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報告-12の月、9日、メッツェン

視察という名の女子会

「クラ、あたくしの視察について来ようだなんて、よく思いついたわね」

「メリーさんにお願いするのが、一番無難に話がまとまると思いましたので」

「まぁそうね・・・えっと、ウィスカーもよろしく」

「はい」

 騎士との訓練の場に大広間でのお茶会をセッティングし、使用人全員に日頃の労いとして菓子を配るという、想定外の行動をとったサクラは、昨日のうちにメッツェンに報告書を提出した。 

アドソンからの提案で、新しい訓練の方法を思いついたことに対する褒美を聞かれたサクラは、メイドと街の散策を申し出た。

しかし、二名しかいないメイドが一緒に休みを取るということは不可能であり、知られれば職務放棄ともとられるため、実行できずにいたと話す。


 メッツェンたちにとっては、使い魔のメイドへの休日という概念がなく、友人として出掛ける発想もなかった。

メッツェンのお忍び視察に同行する形で、サクラとウィスカーが一緒に出掛けることが可能になった。


 サクラの発案で「メッツェンの瞳の色に合わせたピンクを入れた服装」という謎のドレスコードをが決まり、田舎の娘たちが街に散策に来たという設定を取った。

メッツェンは小さなネックレスに、ウィスカーは胸元のリボンに、サクラはスカートの裾のレースにピンクを取り入れている。薄曇りの暖かな日なので上着が重くならずに済んでいる。

王都の花屋でピンクのガーベラを購入して、お互いに贈りあうが、サクラはショルダーバッグにそれを刺した。

「ペアンくんが首の周りにいるので、上半身にピンクのものがあっても自分では見えないのです」

バッグのガーベラや裾のレースが足元のおしゃれ感かと思ったら、切実な話だった。

首元の魔猫はそこから移動する気配はなく、鼻で笑って眠りに入る。


 田舎の娘という設定の為に偽名を決めた。

 サクラはクラとしたが、メッツェンがそれに合わせてメラと言ったところで、サクラに姉妹みたいだからと止められて『メリー』とした。

メイドはいつのまにかサクラから『ウィスカー』と呼ばれていた。


 サクラが単語の会話すら怪しい使い魔とどうやって会話をしているのか、メッツェンは興味が湧いた。

偽名も話し方も、お互い初めはぎくしゃくしたが、サクラは久しぶりの「女の子友達とのお出掛け」という特別感に浮かれているそうで、いつもより笑っている。


ーーーー報告し忘れているようだけど、サクラは使い魔に名前を送っているのよねぇ。意味は分かっているのかしら?ウィスカーは妖精になりかけていて、単語を喋るようになったと聞いているし、ペアンって名前よね?


成長した妖精がサクラと契約するのであれば、サクラの立場は大きく変わるだろう。

先日の文房具の妖精(スティーブン)とのやりとりでも、契約者となってはいない様子だった。

あくまでサクラはビジネスパートナーだと考えているし、スティーブンも受け入れている様子だった。

サクラは契約を結ぶ意味を知らないのだろうし、その重要性を知って悪用するのであれば、国にとって悪影響となるため秘密裏に処理するしか無い。

「サクラが権力を持ったとき、どう扱うのかしら・・・」

メッツェンの心に生まれた淀みは名付けられないまま、消えてくれない。


「あ、ここです。新作のチョコレートが出たと聞きました」

「わぁ、可愛いっ」

「では、まずは店内でお茶にしましょう」

 店先に置かれた新商品のチョコレートの詰め合わせを指差すサクラに、メッツェンが二階のカフェスペースを教えると驚いていた。

新作のチョコレートを購入するだけと考えていたサクラは、ウィスカーに飛び跳ねる勢いで報告している。


 メニューを見ながら真剣に悩むサクラを、微笑ましく見守る店員とウィスカー。

田舎者の設定を上手く使って、サクラは店員から沢山のチョコレート情報を得ている。

元の世界でもチョコレートが好きだったそうだ。

「わぁ・・・こんな風にお友達とカフェに行くなんて何年ぶりでしょう」

「サクラは、お友達はいなかったの?」

「そうですね・・・会ってお茶をして、こんな風に他愛も無い会話が出来る友人は、途中で居なくなりました。でも、こうやってメリーさんとウィスカーさんと来ることが出来たので、幸せですね」

