報告-13の月、2日、4枚目
馬車の中の作戦会議
前の世界で、自分の運転する車以外は車酔いになる人間だった。
電車はまだ良いが、バスも苦手だった。
王都の中をゆっくりと走る馬車は、メッツェンの物であったため、かなり揺れが少なかったから、この体の人は車酔いにならないと思っていたのだけれども。
今回は災害支援を目的としているため、スピードを上げているし、王都の外の道を走っているためかなり揺れる。
クッションをもってきてみたものの、サクラは数分もしないうちに車酔いになった。
青白い顔のサクラは意を決して、スタンツェに話しかける。
スタンツェの横に座っているアドソンも心配そうに見ている。
「スタンツェさん・・・御者台に移動しても・・・良いですか?・・・・・・・・気持ち悪いです」
「おい・・・前も馬車に乗っただろう・・・?」
「先日はゆっくり走ってもらいました。・・・・前の世界は道路が平らな石で舗装されていて、馬車自体も揺れない設計でした・・・うぷ」
「おいっ、窓を開けるからそれで落ち付けっ、あと水だっ」
「・・・・水なんて飲んでも・・・あれ?これポーションですか?楽になりました・・・」
小瓶を渡され、訝しみながら飲んだサクラは少し体調が持ち直した。
目を瞬いて、小瓶とスタンツェを見比べる。
「いや・・・あ、あぁ・・・間違えて渡したようだ。ポーションで楽になったなら良い」
「馬車酔いに効くなんてポーションあったのか?」
「・・・円卓の魔術師会で試作品を作っているんだ。サクラの体に合ったんだろう」
「へー、おもしろいことやってるな」
「あぁ・・・そうだな」
「・・・ニャ」
苦虫を潰したような顔のスタンツェと、鼻で笑うペアンの視線が一瞬交差したが気づく者はいなかった。
サクラの体調が落ち着き、馬車の座面に上がるペアンにサクラは声を掛ける。
「ふぅ・・・ペアンくんもお騒がせしました。外に行かなくても大丈夫そうです」
「ニャ」
首周りに乗ろうとしたペアンを膝にとどめたサクラ。
そのままペアンは丸くなって眠る態勢に入り、サクラは書き留めておいたメモをバッグから出す。
「で、メッツェン様と何を決めたんだ?」
「基本的に何でもやって良いと言われました。計画書は丸ごと渡してしまったので後で書き直しますが、説明だけでも聞いてください」
「サクラ、参謀っぽいな。おもしれー」
「私の提案で人の命が救えるなら、いくらでも案を出しますよ。現実は甘くないでしょうけれど」
サクラはメモを見ながら、無意識に唇を噛みしめる。
この世界のことも、前の世界での災害支援の知識も中途半端であり、自信を持って進められる項目がないことが悔しい。
「・・・村がどうなっているかは情報がないな。休憩を取るときに早馬を出そう」
「どこかに宿を取ったのですか?」
「正確には国の指示で貴族の別荘を借りている。魔術師や騎士はある程度野営になれているが、この国の平民にとって野宿は、旅のときに仕方なくするものだからな。準備しておくのに越したことはない」
「そうですね・・・では、全員屋内で休めるということですね?」
「あぁそうだ。食事も質素だが準備されることになっている」
「分かりました。そうしたら夜に、一緒に来た方々と打ち合わせをしたいです。イスイ村には明日のどのくらいに到着予定ですか?」
「・・・早くて夕方だ。出来るだけ早くついて野営の準備をしたい。安全を期すには一日遅らせて朝に到着するのが良いんだが、納得しないだろう?」
「早馬の方の情報次第になりますね。判断に悩む状況でないと良いのですが」
会話を聞きながら首を傾げるアドソン。
「サクラが一番心配しているのはどこだー?土砂崩れか?」
「えっと・・・土砂崩れは人を巻き込まなければ、さしたる問題ではないです。ただ、到着時に土砂崩れが起きそうになっていて、村の人々が避難してなかった場合が一番の問題です。避難を手伝っている人も住民も巻き込まれる可能性があります」
「そうだなー、救助する側がされる側になるのは避けたい」
小さく頷くサクラとスタンツェ。
「次に助かる命があるのに助けられないときです。到着目前に土砂崩れが起きたけれど、現場に近づけない場合ですね。騎士さんと魔術師さんには辛いお役目をお願いすることになるかも知れません」
「まぁ俺たちのことは心配しなくていいさー。魔獣討伐では命の選択はよくあることだ」
「若い魔術師が間違って高貴な魔物を召喚して、石像にされたり、凍らされたり、よくあるんだ」
人命を「救えるかどうか」ではなく、「救うかどうか」を決めるような場に慣れてほしくないとサクラは思う。
アドソンは窓ガラスを軽くたたき、馬で並走する騎士たちを指差す。
