報告-13の月、2日、3枚目
サクラ気合を入れます。
つらつらと単語を書きながら、サクラは考えをまとめる。
メッツェンの指揮全権をスタンツェ及びアドソンに、という書面を作成してもらった。
今日これから出発する者は移動二日、実働十日、移動二日の計十四日働くことになる。
そして第二陣は今日から十日後に出発することとした。
主に文官に来てもらい、事務手続きや周辺地域との調整をしてもらう。
新しい住居をどこに構えるのか、今後何をして生計を立てるのか。
命の危機が過ぎた後は、衣食住を整える段階に入る。
必要があれば第三陣目は二十日目に出発する。
モースに声を掛けて、城から持ち出す品物の中に、メッツェンが子供の頃に使ったおもちゃや絵本を加えて貰う。
それと支援に向かわない使用人や、王女宮の近くに住む方にも、支援の品をお願いしてもらった。
ホーマンには半ズボンでも良いのでと、小柄な男性服を用意して貰う。
ちょうど良い丈のシャツと少しまくり上げるズボンを5枚ずつ渡される。
素材がとても良いのが残念だとサクラが苦笑すると、そこは城のものだから諦めるようにと言われた。
早速部屋に戻り着替える。
ベッドに乗り、丸くなってこちらを見ないようにしてくれるペアンは、出来る猫さんだ。
ついでに男の子に見えるように髪を切ることを思い立つ。
サクラはこの世界に来たときに、焼けこげたのか、引っ張られたのか、いわゆるザンバラ髪になっていた。
ウィスカーが整えてくれた髪は、ミディアムくらいの長さに伸びたので、多少短くなっても気にならない。
下着姿でトイレの鏡に向かい、後頭部の髪の毛をさくっとつかみ、チョキンとする。
これから色々な作業が待っているのが分かっているので、女だからと遠慮されたくはない。
思い切って襟足を切り、左側も切る。
前髪は残しておいても良いと判断して、最後は右側だ。
鋏を入れようとしたときに、ドアの隙間から悲鳴が響き渡った。
「ニギャー!!」
「わっ、ペアンくん、どうしましたっ?」
「どうしたっ?!・・・何があっ・・・・何をしてるんだ・・・お前」
勢いよくドアが開いて、スタンツェが走り込んで来た。
「えっと・・・たぶん、私が髪を切ったことに、ペアンくんが驚いたようです・・・たぶん?」
「ニャッ!」
「あぁ・・・そうだな・・・・サクラは実感がないだろうが、この世界で雑に髪を切るのは魔力を失うことと等しいんだ」
「ニャー!」
「あぁ・・・それで・・・なんだか済みません」
ペアンとスタンツェが小さく溜息をつく。
「一応聞くが、お前はなぜ髪を切ろうとしたんだ?」
「えっと・・・災害支援の時に、髪が長いと色々な場面で邪魔になると考えたからです」
「ふむ・・・ただ短くしたいだけではないのだろう?俺が整えてやるよ」
「あっ、良いですか?私としては助かるのですが、何度か髪を切ったことはあるんですか?」
「魔術の触媒で植物から、魔羊からそこの使い魔まで、色々剪定しているぞ?」
「・・・ちょっと気になる単語があった気がしますが、よろしくお願いします」
ボーイッシュに揃えてもらった髪の毛を見て、笑顔になる。
スタンツェにお礼を言っている間に、床に散らばった髪の毛が片付けられて無くなっている。
片付けてくれたようで助かった。
スタンツェから荷物まとめを急かされ、身支度と荷物纏めを終わらせる。
ウィスカーは残るはずなので、最小限の私物だけ持っていくことにする。
ペアンがウロウロとして落ち着かないので、一度だけ足がぶつかってしまい謝る。
自室ではベッドにいることが多いのだが、首周りに乗ってもらうこととした。
メッツェンの部屋に戻る途中、スタンツェからローブを渡される。
王城に勤める魔術師の制服だそうだ。
色でランクが決まっているようだが、黒しか用意出来なかったと言われる。
スタンツェは青を着ているので同じランクの色で無くてほっとする。
サイズが大きいのは仕方無いので、馬車の中で縫う事を決める。
そういえば裁縫セットも必要だと思い出して、ウィスカーに声を掛ける。
「サクラちゃん、かみっ」
「シー!」
まだ単語しか話せない設定になっているウィスカーが、大声を出しそうになったので、慌てて止める。
何かをもごもご言おうとしているのを止めて、裁縫セットも複数用意してほしいと伝える。
カーテンや布地だけ持って行っても肝心の裁縫セットがなければ、何も出来ないと思い至ったのだった。
手配を確認してくれることになる。
「・・・髪・・・」
切なそうに呟く一言がサクラにも届き、どれだけの罪を犯したのかとサクラは申し訳ない気持ちになった。
世界が変われば常識が変わるということを実感する。
ウィスカーが持っていた荷物を代わりにサクラが届けることにして、一旦分かれる。
「・・・サクラ、どういう事っ?」
眠っていたペアンがびくっと起きるくらいに大きな声を出したメッツェン。
ここでも地方の壁を感じる。
「サクラ・・・髪の毛が短くなっているじゃないの!」
「あ・・・あぁ、身だしなみは最低限しか手を入れなくて良いように、短くしたんです。スタンツェさんが整えてくれました」
「え?・・・・えぇ・・・そうなの・・・サクラが決めたことなのね?」
「はい、何か問題が起きたのではなく、私が不要だと判断して切りました。変ですか?」
「変というか・・・ほら、スタンツェに言われたでしょ?この世界で髪は魔力を溜める大切なものなのよ」
「あぁ、聞きましたが、私は元々そんなに魔力はないのです。気にしていません」
「気に・・・ならないのね・・・そう・・・切った髪の毛はどうしたの?」
「あ、たぶんスタンツェさんが片付けてくれました」
「そう・・・それなら良いわ。サクラ、戻ってきたら髪の毛を整えたいから、一緒に整髪師の所に行くわよ」
整髪師という職業を初めて聞いたのだが、元の世界の美容師と髪に宿る魔力を調整してくれる人を足した職業らしい。
もちろん何らかの理由で髪を失い、鬘が必要な人も見てくれるそうだ。
特別な事情がない限り、この世界に坊主頭にする人はいないそうで、勉強になった。
昔、サクラは面倒になって側頭部を5mm長に刈り上げて、ツーブロックにしていたことがあるなどとは、この世界では言わない方が良いと察した。
髪が長い女性が美しいというようなものではなく、魔術師などにとっては死活問題らしい。
敵に髪の毛を掴まれるようなことがあれば、自分の髪を切ってしまえば、相手の虚をつくことが出来るのかもしれないと考えたりもした。
怒られそうなので誰にも言わないことにしたサクラは、空気が読める残念な子だ。
そうこうしているうちにスタンツェとアドソンも揃った。
髪を切ったサクラを、目を大きく見開いたアドソンが笑う。
「・・・サクラってやっぱおもしれーよな」
「もうお前はそのままフードを被っていろ。良いと言うまで取るなよ」
「・・・はーい」
玄関の広場で出立の儀を行うそうで、全員で移動する。
これから先はここに戻ってくるまでサクラをクラと呼ぶことで統一する。
国から派遣された文官という立場で、実働を支えることになる。
途中合流したモースさんに髪を切ったことのお小言を言われるまであと一分。
モースのお小言に心抉られながらも、心配されているのを受け止めるサクラでした。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
連日23時にアップ予定です。




