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報告-12の月、8日、1枚目

お茶会という名の戦場

「こんにちは。ニセンさん、体調いかがですか?」

「お気遣いありがとうございます。しっかり休んで参りました。・・・あの会議と伺っていたのでが・・・」

「もう少しお待ちくださいね・・・あ、モースさん、お客様が会場に入られたあとの指示を確認させてください」


 西の国王都には四つの宮がある。

一番豪華で国王が住まう王宮、王子と故第一王妃の住む王子宮、王女と故第二王妃の住む王女宮、そして離宮となっている。

その時代ごとに役割を変えて来ているが、四つの宮は西の国の建国当時から同じ場所で輝いてきたそうだ。

その王女宮の大広間は、元々華やかな意匠で彩られており見た目に賑やかなのだが、粛々と茶会の準備が進められている。

 サクラは自身の勉強の成果として、モースとホーマンから指導を受けながらお茶会の準備をしている。

と言っても実際のお茶会の主役はメッツェンとなるため、お茶会の段取りを学んでいるのだ。

そしてこの場は侍女やメイドと騎士の訓練の場になることが決まっている。


 メッツェン専属侍女としてサクラ、ウィスカー、侍女長のモース、執事長のホーマン、騎士団長のアドソン、メッツェン専属の女性騎士団8名、モースが選んだメイド20名が一同に会する。