御者や護衛、力仕事、救助などのために少なくない人員を割いてもらっていることをサクラは理解している。
ホーマンが代わりを勤められるからと、モースも一緒に来ているのだ。
村の人たちの命を守り、生活の場を作り出し、皆で無事に帰るのだと決意を新たにする。
「あとは・・・騎士さん、魔術師さん、皆さんは到着から十四日目に村から城に帰りますね。どんな理由があろうと延長はしません。第二陣が到着するのが十三日目の予定ですので、1日で引継ぎをしてもらいます」
「へー騎士も戻すのかー」
「人命救助は発生直後だけで、あとは負傷者の介抱、住宅の再建や引っ越しの手伝い、農作物や牧畜の整備です。疲労をため込んでまで同じ人がやらないといけないものではないのです」
「分かった、事前に伝えておこう」
「ありがとうございます。スタンツェさんたち魔術師の皆さんも、十四日間色々お願いすると思います。まずは・・・土砂崩れが起きていたら、そこから水分を抜いて、箱型に土を固めて、積むことは出来ますか?」
「水の魔力、土の魔力の者で加工に秀でている者・・・複数人で連携すれば出来る」
「求める技術の数が多いので、一人の魔術師さんにどうこうしてもらうことは望みません。それから、積んだ箱でお風呂を作りますので、水をためて、温めてください。同時進行で、木材の家とレンガの家を作ります」
「二個作るのか?」
「いえ、二種類をいくつも作ります。本当は木と土を組み合わせた家を作りたいのですが、時間がありません」
「分かった。木材を切り出すのは状況によっては騎士たちに依頼するから、先に土の箱を詰んだレンガ造りの家を作る」
「一応一緒に来ている大工さんたちにも相談しますね。生木は家を建てるには水が多いかも知れませんので」
「あぁ」
「なぁ、サクラって、やっぱりおもしれーな。頭の中に全部入っているのかー?」
「言い出したは私なので、全部頭の中にあります。まだ、仕事の話は終わっていないですよ。負傷者の介抱は魔術やポーションを使っていただけますか?」
「かき集めてきたが、被害の規模が大きすぎればポーションも限界がある。治癒魔法は絵画の魔術が一名と舞踏の魔術が一名だ」
「分かりました。では治癒魔法は使わない方向で、ポーションは後で見せてください。使用が必要な時に相談するのはスタンツェさんで良いですか?」
「あぁ、魔術師に関することは全て俺に報告してくれ」
「お願いします。住民の完全な損傷の治癒が叶わなければ、こちらはこちらで動きます」
障害が残った場合の精神的、身体的なフォローや、家族との支援体制の構築も必要になるかも知れない。
「怪我をした人の食事や入浴、あと子どもたちへの対応などはこちらで」
「子供?」
「えぇ、土砂災害後片付けを子供たちが手伝うのは・・・えっと・・・目に見えないほどの小さな魔獣や埃などを吸ってしまって、後から病気になることがあるんです。大人も危険はあるので、全員一度診察を受けて頂きます」
「ほぅ、ちなみに何を言い淀んだんだ?俺たちの世界にはない考えか?」
「えっと・・・これを見てください。初めて買い出しに出た時に購入しておいた拡大鏡です。針仕事や装飾品を作るときに使うものですよね」
「あぁ、これがどうした?」
「ここを外してありまして、離すととても大きくなるんです」
「あ、本当だ。おもしれーな」
「ちなみにこれだけ大きくしても見えないくらい小さい生き物が前の世界に居まして、病気の原因になることがありました。あぁ、掃除の魔術が使える人はいませんか?水とか風で埃をまとめてくれるような・・・」
「残念ながらいないな。とても小さい生き物という考えは参考になった。この派遣が終わったら、円卓の魔術師会に聞いておく」
「はい。あとですね」
「えっ、まだあるの?」
「えっ、ここまでで良いんですか?」
夕方、予定の宿泊地に到着するまで、休憩を挟みながら作戦会議は続いた。
サクラを勝手に行動させると暴走しかねないと判断したスタンツェは、必ず誰かと行動するように指示をだす。
元々サクラは全員を三人一組で行動させるつもりであったため、嬉々として乗っかり、各メンバーを三人ずつ組んでいった。
サクラはミクリッツを中心に、平民、女性陣と交流し、忌憚ない意見を引き出し、各メンバーの性格や魔術などを把握していった。
車酔いってコンディションでも変わりますよね。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
40話まで来ましたが、ちゃんとタイトルは回収しますので、もうしばらくお付き合いください。
読んでくださる方がいること、とても有難く感じています。
連日23時にアップ予定です。




