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報告-13の月、2日、2枚目

情報収集

アドソンの後ろから青褪めた顔の女性が、おずおずと入室する。

執務室という場所に慣れている者ではないのだろう、サクラは顔を見ただけでは名前が思い浮かばなかった。


「連れて来たぞー」

「し・・・失礼致します」

土下座せんばかりの勢いで跪いた女性が震えている。

メッツェンが固く声を掛ける。

「顔をあげなさい。あたくしより許可を与えます。お前はここに居る者たちに、聞かれたことは全て答えなさい」

「はっ、はい!」

緊張しすぎて白くなるくらいに両手を握りしめている女に、サクラが話しかける。


「・・・初めまして、クラと申します。緊張されていると思いますが、どうぞ落ち着いてお話ください」

背中をさすりながら、力を抜くようにとサクラも一緒に床に座る。

高貴な立場の女性が床に跪くことはほとんどなく、モースがこの場にいれば視線が突き刺さっていた案件だ。

目を見開いて驚くメイドを、サクラがエスコートしながら、隣り合わせでソファーに座る。


「ミクリッツさんはイスイ地方の出身と聞きました。どんな村か教えてください」

「えっと・・・うまく話せるか・・・山ばかりの静かな村で、皆家族みたいなもんですわ。森で木の実や果物、動物を狩って、牛や羊を放牧して、冬は雪深いところでね」

「えぇ、美しいところなんですね。自然が厳しいところで、暖かい人たちが多いのでしょうか?」

「あぁ、そうなんだよ。あっ、そうなんです・・・」

「気にしないでください。いつもの話し方で良いんです。方言も知りたいんです」

朗らかに笑うサクラに、ミクリッツの緊張は少しづつほぐれていく。


地図を読めないミクリッツに、村の状況を伝える。

「なるほど、昔、この辺りで山が崩れたことはないですか?」

「子供の頃に沢山雨が降った日にこっちの山が崩れて、その後大水が来たと聞きました。崩れた山に近かったんで、私と親は家から逃げていたんです。覚えとりませんが、大水で家は流されてしまったと言われました。家を無くした者はこの端に固まって住んでいます」