「また来ようっ!」

「新作が出たら、ぜひまた三人で来ましょう!」


 メッツェンはサクラとウィスカーのやりとりを観察する。

サクラが弾丸トークをしているようで、ウィスカーの返事がしやすいように会話している。

頷き、首振り、身振り、手振りと単語で、メッツェンから見ても、ウィスカーの言いたいことは理解できる。

業務以外の時間もこうして二人は会話を続けているのだろう。

そして、首元の使い魔は時折薄目を開けて、その会話を聞いているのだろうとメッツェンは考える。


 いつの間にか外は小雨が降っていた。

メッツェンは自分で傘を持ったことなどないが、田舎の娘の設定であれば傘を差してもいいだろう。

どこかに隠れている護衛がそのうち傘を持ってくるはずだ。


 騒がしくはないが和やかな二人の会話を聞きながら、メッツェンは思考の海に潜っていく。

 妖精や魔物と契約を結ぶには魔力が必要で、王族はその昔膨大な魔力を持ち、人外者との交渉が出来た人間を祖としている。

人外者との意思疎通の手段としてそれぞれの魔術が生まれた。

魔力がなければ人外者は見えず、魔力が少なければ会話は出来ても、契約が出来ない。

 人間の大きな望みを叶えてくれる人外者を見るためにも魔力は必要で、契約するときや様々な望みの対価は魔力であったり、権力・財力など果てしない。

願いを叶えて貰えるようにと、ご機嫌を取り続けるために、様々な物を差し出せる人間は王族のような数少ない人間しかいないのだ。


 西の国はその歴史の中で、長子相続を取っていない。

国を護るのは『絵画の魔物殿』と言われており、その契約を結んで頂けた子が王に選ばれる。

今の国王は色を好む最低な男だが、残念なことに他に成人出来た男がそいつだけだった。

 歌の魔術をもつメッツェンは女であり、絵画の魔物殿にお目に掛かったことはない。

そもそも対象外だが、他の人外者に契約してもらえれば王太子として緊急時に摂政となることが可能だとされている。

契約して頂ける人外者に出会えるなど、そう簡単にはないのだし、既に腹違いの兄がいるのだから、そちらが契約を引き継ぐのだろう。

魔物殿と契約してもらえるかどうかの基準に、人としての素質はあまり関係ないのだろうと父と兄を見ていて思う。

 魔物殿の好みの見た目であれば、契約してもらえそうだなどと、口に出せば王族として処分されそうなので、口は慎んでおく。


 もし目の前のウィスカーがサクラを気に入り、契約するとしたら何を対価とするのか。

ウィスカーが契約するために本格的に妖精となれば、悲しいかなサクラからウィスカーは見えなくなるのだろう。

魔力がほとんどない人間と人外者は、鏡合わせのように違う世界で生きるようなすれ違いが起こるそうだ。

 メッツェンはそこまで思考を巡らせて気づく。

見えない人外者とサクラは契約出来ないのではないか。

人外者が何を対価とするのかを、見えない状態では理解出来ない。

契約しても対価が払えないのだから、契約を続けることが不可能だ。

 ウィスカーは妖精になったとしても、今までの経過によりメッツェンと契約することはないだろう。

自身の姿が見えないサクラをそれでも見守るのかどうかは、人外者にしか分からない。

つまり、サクラは権力を持つことはないのだと、メッツェンの中で結論を出す。

堂々巡りの思考に時間を費やしてしまった。


 数口残っていたケーキを食べ、コーヒーを飲む。

「メリーさん、美味しいお店を教えてくださってありがとうございます」

そう声を掛けてきたクラは、こちらを見ながらいつもの笑顔で、紅茶を手にしている。

メッツェンも、やっぱりここの菓子は美味しいと微笑み返す。


 店の外に出た頃には雨が止んだので、歩いて洋服を買いに行く。

サクラが以前来た店だとウィスカーに説明している。

王都の平民から見ても安い街着ではあるけれど、貧相ではないその店の取りそろえは、サクラが居た世界の感覚では、普段着よりも特別な日に着る物だそうだ。

ウィスカーとサクラがお互いに服をプレゼントするようで、何となく加わりたくなった。

今日という日に一緒に買った物が欲しくなった。


「え、メリーさんに服を買うなんて不敬になるのでは・・・」

「そっ・・・そうね・・・・・・忘れて」

サクラが驚いていることに、驚いてしまい、楽しい気持ちが萎む。

服の一枚くらいプレゼントさせてくれても良いだろうにと、メッツェンは恨めしい気持ちになる。


「あの・・・メリーさんは楽しいですか?」

「え?・・・えぇ楽しいわよ。変な顔でもしていた?」

「いえ、私の我が儘に付き合わせてしまって居る気がしただけなんです。私側の理由です」

いつもの笑顔に戻って、驚いた理由を話すサクラ。


「ただそうやって買い物を提案して下さったので、楽しんでくださっているのかなと。そうであれば嬉しいと思っています」

「んー・・・それなら、気を遣わなくていいわ。メリーは我慢して表面だけのお付き合いなんて、望まないの。あたくしが行くと言ったら、それが本心よ」

「そうなんですね。ありがとうございます」


メッツェンは立場上そうはいかない時もあるが、出来る限り心に正直に居たいと願っている。

本心を聞いたサクラは、今まで見たことが無いくらい口角を上げて笑う。

提案した服の交換が出来ずに一瞬気落ちしたような気がしたけれど、一緒に買い物に来られたことをこんなにも喜ぶ姿を見られたのは、メッツェンの心に温かいものを宿す。

サクラが一緒に出掛けられて嬉しいと思っていることを、城に残っている男どもに自慢してやろうと思った。


 帰り道の馬車の中で、街並みを眺めていたら不意にサクラから紙袋を渡される。

目を瞬くと、早く開けろと言わんばかりに微笑まれるので、そうっと覗き込む。

金色の小さな羽根の飾りが揺れるブックマーカーが、気取る様子もなくむき出しで袋に入っている。

「これは何かしら?」

「三人でお揃いのブックマーカーを買いました。これなら不敬ではないですよね?」

「・・・えぇ・・・えぇそうね・・・上等よ」


サクラから今までに貰ったことがないような安いものをもらった。

何の変哲もない、オーダーメイドの品でもない、ありふれたどこにでもあるもの。

でも、今日という何でもない日に、ただの友達が、それでも残しておきたい思い出として形にしてくれた。

この三人でないと出来ない経験を記しておくための小さな証。

外を見たメッツェンは、雲の隙間からすぅっと光がさしてくるのを見て、自然と口角が上がっていた。

雨粒がキラキラと反射して、今まで見たことのないような鮮やかさを感じた。


これはいつか欲した普通の証。

普通の人間が普通である証。

城に残っている男どもになんて見せてあげない。




ニセンを含めた騎士たちと、金の亡者団が別々のルートで護衛を頼まれていました。

追加報酬はお菓子で、団の頭のホプキンスさんはオランジェを好んだそうな。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

連日23時にアップ予定です。

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