ、あくまで王女宮に勤める者としての品位を落とさず、動きやすいものを考えて頂戴ね。職人はこの紙に書いてあるとおりだけど・・・あら」
「どうされました?」
「サクラ、以前視察で行った服のオーナーはマチューで良かったかしら?」
「はい、マチューさんとヘガールさんのお店ですよね?」
「王都と限定して職人を探しているから、平民だけれど彼女の名前が載っているわ」
「ふむ・・・では、一度彼女と面接をさせてください。能力と意気込みがあれば、お願いしたいです。もちろん能力がないのであれば、採用は致しません。一次面接を私が、二次面接をスタンツェさんが、最終面接をメッツェン様が行うのはいかがですか?」
サクラの提案にメッツェンとスタンツェは頷く。
「えぇ、サクラがそこを分かっていれば良いわ。では明日、面接をしましょう。スタンツェ、招待状を送って」
「あ、きっと緊張すると思うので、妹さんもご一緒に来てもらってください」
「そのように」
サクラは以前、モースからメッツェンが着なくなったドレスや、王女宮から廃棄予定となる衣類は、平民に下げ渡されると聞いていた。
今回制服を新調出来るのであれば、多くの衣類が廃棄となる。
その種類によって行き先は違うそうだが、孤児院の子供たちが高級な素材や精密な刺繍、装飾を学ぶことで、将来裁縫や装飾などの道を目指すきっかけにもなる。
騎士服を見て騎士や傭兵に憧れる者もいるだろうし、なによりしっかりした造りの服を着ることはそれだけでも生活の質が上がるだろうと考えられる。
「近いうちに孤児院などに視察に行っても良いか、聞いてみますかね」
ペアンを撫でながら、ウィスカーと微笑みあう。
イスイ村での平民の生活を学び、王女宮で相談役としての知識を増やすためにサクラは、色々な場所に行ってみたいと考えるようになった。
元気になったサクラは皆の笑顔が欲しいのです。
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