報告-13の月、2日、1枚目
サクラと周囲の者の試練
王女宮に王城から一通の通知が届く。
公務に使われる封がされており、目を通したスタンツェが、右手を顎に当て首を傾げる。
「メッツェン様、こちらでサクラの知識を試してみようかと」
メッツェンに通知の概要を説明するスタンツェ。
「・・・えぇ、良いわ。どこまでやらせるつもり?」
「本人が諦めるところまで、ですかね。元よりそこまで期待はしていませんが」
「んー・・・まぁ、聞いてみましょ」
休日ではあるが、図書館から借りた本について質問に来たサクラを、メッツェンが呼び止める。
ソファに座らせて、通知を広げる
「サクラに意見を聞きたいのだけれど、良いかしら?」
「はい。分かることであれば答えます」
「あぁ、三つの質問は、今日はこれだけで良いわ。答える範囲も貴方に任せるから、これを読んで、意見をちょうだい」
三つの質問を最近忘れていたなぁと余計なことを考えながら、サクラは通知を手に取り、読み始める。
眉間に皺が寄るのを自覚しながら、サクラは読み進める。
「・・・この手紙から分かることと、この先に考えるべきことを答えれば良いのですか?」
「えぇ、何か思うことはあるかしら?」
「あるに決まっていますし、何ら対策を取っていないのであれば、文句をつけますが良いですか?」
通知が来たのがつい先程で、サクラの知識を確認したいだけだったメッツェンは、物凄い笑顔のサクラから文句を付けられるとは考えていなかった。
「えぇっと・・・対策はいくつか考えてあるのだけれど、あたくしがサクラの意見を聞きたいと、止めているのよ」
無言の圧を感じたメッツェンは、あくまで一時的な処置であることをアピールしながら答える。
通知を右手に持ち直したサクラは、持ち歩いているポーチから、左手でペンとノートを取り出す。
「では手短に。この地域の地図と、この地域を知っている従業員を集めてください。それから医療、食料、住宅の支援で何を計画しているか教えてください。あと、この事態の責任者を誰と定めていますか?その方と私はお話しできますか?・・・あと、私が口出し出来る範囲の限界を教えてくださいね。」
怒涛の要求をしてくるサクラの横を、執務室に入って来たアドソンが通り過ぎる。
「サクラが怒ってるのなー。地図は持ってきたし、使用人たちのことは俺が聞いてくるよ」
地図を受け取り、頭を下げるサクラ。
「怒ってはいませんが、少し焦っています。人命に関わることですからね。出来るだけ最近まで住んでいた方で、平民の方を集めてください」
「メッツェン様の名前で何かを行うならば、俺が責任者になる。サクラからの話は俺が動くが、俺を説得しなければ動かないからな」
「動く、動かないの問題ではないのですが・・・ひとまず人員の確保は可能ですか?」
サクラの焦りをコントロールするように、スタンツェが責任者としての声を掛ける。
既にミルクティを用意していたウィスカーが、小さなクッキーを添えて、テーブルに差し出した。
珍しく紅茶を一気飲みするサクラ。
よしっと呟くと、地図を見ながらメモを始める。
スタンツェがテーブルを挟んでソファーに座る。
「この地滑りが起きたのはいつで、どのあたりですか?なぜ地滑りが起きたのでしょう?」
「一週間降り続いた雨の昼間に地滑りが起きたようだ、この川の向かって右側の斜面だな。この山の裾辺りまで土砂が来たようだ。何軒かの家が巻き込まれたらしい。今から二日前だ」
「二日前・・・まだ雨は降り続いていますか?」
「今も降っているかは確かめようがないが、何かあるのか?」
「二日前・・・ちなみにここからこの村に向かうには馬車でどのくらいの時間がかかりますか?」
「辺境の山間だ、二日くらいだな」
「今から二日・・・間に合わない・・・だとしたら、持っていくべきは・・・いや、持っていけるのか・・」
ペンを持ちながら、顎に手を当て悩むサクラ。
独り言なのか、スタンツェに話しているのか、どんどん曖昧になっていく。
メッツェンが声を掛ける。
「サクラ・・・落ち着いて。貴方が何を考えているかが、あたくしたちには見えないの。貴方の知識ではどう見えているのかしら?」
「あぁ、すみません。まずこの地図で言えば、山と山の間に川があります。山に吸収された雨がしみだして川になったか、山の奥に湖があると考えます。その流れを土砂が堰き止めているのに、雨が降り続けば、近いうちに決壊し、大規模な土石流が発生すると考えています。村を飲み込むものでないと良いのですが」
「なるほど、村に誰かが残っていれば、巻き込まれるわね」
「えぇ、そしてこの手紙を書いた方が、土砂崩れの時点で村を離れ、二日掛けてここに来たとします。出発した直後に決壊していれば、今から村に向かっても三日経っていることになります。私の世界では災害や救助において三日は、救える命が極端に少なくなる時間が来ます」
「それで間に合わないと言ったのか。もしそうであれば、何を持っていく気だ?」
「元いた世界の前提で話ますね。確か・・・三分空気、三時間体温、三日水分、三週間食料。まず・・・間に合うのであれば、人々を避難させるための人員と馬車などの移送手段を考えました。雨の中の山間でご高齢の方や子供たちが移動するには、時間がかかりますので。そして、もし間に合わず水害や建物への被害が出るのであれば、治療を行える医魔術師、水を無くすことの出来る魔術師などそれぞれの仕事を任せられる人たちと物資が欲しいです。そして食料と心理的な支援」
「・・・分かった。どちらにせよ人手は必要だ。手配しよう。今言ったことを要点に纏めておいてくれ」
スタンツェが執務室から出て行き、メッツェンからサクラに通知の裏側の説明を受ける。
サクラがこの世界に呼び出される半年ほど前に、この国の王妃が二人亡くなった。
第一王子の母である第一王妃は病死、メッツェンの母である第二王妃は事故死と判断されている。
今まで国王と二人の王妃、王子が担っていた政務をメッツェンも分担するようになったということだ。
そして、プライドが高い第二王妃は外交など社交の場を好むが、災害支援のような平民のための政務は王子にぶん投げていた。
王子の今までの意趣返しもあるのだろう、初めての災害支援要請が今届いたというのだ。
王女宮にいる者たちだけでは、ノウハウも経験もない。
もちろんサクラも政策や行政に携わった経験はないため、前の世界にいたときの情報で動くしかない。
災害大国でも減災、災害支援の充実とそれぞれの分野の専門職が日々改良を加えているというのに、たらい回しの状況に眩暈がしてくる。
「・・・人命をなんだと思っているのですか」
「えぇ、サクラの気持ちはわかるわ・・・その意趣返しの中に、あたくしの今までの行いも含まれているから、あまり王子を怒らないであげて」
「王子だとか王妃だとかじゃなく、領地が災害支援申請したのですから、たらい回しにする暇があったらトップ自ら指揮を執っていただきたいものですよ」
「あの国王(クズ野郎)には、そんな気概はないわ。それと・・・サクラが元いた世界より、この世界は平民の命が随分軽いのよ」
「それは・・・感じます。一先ず、私のやれる限りを尽くしますので、援護射撃をお願いします」
「えぇ、あたくしは実利を求めるの。遠慮なく結果を出しなさい」
メッツェンの話が終わったと同時に、執務室の扉が開き、アドソンが入ってくる。
「おーい、連れてきたぞー」
サクラの行動範囲は城の外へ広がります。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
連日23時にアップ予定です。




