報告-13の月、6日、2枚目
敬意と畏怖と恐怖
「スティーレさんとお話をしたいのですが、どちらにいらっしゃいますか?」
サクラが洗濯をしている女性に尋ねると、仮設住宅の方を指差した。
国からやって来た文官に失礼があってはいけないと、目を伏せて、指が震えながらも答えてくれたようだ。
その指をそっと両手で挟みこむ。
「ありがとうございます。昨晩は少し眠れましたか?何か不便があれば、私か近くの者に伝えてくださいね」
城から持ってきた小さな粒チョコをそっと手に握らせて、その場から離れる。
後でメイドさんたちにチョコレートを配ってもらおうと考える。
木材の処理をしている屈強な男性陣の中に、少し白髪の多い男性が立っている。
「スティーレさん、文官のクラと申します。村のことで確認に来ました。今宜しいでしょうか?」
「あぁ、クラ様、どうなさいましたか」
帽子を脱ぎ、礼をしそうになる村長を止め、会話を続ける。
「どうぞこのままで。変なことを聞きますが、この村の近くには妖精や魔物の方々はいらっしゃいますか?」
「妖精や魔物・・・おそらくいらっしゃるとは思います。この村の者たちはあまり魔力はありゃせんので、子どもたちがたまーに見かけるくらいです。それと、ここから見える森や山はある程度奥まで足を踏み入れると、手前に戻されてしまうのですわ。」
「戻される」
「はい、右の山の土砂崩れがあったところの少し上に、屋根が見えておりますね。あそこには洞窟を使った村の主様の祠がありまして、何かの力でそこまで戻されるんです。」
スティーレが指で示した先に青々とした森に黒い屋根が見える。
同化してしまいそうなのに、祠の屋根があると言われればしっかり認識することが出来る。
昨晩は遅い時間の到着であったため見えなかっただろうが、朝からも認識していなかったことに、サクラは違和感を覚える。
「山の向こうは・・・北の国に続いていますよね」
「はい。国を越えないようにという主様の御心なのか、何の魔術かは分かりません。ただ、元々悪意を持って入った者や何度教えても奥に入ろうとする不届き者は、戻ってこないことの方が多い」
「なるほど。では、例えば迷子になってしまったお子さんは、戻ってくることが多いのですね」
「えぇ、有難いことに、ほとんどの子は迷子になったあたりからの記憶は無くしますが、怪我もなく戻ってきてくれることが多いです。とはいえ、いなくなるのは人攫いの可能性もあるので、山には大人と入るように強く言い聞かせております」
人外者がいるかどうかは別として、祠には何らかの魔術が掛かっているとサクラは判断した。
昨晩の到着時から今まではサクラたちをよそ者として祠は隠されていたが、村長自身が場所を教えたことで認識できるようになったと考えられる。
「そうなんですね。村を守ってくれる存在がいらっしゃるのは安心しました。土砂崩れなどで妖精さんや魔物さんの住まいが崩れたり、ご飯がないと大変だと思ったので、確認しました」
「ごっ・・・ご飯?あぁ、ご飯・・・ご飯ですか・・・・ククク・・・ご飯ね、たしかに」
何かのツボに入ったようで、村長はひとしきり笑っていた。
クラは不思議そうに見つめるしかないが、言葉の選択を間違えたため怒っているではないかと内心不安になる。
「クラ様は妖精殿や魔物殿を身近に感じておられるのですな・・・土砂崩れの日も主様の祠にお供えをしてきたので、困ってはいらっしゃらないと思うております。騎士団の方の許可が出たら、またお供えをもっていきますぞ」
「それが良いですね。次にお供えを持っていくときは、良ければ私も連れていってください。といっても、主様に戻されてしまうかも知れませんが・・・」
「・・・もし戻されてしまっても、祠の前に辿りつきますので、大丈夫かと思いますよ」
「あ、なるほど。そうでしたね」
サクラの気づきに、また村長は笑う。
人でも人外者でも美味しいものを食べたら、笑顔になるとサクラは考えている。
今回の災害は自然災害なのか、魔術の関係なのかは計り知れないが、巻き込まれて困っている人外者がいなければ、それでいい。
「もし、主様以外の方を見かけた者がいましたら、クラ様に伝えますね」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
クラは村長と別れ、本部テントに向かって歩き出す。
王都よりも魔獣や妖精たちが身近にいる村は魔力が少ないものでも、空気感が変わることで存在を感じられるのだという。
特に子供たちは気が付いたら、妖精たちと遊んでいたということもあるようで、恐怖の対象ではなく、自然への畏怖の一つとして、人外者への配慮が含まれていると知った。
「ペアンくん、もし近くに困っている妖精さんや魔物さんがいると分かったら、私かスタンツェさんに教えてくださいね。その方々も被災者ですので」
「・・・ニャ」
「乗り気ではなさそうですが・・・拒否しないでくださって、ありがとうございます」
そっとサクラが撫でると、短く息を吐きだすペアン。
「では、アドソンさんとスタンツェさんに報告しましょう」
本部テントに戻ったサクラが、寝ぼけながらも無理やり食品を口に詰めるスタンツェを、見て驚くことになるまであと数メートル。
良く分からない者をありのままに受け止めようとする心持の違いか。
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連日23時にアップ予定です。




