報告-14の月、15日、アドソン
零れ落ちる言葉
イスイ村での騒動があり、サクラの体調を見ながら王女宮に戻った。
任務を終えた者たちへの休日として、俺も休みを貰っている。
なんとなくサクラが気になって、部屋を訪れる。
あ、見舞いの品とか持ってきた方が良かったんだろうか。
そう思ったときには返事があって、扉が開く。
「アドソンさん、おはようございます」
「おはよー。体調はどうかと思って来てみたんだ」
「ありがとうございます。傷もさっぱり治していただいて、お腹が空いているくらいです」
「そっか。じゃぁ一緒に食堂に行くかー」
二人と使い魔と食堂に向かう。
どうやら先にスタンツェが診察していたらしく、宮の中を歩く分には許可が下りたらしい。
医魔術を受けているが、心配性の魔術師は自分で確認したかったんだろうと、小さく笑う。
「今日はこれからどうするんだ?」
「イスイ村で頂いたお土産を仕分けして、宮の医魔術さんたちから薬草について学ぼうと思っています」
「・・・あーそれ、メッツェンは知ってる?」
「・・・話してないですね」
「仕事だと言うかもしれないから、話してからが良いと思う。医魔術師たちの都合もあるしなー」
「そうですね。食べ終わったら、伺ってみます。そしたら・・・今回の災害派遣に関わってくださった方に話を聞こうと思います」
「待った、待った。サクラ、それ仕事だよー」
「あ・・・」
籠に収まっている朝食を受け取り、椅子に座る。
食事に手を付ける前に、サクラは悩みだす。
元いた世界でもスタンツェ並みに仕事中毒だったらしいから、きっとこういう所なんだろうと感じる。
「そしたら、俺の訓練でも見学する?日課の一人でやる分だけね」
「良いんですか?イスイ村で騎士の皆さんが訓練していて、格好良かったんですよ!」
「その言葉は後で本人たちに言ってやって」
急いで食べ始めたサクラを宥めながら、朝食を終える。
身支度を整えて、裏庭でサクラと使い魔に見学してもらう。
「といってもなー、地味な訓練だぞ?」
「それが良いんですよ。一朝一夕には身につかない動きって憧れます」
「まぁ確かにそれはあるな」
騎士でもない者にとっては、訓練風景は珍しいのだろう。
イスイ村でも子供たちが楽しそうに見学していたのを思い出した。
「騎士も職人もそれぞれの身に着いた動きと、それに応じた体の変化があるので、興味深いです」
「なるほどねー。サクラはそうやって人を観察するのか」
「はい。ちなみにアドソンさんは何年くらい訓練をしているのか、聞いても良いですか?」
「あ、俺?物心ついたときには日課になってたよ」
「へ?」
「あぁ、俺の家、代々王族に仕える騎士の家柄なんだよ。剣だけじゃないけど、何かしら護衛とかの役目に関わってる家なんだ」
「なるほど」
模擬訓練用の剣を空に翳し、型の動きを始める。
剣先のブレがないか、緩急、慣れ親しんだ動きを把握しながら、サクラに話しかける。
「・・・ちなみに今は元騎士の母上が当主をしている。父上は魔獣の討伐で俺が若いときに殉職した。トドメを刺すときに魔獣も最期の力を振り絞ったらしい」
「そうでしたか・・・」
「・・・サクラはさー・・・騎士の殉職は誉だけど、帰りを待っている家族もいるだろうって、前に話してたよね」
「はい」
「俺がその家族だったんだ。騎士の登用試験の結果が届く前日に殉職の知らせが届いて、辺境から馬車に乗って冷たくなった父上が帰ってきた。試験に受かったことを伝えられたら、きっと笑ってくれたと思うんだけどね」
「そうだったんですね」
「あとね、母上の弟、俺の叔父がさ、十歳上で兄の一人くらいに思ってたんだけど、魔獣の呪いで体が蝕まれてね。結局会えないままになった」
「そうだったんですね」
誰も来ない裏庭で、軒下に座っているサクラと剣を振り回す俺の秘密の会話。
――――騎士じゃなければ長生きしてくれたかなんて、何度考えただろうな。
「うん。だからさ、サクラが騎士の討伐遠征が楽になるようにって、メッツェンの護衛任務に隙がないようにって、提案してくれるのが嬉しいんだ」
「はい」
「イスイ村でも色んな提案をしてくれて、騎士も使用人も住民も誰一人欠けなかったのは、すげーと思てる」
「はい」
「あの日、サクラが落石の向こうに閉じ込められたときに、俺、怖くて何も出来なかったんだ。・・・弱いよなー」
「いえ」
「あ、落石を壊すのとかの、その後の仕事はちゃんとしたぞ。スタンツェも使い魔に交渉して、最短距離でサクラのところに向かったんだ」
「はい」
「あの奥は普段は扉があるところなんけど、山崩れで歪んでいたらしい。侵入防止の魔術が作動したんじゃないかってスタンツェが言ってた。崩れた扉と落石の隙間にサクラは居てね。顔を見た時に死んだんじゃないかって思ったんだ」
「はい」
「でも・・・サクラが無事に戻って来てくれて、ほっとした。勝手に顔に触っちまったんだ。ごめんなー」
しばらくしっかり訓練をしていなかったから、いつもより汗が止まらない。
また鍛えないといけないと苦笑する。
「・・・なぁ、サクラ・・・なんで、お前が泣くんだよー」
「・・・アドソンさんが泣くから」
「俺のせいなのかー?サクラが先に泣いたんだろ」
いつの間にかペアンがサクラの膝の上に居て、ハンカチで顔を覆ったサクラは俺に文句を言う。
仕方がないので、隣に座って背中をさすってみる。
大きく深呼吸をしたサクラは、顔を上げて、俺の方を向く。
どうやら泣き止んだらしい。
「・・・いつも守ってくださってありがとうございます」
「俺の仕事は騎士だから、当然だろー」
「それでも色んなことに気を配ってくださって、こうやって大切なお話をしてもらえるのが、嬉しいです」
「そっか、俺もサクラがここに来てくれて、嬉しいよ」
「じゃぁ、改めまして、これからも宜しくお願いします」
「あぁ、宜しく頼むなー」
二人で笑いあう。
「よし、じゃー訓練の続きをするぞー」
「わーい、お願いします!」
体を動かして気分転換になったし、サクラが楽しそうに剣技を見ているのは最高に気分が良かった。
いつの間にか、傍にいるのが当たり前になったサクラが、ずっと笑っていられるように、これからも訓練を続けていこうと誓う。
大切な人を護る誇り高き騎士であり続けるために。
溢れだす気持ち
ここまで下さり、ありがとうございます
連日23時アップ予定です。




