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報告-13の月、2日、メッツェン

送り出す者

 王女宮の広場はとて賑わっていたけれど、あたくしの合図で扉が開かれると、途端に辺りは静まりかえった。

沈黙の中で向けられる視線を少し前まではとても嫌っていた。

好奇心、猜疑心、侮蔑、軽蔑、嘲笑

本当のあたくしのことなんて誰も知らないのに。


スタンツェが集まった者に災害派遣の説明をする。

皆、一様に緊張した面持ちになった。

続いて、アドソンが派遣される者達の紹介を行う。

騎士は数名知っている者もいたけれど、他の部署は知らない者ばかりで、サクラが依頼したメイドの家族と職場の者もいた。

どうやら慌てて来たようで、頭に木屑がついている者もいた。


あたくしからの挨拶を促される。

玄関広場の中央前方へ歩み出る。

「この度はあたくしのために集まってくれてありがとう。王女宮としては初めての災害派遣となるわ。困難もあるでしょう・・・」

ふと、こんな時にサクラなら何を言うのだろうかと気になった。

ちらとサクラを見るけれど、フードを目深に被っていて、表情は見えない。

残念。

「・・・あたくしは皆と共に彼の地へ向かうことは出来ません。全権をここにいる者に任せます。魔術師はスタンツェ、騎士はアドソン、その他の者はクラに従いなさい。あたくしは実利を求めるの。成果を上げて戻りなさい」

皆の視線からは戸惑いを感じる。

何か言わなくてはいけないのに、言葉が出てこない。


スタンツェは気づかなかったかのように話を続け、サクラの名を呼ぶ。

フードを外し、騎士の礼をしてから一歩前に出てくるサクラ。

髪が短くて違和感を覚える。


言葉が出てこないサクラを、スタンツェが代わりに紹介する。

緊張しているのだろうか、それも違和感を覚える。

「皆には初めて会うものもいるでしょう。国から派遣されたクラという文官です」

もう一度騎士の礼をするサクラ。

黒髪に暗い色の瞳、髪は短く、背は低いがローブとズボンを着用している。

遠目に見れば男性に見えるだろう。

そのために、声を出さなかったのかとメッツェンは思い至る。


スタンツェの挨拶は続く。

「それから、私とアドソンも指揮を執ります。自身の長が分からないものは手を上げなさい。メイドのミクリッツとその関係者はクラに付き従ってください」

ミクリッツ達は先程までのサクラと風貌が変わっているため、戸惑っているようだ。

サクラとスタンツェが対応を始める。

本来ならば解散の掛け声がかかるはずなのだが、なし崩し的に人が散らばっていく。

それぞれに割り当てられた馬車と荷物を確認し、出発の準備に入っていった。


メッツェンはもすることがないことに気づき、居心地が悪くなって、部屋に戻ろうとした。

それぞれが務めを果たしてくれればそれで良いのよと、言い聞かせる。

私はここにいるのが仕事。

宮に残る使用人に扉を開いてもらおうとしたところで、サクラが走ってくる。


「もうお部屋に戻られますか?」

「えぇ、あたくしの挨拶は終わりました」

「それであれば、こちらを持っていてください」

サクラはシャツの袖のボタンを一つむしり取る。

ブチっと勢いよく引き裂かれて、メッツェンは驚いたまま、掌に受け取る。

「今はちょっと時間がないのでこのまま出掛けますが、服が破けたままでは恥ずかしいので、すぐに戻ってきますね」

「え?えぇ・・・?」


自分でボタンを引きちぎっておいて、何を言い出すのかと混乱する。

サクラは笑みを深める。

「ほら、私がこの世界に来たときに、メッツェン様は私をペットだと話しましたよね?」

「そっ、それは・・・」

「メッツェン様のペットはいつでも小綺麗でいたほうが良いでしょう?破けた服では恥ずかしくて外にも出せないでしょうから、仕事の成果を上げて、ちゃっちゃと戻ってきます。お土産はそうですねぇ・・・スタンツェさんとアドソンさんと、ここにいる皆さんが揃って戻ってくることです」


サクラが言いたいことが理解出来た。

このボタンは必ず戻ってくるという意思表示なのだ。

「そう・・・・そうね。あたくしへのお土産は最高級のものを用意してちょうだい。あたくしは実利と成果を求めるの」

「お望みのままに。メッツェン様、ありがとうございます」

ローブなのに騎士の礼をして、またサクラは走っていく。

魔術師の礼は別にあると、誰か教えてやってほしい。


ボタンを握り締めると、先程までの疎外感はなくなって、あたくしの元に皆が戻ってこれるように願うことが、最大の仕事だと気づく。

スタンツェに声をかけ、もう一度皆を視線を集める。


あたくしはこの国一の歌の魔術が使える。

今までの公務で磨いてきた魔術を今ここで使わなくては何になる。

任務に就いた者たちが落ち着いて事を運べるよう、心を込めて歌う。


「あたくしは実利と成果を求めます。皆が務めを果たし、無事に帰って来られるよう歌いました。さあ、行ってらっしゃい」

「はいっ」

歌が届いた皆があたくしを見て、返事をしてくれる。

その眼差しに悪意は一つもなくて、喜び、希望、緊張、高揚、尊敬が見える。


今のあたくしに出来ることは託すこと。


戻ってくると誓う者。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます

連日23時にアップ予定です。


40話、諸事情あるはずなのに毎日アップ直後に一定数の閲覧を頂いており、

本当に感謝しています。

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