文面だけの報告書では詳細な様子がつかめないが、以前の土砂崩れの後に作成された地図から推測すると、今回の土砂崩れでは民家に大きな被害はなさそうだ。


「なるほど・・・今村が大水に流されそうになっています。もし・・・城から志願する者は村に向かうことが出来るとしたら、貴方は行きますか?」

「えっ・・・そりゃ行きてぇけんども、私が行ったところで・・・」

「行きたいですか?行かないですか?」

「・・・行きたいです。行かせてください!」

ミクリッツの目に力が入り、初めてしっかりとサクラを見つめ返した。


「分かりました。ちなみにあなたの家族はどんな仕事をしていますか?」

「うちの・・・旦那は大工をやってます。踊りの魔術が使えるので、頑丈な家を作れます」

「そうですか、それでは貴方と一緒に旦那さんやお仕事の場の方に村に来てもらえるか聞いてもらえますか?」

「おい」

「えっ」

「さぁ、時間がありません!旦那さんに聞いて、昼食くらいの時間に戻ってこられますか?」

「えっ?あっ、はい、急いで戻ってきます。失礼します」

サクラに嗾けられて、慌ててミクリッツは出て行った。


声は出していないがカラカラとアドソンが笑っている。

スタンツェはいつも通り小さく溜息をついている。

「・・・サクラって本当おもしれーなー」

「サクラ・・・はぁ・・・あたくしが託したものね。良いわ・・・話を聞かせてちょうだい」

「はい。村に行ってこようかと思いまして、道案内を頼もうと思いました」

「夫はどうするんだ?どこのだれかもわからない」

「あら、どこの誰かもわからないような人の妻を、城は働かせているんですか?」

「ぐ・・・いや、そうではないが・・・」

「彼女の生まれ故郷のために働いてくれる人たちなら、問題はないと思いますよ」

笑顔のサクラに、メッツェンは一つ頷く。

勝負は決まった。


「サクラー、あと騎士が一人いるが、会うのかー?そこに待機している」

「・・・はい、ぜひ」

王女宮に辺境の地の元住人がいると考えていなかったサクラは、アドソンがもう一人連れてきてくれたことに驚く。


「失礼します」

「顔をあげなさい。あたくしより、お前はこの者と話す許可を与えます。聞かれたことは全て答えなさい」

「はっ。よろしくお願い致します」

「初めまして、クラと申します。どうぞ普段通りにお話しください。先程同じ村の生まれの方と、話をしたんだけんども、方言はあっとっか?」

「ぶっ・・・サ・・・クラ?」

「えっと・・・ちーとちげぇな」

「ふふ、ありがとうございます。やっぱり難しいですね」

急に方言を使いだしたサクラに、部屋の空気が微妙になる。

騎士は笑って良いところなのか判断がつかず、顔面に力を入れている。


「あ、失礼しました。クラ様もイスイの生まれなのですか?」

「いえ、先程お話した方の真似をしてみたんです。・・・村が土砂崩れに巻き込まれたと一報が入りました」

「なんと・・・そうでしたか・・・小さいものは何度かあるのですが、ここまで聞こえてくるということは大きなものだったのでしょうか?」

「えぇ、川の右側の山が崩れて、山の神様の祠の近くが、恐らく流されました。そして、しばらく振りに大水が来るかもしれません」

「なんと・・・じい様が若いころに水が来たと話していました。うちの親戚の家は流されませんでしたが、流された家もあったようで」

「えぇ、そこでメッツェン様にお願いをして、この城の人員と物資を村に届けようと考えています。ご協力いただけますか?」

「・・・村に?・・・宜しいのですか?」

名をポッツという騎士はイスイ村がある領地の領主の甥にあたる。

領主貴族の親戚とのことでほとんど平民ではあるが、身元がしっかりしているとの扱いになり、王女宮で騎士を勤めている。

ミクリッツは刺繍や裁縫の腕前を見込まれ、いくつかの店を経て、王女宮の洗濯裁縫部門に勤めていた。


「その者に聞かれたことは答えなさいと伝えたはずよ。あたくしではなく、その者に返事をしなさい」

「はっ失礼いたしました。・・・私の生まれた村を救ってくださるのであれば、喜んで協力いたします。何なりとご用命ください」

「では、アドソンさんと共に、集められるだけの人員を集めてください。出来れば、騎士の業務の他に、子供たちの扱いに慣れた者や街の子供たちに人気の者の力持ちの方を、多めに招集してください」

「はっ。直ちに招集致します。団長、ご指示をお願い致します」

「はいよー。集まったらクラが確認するのか?」

「アドソンさんに全てをお願いしたいところですが、そうですね、私も皆様にお会いしたいです」

「クラはやっぱり面白いなー。んじゃ、またなー」

ポッツとアドソンは颯爽と出て行く。


メッツェンの執務机の横で、腕を組みながら様子を見ていたスタンツェが口を開く。

「・・・おい」

「スタンツェさんは魔術師さん、医術師さんの確保をお願いしたいです」

「やってやる。魔術師は水を消せれば良いのか?」

「汚い水を消して、綺麗な水を出せる方、土をある程度固められる方、火を起こせる方、乾いた風を吹かせられるかた、木をまとめて動かしたり、切ったり割ったり出来る方。メモにまとめてみました。そんな方たちはいますか?」

「いないこともないが、確認してくる」

「お願いします」

魔法のある世界で、魔法がどれだけ災害支援に繋がるかは分からない。

サクラは出来たら嬉しいなということを、魔術師にぶん投げることにした。

スタンツェならきっと叶えてくれるだろう。


サクラと他の者のやりとりを、速記していたメッツェンは、手を止めて声を掛ける。

「あたくしはどうしたら良いかしら?」

「メッツェン様は長としてそこに座っていてください。物資と一般の従業員の確保のために指示を出して頂きたいです」

「分かったわ。何を集めたいのかしら?」

「保存が利く食品、野菜、果物、調理器具、あとお城の古びたカーテンとシーツと毛布、もう使わない使用人の服が大量に欲しいです。あとは手先が器用な方と子育ての経験がある方、あぁ平民の方に料理を振る舞っても良いコックさんもです」

「なんとなくわかったわ。ホーマンとモースに手配を依頼するわね」

メッツェンは違う紙にメモを始めたため、サクラも自身のノートにメモを取り始める。


「・・・それで昼過ぎに出発するのね?」

「そのつもりですが・・・あっ、そういえば、私が出掛けるのは許可いただけますか?」

「気づいていなかったのね・・・まぁ、止めても無駄でしょうから、使い魔と護衛を連れて行きなさい」

「護衛・・・」

「今回はスタンツェに指揮を取らせるから、彼かアドソンの傍に居なさいな。女性騎士たちも連れて行った方が良いわ」

ニセンたちの力が借りられるのであれば、包帯の扱いなどで即戦力になるだろう。

サクラは感謝する。


「それから・・・貴方には今回の件はどこまで見えているの?」

「まだ、何も見えていませんよ。今の私の対応は全て情報収集の段階です。実行するには情報が少なすぎます。ただ、行った先で命の選別がないと良いなぁとは思っています」

「そうね・・・貴方も巻き込まれないようにしてちょうだいね」

「支援に行って、邪魔にならないようにします。あっ、私の分のテントってアドソンさんに言えばもらえますかね?野宿のつもりなんですが、お城には在庫あるかなー?と思いました」

「のっ、野宿は良くないわ。女たちは近くの宿でも良いんじゃないかしら?」

あくまで防犯のことを言いたいメッツェン、それをくみ取りながらもサクラは反論する。


「メッツェン様、近くに宿があったら先に村の人たちを避難させたいです」

「そっ・・・それもそうね・・・まぁアドソンに相談してみて」

「はい。スタンツェさんが戻ってきたら、動きますね。それまでここで書き物をしてても良いですか?」

「えぇ、私も仕事をしているわ」


戻ってきたウィスカーが新しい紅茶をが淹れてくれる。

サクラの顔をじっと覗き込んでいた使い魔が、長く息を吐いてサクラの横で眠り始める。

サクラが動かし始めた案件を横目に、メッツェンは今出来る仕事をこなしていく。

嵐の前の静けさだった。


支援は時間との勝負ですね。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

連日23時にアップ予定です。

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