詳細は伝えられておらず、昼食後に大広間に集められたのだ。

 まず、サクラが挨拶をする。

「皆様お集まりいただきまして、ありがとうございます」

「あの・・・クラ様、これはどういった想定訓練でしょうか?」

騎士団の代表として昨日話をした騎士のニセンが、手を挙げて質問する。


お茶会に招かれざる客(侵入者)が来たと想定したトレーニングを行うと、サクラは説明する。

メイドとしてお茶会の進行に合わせながら護衛を行い、襲撃の際には即座に対戦、捕縛することを目標とするのだという。

騎士はメイドの動きが分からないことには扮することが出来ないため、本職にも来てもらい、手伝ってもらうことになった。

着替えの時点で、護衛として長剣を携えるわけにはいかず、騎士たちは頭を抱えた。

メイドたちは引き締まった同性の体つきに感動し、密かに体を鍛えてみたいと考えていた。


「はーい。では着替えが終わったようなので、参加してくださっている侍女長さんも含めて、半分の方は着席してください。残り半分の方は侍女役です。あとで交代しますね」

「はい」

「・・・・ではー、アドソンさんお願いします!」

大きな声でアドソンを呼んだサクラを、モースがこめかみを押さえながら睨んでいる。

ホーマンは苦笑しており、ウィスカーは肩が震えている。

大声の一番犠牲になったペアンは、両耳を伏せて震えている。


大広間の扉が勢いよく開いて、アドソンが飛び込んでくる。

「よーし、まずは正面突破からだ。いくぞー」

騎士の訓練用の剣を両手に持ち、ステップを踏んでいるアドソンは楽しそうだ。

アドソンの髪がふわりと持ち上がっているのは、風の魔力なのだろうかとサクラは観察する。


「相手は刃物を持っている。私たちは素手で押収するしかないのか」

「剣に惑わされるな、もしかしたら魔術師かも知れない」

「テーブル周りを囲め」

騎士たちはテーブルごとに近くに居る者同士でコンタクトを取っている。

侍女たちは聞いてはいたが、魔力を込めて剣を振ろうとしているアドソンに怯えている様子だ。

騎士たちが間合いを詰める瞬間、大広間の天井に届かんばかりの跳躍と華麗な回転を決め、アドソンは想定されたメッツェンの椅子に座ったのだった。


パンパンと二回手を叩き、サクラは立ち上がる。

「はい、アドソンさんの勝ちー。さて、騎士様方は椅子に座って、今の襲撃の中で気づいたことを紙に書いてくださいませー」

ホーマンとモースがペンと紙を配ってくれる。

予想外のアドソンの動きに震えているメイドたちには、淹れたてのお茶をサクラとウィスカーで配る。

メイドたちにも王女の身に危険があったときは、自分たちで守らなければならないと、サクラは説明する。


「神殿内の剣を持ち込めない場所での襲撃だったらどうする?」

「それよりも入口を開けてすぐに魔法を打たれたらどうすればいい?」

「殿下の近くでの護衛となると他の令嬢も護衛しないといけないな」

「・・そうか、今日は侍女だけだが、王女殿下主催のお茶会ならば、周囲は高位の貴族令嬢ばかりなのか・・・」

「もし本当のお茶会であれば、騎士服かドレスね。ドレスで戦闘しようなんて考えたことはないけれど、お茶会で招待客として護衛をするならそれも必要なのよね」

騎士たちは今回の訓練の意図を的確に理解してくれたようだ。


一通りまとまった様子が見られた為、サクラは騎士とメイドに、使用人と招待客の役割を交代するように伝える。

「はーい、では先程の役回りと交換です。同じような流れで行きますので、招待客の役割の方は作法は捨てて良いです。アドソンさん準備は出来ていますかー?」

「いつでもいいぞー」

先程は行ってきた扉とは別の扉から外に出て、返事をするアドソン。

「はい、こちらの皆さんは席に着きましたね。ではお願いしますー」


「・・・お前ら、この方がどうなっても良いのかー」

「ちょっと・・・メッツェン様が参加してどうするんですかっ」

大きく開いた扉の向こうに、メッツェンの首元に模擬剣を突き付けたアドソンがいた。

思わずサクラはツッコミを入れてしまう。

モースのサクラへの視線が突き刺さって痛い。

ホーマンとウィスカーの肩が震えており、ペアンが耳を塞いでいる。


件の被害者となったメッツェンは、いつもの優雅な動きで扇を広げ、口元を隠して語る。

「・・・面白そうだから来てみたのよ。アドソンが犯人役なら、囚われの身がいた方が訓練に身が入るでしょう?さぁ貴方たちはどう動くのかしら?」

「犯人の俺からの要求は、お前たちは全員武器を捨てて、俺を見逃せというものだー」

とんだ茶番だが、絶対起こらないとは言えない事例のため、騎士たちは考え始める。


先程は怯えていたメイドたちが真っ先に声を上げた。

「わっ、私たちは武器を持っていません!」

「殿下に傷一つつけることなくお助けせねば」

「こういう時は動かない方が良いですか?避難を開始しますか?」

「犯人の注意をこちらに引き付けられないか?」

「待て、無駄に動けば王女に被害が及ぶかもしれない」

「そもそもあの状態になる前に何か対応出来なかったのか」

「いや、あんなにノリノリで訓練すると誰も思わないぞ」

今度は騎士たちの他にも、メイドたちが他の令嬢の避難の仕方を検討し始めている。

舞踏の魔術を持つ騎士と歌の魔術を持つ王女が、何をしでかすか分からない状況で、不敬な発言も飛び出ている。


サクラは小さく頷き、声を張る。

「はーい、全員停止してくださいー。・・・メッツェン様・・・ご参加ありがとうございます」

「もう終わりなの?残念。まぁ、楽しかったから構わないわ。今回の訓練はクラが考えたものなのよね?」

「はい、女性騎士様の活躍の場面は、屋外の襲撃だけではないと考えたので。本来なら、この回はオニゴッコをしたかったのですが・・・」


サクラは揃えた指先を騎士たちに向け、紹介する。

急に話を向けられた騎士たちと、巻き込まれた形のメイドたちは、背筋を伸ばして頭を下げる。

視線を誘導されたメッツェンは、扇で口元を隠したまま、よく通る声で激励する。

「そう・・・騎士たちはあたくしに仕える以上、訓練に励みなさい。あたくしは実利を求めるわ。弱い騎士など必要ないの」

「はっ」

「メイドたちはあたくしのためにそれぞれの仕事に励みなさい。綺麗な宮で快適に過ごしたいわ」

「はいっ」

騎士とメイドたちの返事を聞き、メッツェンは小さく頷き、扇を閉じる。

アドソンがいつの間にかワゴンでお菓子を持ってきていた。

「分かってくれたなら良いわ。これはあたくしからの差し入れよ。この後、皆でお茶とお菓子を食べなさい。この場所は好きに使って良いわ」

「・・・ありがとうございます」


メッツェンとの会話が終わるころ、既にウィスカーとモースで紅茶を淹れている。

アドソンとホーマンでお菓子を配っており、大広間は和やかな空気で満たされている。

メッツェンは皆が食べ始めるまで大広間の隅に座っている。

「サクラ、訓練が終わったらアドソンと一緒に、報告に来なさいね」

「畏まりました。ご観覧ありがとうございました」


サクラはメッツェンに一礼する。

お茶に合流しようと動き出したサクラを捕まえて、モースからのお説教が始まるまであとちょっと。


 夕方までに休み以外の全員が呼ばれお茶と菓子が振る舞われることになり、休みの者にも菓子が届けられた。

女性騎士とメイドたちは、数日おきに王女宮の至るところの危険性を検討し、戦闘となったときの対応を考える会派を作るに至る。

「お茶会は女の戦場だと母上から聞いていたけれど、まだまだ勉強が足りなかったわ」

騎士の一人が後に同期に愚痴ったとか、なんとか。

いや、そっちの戦場じゃないです。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます

連日23時にアップ予定です。

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